10話 スキルの練習とステータス
夕食後に自宅に帰って来た三人は、居間に集まって今日の報告を始めていた。
アヤコから、村長から渡すように頼まれたという一枚の木板を受け取った。そこには、表らしき枠の中に見た事の無い文字が刻まれている。
「これが、アラヤ君の日程表らしいです」
「うん、分からんね」
「ちょっとルビを書いてくね」
アヤコは万年筆を取り出して、木版にカリカリと書いていく。
「万年筆なんて持ってたんだ?」
「うん。おばあちゃんから貰った入学祝いなんだけど、御守りみたいに持ち歩いてたの。こっちの世界に持って来た唯一の持ち物かな」
「そっか。こっちに持って来た物と言えば、俺は財布とハンカチくらいかな。後は携帯とかはバックに入れてたし。まだ教室にあるかな?」
「私もハンカチくらいしか持って無いわ。教室にあるとしても、取りに行く気は無いわよ?」
「分かってるよ」
この世界で生きる為に、今は前を向かなきゃいけないからな。
「これで良し!はい、出来たよ」
渡された木版は一週間の仕事表で、午前と午後に分けて書いてある。
「この、月神日、火神日ってのは曜日かな?」
「そう。この世界でも七日で一週間。一月は約四週間。一年は365日あるみたいだよ」
「そっか。じゃあ、この緑神日は木曜日、空神日は金曜日、天神日が日曜日って事か。月神日は、午前中が畑仕事。午後は製材所か。なるほど、じゃあ、今日は空神日だったわけか」
「それと、今日は本当にごめんなさい。これが、情報と交換で借りた地図とこの世界の歴史書です」
「地図は何となく分かるけど、本類は字が読めないからなぁ…」
「そこで!先生となった私からの二人にプレゼント!この世界のひらがな表です!」
「「お、おお…」」
新たに渡された木版には、一つ一つの文字に、発音と日本語での意味が書いてある。少し混乱しそうだ。
「おはようを現地語で言うと、リチサワって発音になるよ。これを見ながら、読み書きを覚えましょう」
「うん。頑張らなきゃならない課題だね。じゃあ、今度は俺からの課題だよ。今日から、各自で技能の練習をしてもらう」
「技能の練習?」
「そう。この苦しい異世界生活で、自分に与えられた特別な力。それが技能なんだけど、実は熟練度レベルがあるんだ。そのレベルが一つ上がると、その能力が飛躍するんだ。俺が持つ鑑定技能が、実は今日レベル2になった。理由は簡単で、一日中、何度も村人達を鑑定していたからだ。レベル2なったおかげで、今まで見えなかった二人のステータスも見られるようになったよ」
「な、何よ?私達のステータスって。まさか、変な物見えてるんじゃないわよね?」
ひょっとしてスリーサイズ⁈みたいな反応だけど、残念ながらそこは出てないよ。あと1レベル上がれば、体重とかまで分かるかもね。
「ステータスっていうのは、個人のパラメータ。つまり、体力や筋力、魅力とかを数値化して出しているデータだよ。これは、個人で全然違うんだ」
しかも、今回気付いたのだけど、俺の各ステータスの最大値が増えてるんだよね。
以前見たステータスは、
倉戸 新矢
種族 人間 (ハイヒューマン) 男 age 17
体力 150/400
攻撃力 184/250
耐久力 200/200
精神力 150/150
魔力 250/250
俊敏 250/250
魅力 55/100
運 28
それで今回、
体力 452/452
攻撃力 280/280
耐久力 216/216
精神力 163/163
魔力 268/268
俊敏 253/253
魅力 62/100
運 29
と少しだけ上がっているのだ。ゲームみたいにレベルでステータスが上がるのと違い、鍛えた分だけ上がっていくみたいだ。
因みに、ライナスのステータスがこれだ。
ライナス
種族 人間 (ノーマル) 男 age 38
体力 280/280
攻撃力 183/183
