25話 貪る者
洞窟の出口に近くなるにつれて、外での声や金属音等が聞こえてくる。
「サナエさん!出過ぎだ!少し退がれ!」
「マワリコンデ、カズデオシコメ!」
おかしい。口の中がさっきから唾が沢山出る。口の中全体に旨味が広がっている感覚がある。何も食べてもいないのに。
頭も少しだけふらふらする。気持ち良い酔いに浸っているようだ。
『血液・唾液捕食による技能吸収が100%に到達しました。言語理解を習得しました。感覚共有が40%亜空間収納が20%剣技5%と、捕食量不足により習得出来ません』
あぁ、アヤコさんのキスで言語理解を習得したのか。どうりで魔物の言葉が分かるのか。
『捕食吸収による技能習得が10種を超えました。条件取得により暴食王のレベルが昇華します。昇華ボーナスにより、特殊技能弱肉強食LV 1を習得しました』
「特殊技能…?」
聞き慣れないワードに疑問符を浮かべるも、目の前の戦いに思考が切り替わる。
「エアカッター!」
守衛達が苦戦していたところへ、アラヤは、攻勢だったゴブリンを魔法で数体斬り飛ばして助けに入る。
「アラヤ!アヤは無事⁈」
「うん。大丈夫だよ!今、子供達と中に居る」
サナエさんは安堵の表情を見せる。うん、気持ちは分かるけど、まだ終わってないからね。俺もちゃんと集中しないと!
「キサマ‼︎イマ、マホウツカタナ⁈」
ゴブリンキングが、アラヤに向かって大剣を向ける。このゴブリンキング、実はかなりヤバイ奴だった。
「ソノスキル、オレサマモラウ!」
コイツの鑑定結果がこれだ。
????
種族 ゴブリン種 (キング) 雄 age ??
体力 806/806
腕力 311/311
耐久力 214/214
精神力 35/35
魔力 41/41
俊敏 163/163
魅力 12/100
運 31
状態 正常
職種 ???
技能 貪る者LV 1 鑑定LV 1 亜空間収納LV 1 言語理解LV 1 身体強化LV 2 物理耐性LV 1 魔法耐性LV 1 気配感知LV 1 威圧LV 1 一点突貫LV 1 剣技LV 1 槍技LV 1 弓技LV 1 自己再生LV 1 毒耐性LV 1
ステータスも高い上に、もの凄い技能の数だ。それに、コイツの言動も気になる。
「オマエ、カンテイデキナイ?ナゼ?マホウカ?」
しかも鑑定を使っているという事は、技能を理解して使いこなしているという事だ。
「ライナスさん!周りのゴブリン達は任せて良いですか?」
「ああ、任せな!サナエさんの踊りが有れば余裕だぜ?」
サナエさんの戦士達の鼓舞が、ライナス達を無双状態にしている。まぁ、相手がゴブリンだからだけど、舞が視界に入る仲間限定での能力上昇。やっぱり踊り子最高だよね。
ゴブリン達はライナスさん達に任せて、俺はゴブリンキングを引きつける事にした。洞窟から離したい事もあるけど、コイツには聞きたい事があるからだ。
「デカゴブリン!俺の技能が欲しいんだろ?こっちに来いよ?」
「キサマ!オレバカニシタナ⁉︎オレサマハオウダゾ‼︎」
アラヤの簡単な挑発に乗り、ゴブリンキングは追って来た。少し開けた場所に誘い込むと、振り向き様にエアカッターをお見舞いする。
「グォッ⁈」
首や腕に命中するも、その威力は魔力耐性で軽減されて、大したダメージになっていない。付いた傷も、時間が経つにつれて塞がっていく。
「グフフ、ソンナモノカ?」
魔法が脅威ではないと感じたゴブリンキングは、大剣を構えて間を詰めてくる。
アラヤは威力が少ないと分かりつつも、アイスとエアカッターで牽制して一定の距離を取る。何故なら、アラヤは防具を着けていない。理由は単に彼の怠慢なのだが、何者も俊敏の高さで彼に勝てなかった為、防具を着けない事に慣れてしまっていたのだ。
保護粘膜を体全体に纏わせているが、あくまでも衝撃緩衝材代わりでしかない。なので、ドワーフ並みの腕力のキングの一撃を受けてしまうと、アラヤもただでは済まないというわけだ。
「チョコマカト、ニゲルサルメ!」
ゴブリンキングは剣を地面に突き刺して、ガウ!と吠えると、目の前に黒い渦が出現した。その中に手を突っ込み、渦から抜いたその手には弓と矢筒が掴まれていた。
「亜空間収納⁈」
見惚れてる場合じゃない。キングは直ぐに弓を構えて、アラヤに矢を放ってきた。
その精度は高く、かろうじてショートソードで叩き落す。速さはまだ対応できる速さだ。やはり、職種が弓使いと違うからという事だろうか。しかし、弓技が脅威なのは変わらない。
三連射、追尾する矢と、次々と弓技を使用してくる。
「グラビティ!フレイム!」
