34話 コボルト
フユラ村へと向かう荷馬車の周りに、気配感知で幾つもの反応を捉えた。
草木の高さが高い為、視界にはその正体は映らない。
「ザックスさん、このままじゃ囲まれるよ?仕掛ける?」
「いや、ちょっと待て。干し肉か何か持ってないか?」
亜空間収納の昼食用の食材から、適当な数の干し肉を渡す。
「コイツらはコボルトだ!」
ザックスは干し肉を受け取ると、荷馬車の後方へと投げる。
すると、周りにあった反応が一斉に後方へと移動した。
「コボルトとやり合うなら、ここではダメだ。奴等はずる賢い。待ち伏せ、挟み撃ち、奇襲。死角を利用して何度も攻めて来る。この一帯では、奴等は巻くに限るんだよ」
うーん。でも、姿をちょっと見て見たい。コボルトって言えば多いイメージは犬系の人型魔物だよね?
「あ、他にも居ますね。挟まれる前にちょっと俺行ってきます。直ぐに追いつきますので先に行ってください」
「ちょっ!師匠っ!」
荷馬車から飛び出し、気配感知の反応場所にアイスを放つ。五体中、三体が氷漬けになり、残り二体は足と腕が凍っている。
「あれ?これがコボルト?」
目の前に居たのは、見た目はベージュ肌のゴブリンで、耳が長く少し体毛がある。遠目に見たら、ギリギリ犬っぽいかな?
念のため鑑定してみると、種族はコボルトになっていた。
「色違いのゴブリンって感じだけど違うのか」
『おい!誰か助けてくれ!ここに人間がいるぞ!』
仲間を呼び始めたので、早めに始末するとしよう。
「【弱肉強食】頂きます!」
ガブリと首元を噛みつく。技能を発動すると、噛む力が異常に強くなる事が分かっている。コボルトくらいなら難無く噛み千切れる。
「美味っ!」
『仲間がやられたぞ!』
旨味の余韻に浸りたいのに、次から次に反応が現れ、アラヤの逃げ道を塞いでいく。
「もう、邪魔だなぁ!」
余韻に浸っている時のアラヤは、邪魔される事を非常に嫌うようになっていた。
エアカッターで草木を飛ばし、見えたコボルトを次々とポイズンバイトで噛みちぎっていく。戦い方が獣っぽく見えるが、武器を出すのも面倒と感じる程に、敵が集まってくるのだ。
気配感知で、背後を取らせないようにはしているが、こうも数が多いと間に合わなくなる。
「ダークブラインド!」
辺り一帯を暗闇にして、アラヤは真上に跳躍する。下を見下ろし、全ての敵に照準を合わせてサンダーランスに技能の【一点突貫】を乗せてみる。
『グキャァァァァ‼︎』
通常のサンダーランスよりも、威力と貫通力が増している。魔法と技能の同時発動は成功だと言えるだろう。
既に旨味と快楽の余韻は終わっていて、新たな技能【超聴覚LV 1】を覚え、【隠密】がLV 2に上がった。
「また集まる前に戻ろう」
もうコボルトには用はないと、アラヤはムーブヘイストで荷馬車を追いかけた。
「あっ!師匠、来ましたよ⁉︎」
しばらく走ると開けた場所があり、そこで荷馬車が待機してくれていた。
アラヤは慌ててムーブヘイストを解除して減速する。ギリギリ何とか馬車の手前で止まれた。
「な、心配要らなかったろ?コイツは馬より速いから直ぐに追いつくって」
「本当でしたね。流石、師匠です。でも、どうして口の周りが血だらけ何ですか?」
「ああっ⁈こ、これは、コボルトに肩を掴まれたから、その腕を噛んだ時の返り血だよ?」
うっかり拭う事を忘れてたよ。とりあえずウォータで軽く洗顔する。今度からは、もっと気をつけなきゃね。
「アラヤ、あんまり単独行動は控えてくれよ?お前自身は大丈夫でも、俺一人でこの三人を守る自信は無いからな」