耐久力 142/142
精神力 98/98
魔力 45/45
俊敏 103/103
魅力 51/100
運 22
この村で鑑定して見た限り、村人内ではライナスが1番ステータスが高かった。
この世界にゲームのようなレベルという概念があるなら、ライナスがLV10くらいで、俺がLV20といった感じだろうか。この世界では、鍛える分野が違えば、全く違う強さになる。個人にレベルが無い事で、相手の強さを知る事は容易ではないようだ。
「技能のレベルが上がるというのは、簡単に言うとその技を極める、プロになるって事だよ」
「えっと…それじゃあ、いっぱい練習すればレベルは上がるんですね?」
「ちょっと!私のは全部舞いなんだけど⁈」
「大丈夫。鑑定レベルが上がったおかげで、二人の技能の能力も分かったから。それに合った練習法を教えるよ。先ず、アヤコさんは…」
彼女の練習法は、自宅に居る時は念話で会話をする。この時に感覚共有も使用すること。
外部に居る時は、コール (認知の相手と遠距離念話できる)か、メッセージ (指定した対象にのみ視認可能な文字を書ける)と念写 (一度見た映像を、物体に複写できる。メッセージと兼用可)を1日一回は使用すること。
「分かりました。頑張ります!」
「そして、サナエさんは毎日、自宅で全ての舞を必ず踊る事。それと、戦闘訓練もやろうか」
「戦闘訓練⁈」
彼女の技能の舞は、鎮魂の舞は対アンデットの舞。戦士達の鼓舞は、対象のステータスを一定時間向上させる舞。精霊の祝舞は、大気中の魔力を集める舞。魔力回復的な舞だ。魅惑の艶舞は、対象に魅了魔法チャームと同等の効果を与える。どれも対象が必要な舞だ。
「初めは俺との訓練だよ。舞の練習と兼ねて訓練しよう。この村にアンデットは居そうに無いから、鎮魂の舞だけはもう少し体力をつけてからかな」
「魔物と戦うのか…」
「大丈夫。絶対に無理はさせないし、必ず俺が守るから」
彼女には、トラウマになっているだろう魔物との対峙。だけど、この世界では避けて通るのは難しいと思う。ならば、彼女が克服できるように、アラヤが協力することが1番だと考えたのだ。
「分かった。アラヤが守ってくれるなら頑張るよ」
早速、今日から練習開始する。先ずは、アヤコさんが別室に入り、念話で借りた本の内容を伝える。感覚共有により、更に彼女の感情も伝わってくる。
そして、サナエさんには戦士達の鼓舞を踊ってもらう。
「何これ⁈技能名を唱えた瞬間に、舞のイメージが全て分かって、身体がまるで初めから知ってたみたいに自然に動く!」
それはまるで、激しい音楽と情熱の声が聞こえて来そうなフラメンコを思わせる踊りだった。激しい振りやステップが鳴る度に、二人のステータスが向上していくのを感じる。
「凄い!これが私のダンス!私に与えられた技能なのね!」
自分の技能の素晴らしさを実感した彼女は、この練習を怠る事は無いだろう。ステータス向上の効果時間は発動してから2分弱というところか。レベルを上げれば時間が延びるかも。
「うん、凄い技能だよね。さぁ、次は精霊の祝舞を踊ってみる?」
「分かった!精霊の祝舞!」
途端にリズムが変わり、先程とは真反対のスローテンポなリズムだ。振りは大きく優雅な舞。バレエのそれに似ているが、神秘的な感じ?が大きく異なる。民族的な踊りと例える方が良いかもしれない。
辺りの空気も、魔力が集まって来た影響か、僅かに冷たくなり重くなった気がする。
うん。踊り子の職種は決してハズレじゃ無かったね!
その時、アヤコさんからの熱のこもった念話が届く。
『将軍は私を引き寄せた。「俺の心はお前だけの物だ」そして強引に唇を奪い、胸筋から腹筋へと手指が移動していく…俺も将軍の事をっ…』
「「BLじゃないかーっ‼︎⁉︎」」
折角高まったやる気モードを、彼女は一瞬で消し去ってくれました。念話で伝えるような内容じゃ無いからね⁈




