13話 野外訓練と仕事人?
ライナスとの訓練から一週間後、ようやく休みをもらって村からの外出が出来た。
布製の大きなバックパックに、必要と思う道具類は詰め込み準備万端だ。
「何かこういうのってワクワクするね。ピクニックみたい」
「いや、訓練だよ?アヤコさんは危険だから付いて来なくて良かったのに」
「えぇ?だって、二人だけで出かけるなんて、仲間外れにされたみたいで嫌だったんですもの (ふふふ、デートなどさせませんよ)」
本来なら二人だけで行く予定だったのだが、仕事の休みをもらって、しかも日にちを合わせている事に気付いたアヤコさんが、村長に自分にも休みを!と頼み込んで今に至る。
向かう先はロハムムの森だ。生息している魔物は、主にホーンラビット (ウサギ)とワイルドボア (イノシシ)らしい。ライナスさんも、お前達なら問題無いだろうと見送ってくれた。
「アラヤ、アヤコにも訓練させたら?」
「いや、彼女の場合は戦闘には向いてないよ。ん~…強いて上げるなら、戦況を遠くから離れて指示を出す司令塔かな?訓練より戦略を学んだ方が良いかもね」
「それでも、身を守る術はあった方が良いだろ?私達が側に居ない場合もあるんだからさ」
それもそうか。サナエさんに言われて、彼女に合う戦闘スタイルを模索する。近接武器は無理そうだから、弓や魔法を頑張ってもらうかな?でも、伝道師って魔法って覚えられるのかな?
「私って、運動音痴だもんね…得意な事ってトランペットを吹くくらいだし」
「ああ、アヤは吹奏楽部だったね。でもトランペットだった?クラリネットだと思ってたけど」
「うん。部活はクラリネット担当だったけどね。好きなのはトランペットだよ」
「トランペットね……あぁ、地味な武器ならあるか…」
「え?あるなら教えてよ、アラヤ君」
アラヤは、彼女の武器となりうる物を思い付いたが、正直言ってオススメしない。これは交戦武器ではなく暗殺武器として多くは用いられるからだ。
「……吹き矢だね。仕込む矢の毒によって効果を発揮する武器だけど、相手に見られたら防がれる可能性が高い。暗殺が前提の武器だよ」
「吹き矢…!必殺仕○人的な⁈…背後からヒュッ!みたいな感じで……うわ、カッコ良くない?」
「へ?あ、ああ。まぁね」
思ってたよりも好反応で、サナエさんもどうするの⁈とこっちを見るが、まぁ本人が気に入ったなら仕方ないんじゃないかな。後々には新たな武器を考えるとして、とりあえずは吹き矢を頑張ってもらうとしよう。大体、サナエさんが言い出したんだからね?
「吹き筒は帰ったら準備するけど、矢に塗る毒は、今回の訓練ついでで集めて行こうか」
「毒?」
「そう。吹き矢の醍醐味は毒だよ。毒にも色々あってね。慢性毒なら麻痺毒・神経毒・発癌毒等。暗殺なら即効性の急性毒が一般的に使われる。まぁ、致死量の猛毒だね」
「どうやって集めるの?」
「主に爬虫類・昆虫・魚類・植物が毒を持ってるよ。この世界じゃ魔物も持ってるだろうけどね。見つけたら、容器に入れて持ち帰ろう」
鑑定持ちの村長に見つかったら、大目玉では済まないだろうけどね。
そうこう話をしているうちに、ロハムムの森の入り口へとたどり着いた。
「それじゃ、訓練開始といきますか」
先頭をアラヤが索敵と鑑定を行いながら進む。薬草と毒草を見つけたら採取する為だ。
しばらく進むと、索敵に反応が現れた。数は三体、小型の魔物のようだ。隠密を発動して一人で先に確認をする。
反応があるその先には、頭に一本の角を生やしたウサギの魔物、ホーンラビットが薬草を食べていた。
『ホーンラビットだったよ。サナエさん、俺が裏から追い立てるから、挟み撃ちしちゃおう』
アヤコさんを介して念話でやり取りをする。短刀を取り出し身を潜めると、サナエさんも配置についたようだ。
『じゃあ、行くよ?3、2、1、今‼︎』
「キュイッ⁈」
突然の奇襲に驚いたホーンラビットは、身動きも取れないまま斬り伏せられる。サナエさんは少し躊躇ったものの、見事初討伐完了である。今回のチャクラムは練習用ではなく、外輪部分には鉄の刃が取り付けてある。なので、その重さの感覚と斬れ味に慣れないといけない。
「うわ、グロい…」
「うん、慣れなきゃね。解体して昼食用の肉にしようか。アヤコさんも手伝ってね?」
解体用に持って来たナイフを二人に手渡す。今回は逃がさないよ?顔を引き攣りながらも、二人は解体を始めた。精神力が上がるかもね?