「はい、すみません。ちょっと好奇心が沸いちゃって。次からは気をつけます」
次からはさりげなく食べるしかない。何か方法を考えないとね。
「もうしばらく走った先に、野営できそうな場所があるんだ。そこに、夕方までには着きたい。直ぐに出発するぞ」
再び、ゆっくりと走り始める荷馬車。村長に止められているけど、グラビティを使っちゃう?かなり早く着くと思うけど。そう思っていると、タオがアラヤの隣に座る。
「師匠、今晩、魔法の練習を見てもらえませんか?」
「練習?うん、良いよ。ウォータのいろいろな使い方も教えるよ」
「ありがとうございます!」
「わ、私も…」
「もちろんだよ、ハル」
ニコッと、微かな笑みを見せてくれる。うん、村で会ったばかりに比べてたら、二人共すっかり元気になったね。直ぐに村に帰ったら、こういう触れ合いも無くなるんだよね。
それを考えると、ゆっくりと帰るのが二人には良いのかもしれない。
村に帰り着くと、友達やらを失った事を思い出してしまうのは間違いない。
今は現実逃避をしても構わない。なんなら、それを乗り越えるくらいの楽しい時間を過ごしてもらおう。
「皆んなは、自分の職業って知ってる?」
「ヤブネカ村の村長さんに、教えてもらいました。僕は絵師らしいですけど、あんまり絵を描いた事無いんですよね」
「大丈夫だ、タオ。俺の初めの頃の職業は木こりだった。だけど、ヤブネカ村に住んでからは斧兵に転職したんだぜ?職業は、必ずしもそのままとは限らないんだよ」
それ初耳なんですけど⁈いや、転職と言っても得意武器はそのままだからクラスアップ的な変化じゃないかな?
「因みに技能の事は、村長から教わったんですか?」
「ん?村長に言われたのは、守衛になったのに、貴方は斧を使いなさいと言われただけだな」
説明無しか…。村長も、興味ない事は適当になるからなぁ。
「技能ってのは、いわゆる技ですね。その技能名を唱えるだけで、特殊な力や技を使う事ができるんです」
「なんか、魔法みたいですね」
「その魔法も技能の一つなんだよ」
ここは一つ、試すのが手っ取り早いね。ザックスさんの技能は、荷台で試すわけにもいかないから、ここはタオ君の技能、空間認識を試してみよう。
「タオ君、空間認識って唱えてごらん?」
「空間認識!うわぁ!」
彼の目には、自分を中心に光の波動が広がっていき、この荷馬車周辺の形状が、例え死角であっても全てを理解できた。
アラヤは亜空間収納から木版と手作り炭筆(芯が炭をすり潰して固めた鉛筆もどき)を取り出して、タオに手渡す。
「次はデッサンと唱えて、モドコ店長の似顔絵を描いてごらん?」
「分かりました。デッサン!」
すると、炭筆を持つ手が自然と動きだし、御者中で、顔が見えないモドコ店長の似顔絵をスラスラと描いていった。
「うわぁ、上手く描けたな」
皆んなが感心してしまう出来のデッサンが完成した。これで技能というものを理解してくれたみたいだ。
「俺の技能は?」
「教えますけど、ザックスさんのは荷馬車内では使用できませんよ」
残念そうに口を尖らせてるけど、可愛くありませんよ?おじさんがやったら嫌われるのでやめましょうね?
「ししょ~…私のは?」
「は、ハルちゃんの技能も、ここじゃちょっと無理かな?いろいろと検証が必要だろうね」
ハルちゃんも残念と口を尖らせる。うん、君は可愛いから、ちゃんと一緒に調べようね。怖い技能の可能性もあるからね。
皆んな、またもや試したいとウズウズしだしました。夕食後が楽しみだね。