アラヤは魔法で回避しつつ、反撃の機会を狙う。
「フハハ!オレハオウダゾ!ムダナアガキダ!」
「なぜ技能をそんなに持ってるんだ⁈」
「ソレハ、オレガエラバレタカラダ!オレハマモノノオウ、ボウショクオウナノダ‼︎」
「暴食王?お前が?」
「ソウダ!オレサマガタベレバ、スキルヲウバウ!タベタラウバウ!マサニ、ボウショクオウタルユエン!」
おそらく、それは技能貪る者の能力で、これはきっと捕食吸収の下位互換にあたる技能だろう。
「お前はあの日、あの洞窟に居たクラスメイト達を食べて技能を手に入れたのか!」
「グハハ!アレハヨカッタゾ!カッテニキタ、ニゲマドウニンゲンドモヲ、ムサボリタベルダケデヨカッタノダカラナ!ヨウイシタアノモノタチニ、カンシャダナ!」
「用意しただと⁈」
「キサマニハ、カンケイノナイハナシダ!オレハヤツノイウトオリ、ボウショクオウニナッタ!アトハマホウヲオボエレバ、マジンドモニフクシュウデキル!」
「それで子供達を狙ったのか!」
「トウゼンダ!コノヘンノオオキイニンゲンドモハ、マホウモタナイヤツバカリ!ナラバコドモネラウ!オレサマカシコイ‼︎」
勝手にいろいろと答えてくれる。気持ちに素直な奴だな。しかし、勘違いは正してやらないと。
「悪いけど、暴食王は俺だから」
「フ、フハハハハハッ‼︎キサマ、ヨワイニンゲン。ボウショクオウ、ナレナイ」
うん。弱いのは分かってる。でも、ただ貪られるだけの存在ではない。
あの日、あの場に居たクラスメイト達。決して好きな奴達ではなかったけど、悪戯に蹂躙されて殺されるのを喜べる程、俺は憎んでもいなかった。
子供達もそうだ。あの教室に漂う血の匂いと壊された木箱は、まだ最近のものだった。ヤブネカ村以外の村の子も、攫われて食われたのだろう。
俺はコイツを許せない。しかし、それは殺されたクラスメイトの所為じゃない。
俺はコイツを逃がさない。しかし、それは大切な人々の為じゃない。
俺はコイツを喰らいたい。そうだ、これが今の俺の本心だ。体が、心が、魂が、俺にアイツを喰えと訴える。
俺は今、自分が自分じゃない感覚に捕われている。俺の脳内で、あの技能が浮かび上がる。
【弱肉強食】
「お前を喰らう!」
アラヤは勢いよく飛び出した。キングは弓を構えるも、その弦をエアカッターが切り裂く。キングは直ぐに亜空間から大剣を掴んで取り出した。
「フレイム!」
「グァァッ‼︎」
そのタイミングを狙って目をフレイムで焼いた。堪らず大剣を離して目を抑えるキング。暴れている間に、鎧の繋ぎを斬り装備を外してやる。
「グラッ‼︎キサマ!ユルサナイ!」
既に目も回復している。やはり、小さなダメージでは倒せない。
キングは大剣を掴んで斬りかかってくる。アラヤはショートソードで受け流しながら後退った。やはり剣撃は強く、まともに受ける事は出来ない。
「ヤハリ、ケンハヨワイナ!」
キングはこれだと、立て続けに剣撃を浴びせてくる。
隙を見て、再び目を焼こうとしたその時。
「ツカマエタ!」
その腕を掴まれ持ち上げられる。保護粘膜を貫く爪で左手に激痛が走る。
「キサマノスキル、ウバッテヤル!」
そのままその腕をガブリと噛み付いた。アラヤは痛みで叫び声を上げてしまう。
「アラヤ‼︎」
「アラヤ君‼︎」
後方で誰かの声が聞こえたが、それ以上に頭に声が響き渡る。
喰らえ‼︎ 喰らえ‼︎ 喰らえ‼︎ 喰らえ‼︎
腕を噛まれた状態で、ゴブリンキングの首元にアラヤも噛み付いた。
「グガッ⁈」
その顎の力に驚く。強靭な自分の体を、小さな人間が噛みちぎろうとしている。メキメキ、ブチブチと筋肉が千切られる痛みで、ゴブリンキングはアラヤを放り投げた。
おかしい。自分が噛んだ小さな腕は、歯型がついて血が滲んだ程度で終わっている。確かに噛み千切る寸前だったはずなのに。
ゴクッと喉を鳴らすアラヤは、光悦な表情を浮かべていた。その姿に、ゴブリンキングは無意識に後退る。
「ナ、ナンナンダ!キサマハ!」
「言ったろ?俺が暴食王だって」
後退りながら、痛みの引かない首に手を当てる。掌には大量の血が付いてきた。回復していない。なぜ?どうなってる?混乱するゴブリンキングは、木の根に躓き尻餅をついた。
「美味しかったぞ。じゃあな」
ショートソードを胸に当て、一点突貫で貫いた。ゴブリンキングは困惑した表情のまま、絶命して横に倒れた。
「アラヤ‼︎」
振り返ると二人が駆けてくる姿が見えたが、急な眠気に襲われ地面に倒れてしまった。二人が呼びかけているが、ごめん。今はこの余韻に浸らせてくれ。
ゆっくりと瞼を閉じて、そのままアラヤは眠りについたのだった。