「薬草も手に入れられたし、出だしからついてるね」
「「……」」
二人は少しげっそりしている。いや、この肉も結構美味しいらしいよ?それに、ワイルドボアも同じように解体するからね。
それからは、薬草採取とホーンラビットを狩りながら奥へと進む。ベリー系の木の実も見つけたので、彼女達に教えて採取させる。これで少しは気が紛れてくれれば良いのだけど。
「そろそろ休憩しようか」
少し開けた場所に来たので、バックパックから木製の折りたたみ机を取り出す。その上にすり鉢と木皿を置き、先程採取した木の実を並べる。濾し布と塩などの調味料もちゃんと用意してあるよ。
「二人はソースを作ってもらえるかな?俺は火を起こして肉を焼くから」
「分かったわ。ソース作りはベスさんに習っているから任せといて」
素材の味だけじゃ物足りないからね。サナエさんは色々と習っていたらしい。とても有難いね。調理スキルもあるなら、いつかは欲しいなぁ。
サナエさんは磨り潰した木の実を濾して、塩等で調整してソースを仕上げる。補助しか出来ないアヤコさんは、やや申し訳なさそうにしている。まぁ、今回は仕方ないよ。彼女の役割を想定して準備してないからね。
串に刺した肉もいい具合に焼けたし、お腹の虫も鳴り出したし、早めの昼食といきましょうか。
「さぁ、頂こうか」
「「いただきます」」
木の小さじで、こんがり焼けた肉にソースを少し掛けて齧り付く。
「美味っ!絶妙な酸味と塩味で、肉の旨味が増してるよ!」
「ふふっ、だろ?私も、伊達に味見を繰り返してたわけじゃないんだよ?」
「ううっ、美味しいですぅ。何か、女子力に差が付けられた気が…」
何故か泣きながら食べるアヤコさん。そこまで感激するとはね。
食後の休憩を取った後は、食べたカロリーを消費しないとね。再び、訓練を再開して森奥へと向かう。もちろん、狙いはワイルドボアだ。
途中、トリカブトに似た毒草を見つけたので、慎重に採取して包装する。帰ったら吹き矢用の毒薬を作るとしよう。
しばらく進むと、獣道と足跡を発見した。索敵の反応もこの先にある。数は二体、昼寝中のようだ。
「魔法で退治するのは簡単だけど、サナエさん、ここはチャクラムの投擲練習といこうか」
「分かった。やってみる」
振り子のように反動をつけて、勢いよく投擲する。技能の感覚補正により、角度とタイミングは自動補正される。
チャクラムは寝ていたワイルドボアの横腹に勢いよく刺さった。
「プギィィィッ‼︎‼︎⁈」
その声に驚き、隣で寝ていたもう一体も目を覚ます。命中したワイルドボアも、絶命するには至らず体を起こした。
「俺が注意を引きつけるから、サナエさんはトドメを刺して」
二体の注意を引き受ける為、アラヤは茂みから飛び出して石を投げる。
「プギィッ‼︎プギィィィッ‼︎」
二体のワイルドボアは、照準をアラヤに絞り、自慢の鋭利な牙による突進の一手に出た。
アラヤは短刀で牙を逸らして回避する。一体を躱した後、時間差で来る二体目を待ち受けようと構えるが、視界から突然消える。
「うらぁぁぁっ‼︎」
サナエさんが、刺さったチャクラムを掴んでしがみ付きながら斬りつけている。
「サナエさん‼︎」
無理な体勢から斬りつけても、大したダメージを与えられない。余計に怒りを買い、暴れ方が酷くなった。彼女は振り落とされる前に、何とか無事に着地をできたようだ。
『コイツは私が仕留める‼︎』
抜き取ったチャクラムを構えて、体勢を整えている。やる気は充分に満ちているようだ。一箇所に留まらず、しっかりとリズムは忘れていない。大丈夫だ、あの一体は任せよう。残りの一体を、邪魔させないように足を切り落として喉元を刈る。ワイルドボアは声を上げる事なく絶命した。
『サナエちゃん、凄い‼︎』
振り向くと、突進を躱しては斬りつける、彼女の奮闘がが続いている。うん、出だしよりリズムに乗ってきている。相手の呼吸を読み取り、リズムを支配する戦い方。今の彼女に合ったスタイルだろう。
「ふぅ~。しんどかった~」
「お疲れ様。大分チャクラムの重さにも慣れてきたみたいだね」
息絶えたワイルドボアを背に彼女は座り込んだ。
「技能を使わずにここまで戦えたんだ。凄い成長だよ」
「あんたがそれを言う?」
「そうだよねー」
そう言って二人は笑い出した。そう言えば、俺は身体強化されてるって言ってなかったっけ。まぁいいかな。
「それじゃ、今日はこの辺で帰ろっか?」
「賛成~。ちょっと疲れたし」
「あ、もちろん、解体が済んでからね?」
「「ええ~~っ⁉︎」」
二人の嫌がる叫びが、森の中に響き渡った。だって、粗末にできないでしょう?これからも続く異世界生活は、決して楽じゃないんだよ?




