9.取り囲まれた彼女
昼は速攻で西田が学の教室に入り、学を外へ連れ出した。何だかんだ、あの中庭が気に入っているらしい。
すぐに自己紹介ばかりの会話が始まり、何となく互いの経緯を知ることが出来た。
「何で入ったかって?よく聞かれるよ。簡単な理由だ。うちさ、おばあちゃんも母ちゃんも姉ちゃんもこの学院出身なんだ。だから俺も行ってみるかなあーって感じで」
西田は食べながら元気よく学の質問に答えている。学はその簡単な理由に呆気に取られた。が、何だか羨ましい気もした。
「市はなんでこの学校に?」
学は正直には答えられなかった。偏差値が……などと、はぐらかすのが精一杯だった。
「そうだ、西田君はどこか部活とか入るの?」
学は話題を変えた。西田はうーんと唸ると
「いや、帰宅部!だってここ進学校だし、勉強付いて行くのでやっとだし」
と、飯をかき込んだ。
「それにここ、プールないじゃん」
西田はかつて水泳部にいたらしい。この学校はプールがない。それで帰宅部になろうということだ。
「ていうか、何でそんなこと聞くの」
尋ねられて、学は口をつぐんだ。金のベルが頭の中にちらついたが、あの大道芸をこなせる自信もなく、あの栗毛の彼女に話しかける勇気も特にない。
「ちょっと気になっただけ」
弁当に目を落とした学を、西田はいぶかしげに見つめる。
「誰にも構わずやりたいことやれよ。三年もこの学校にいるわけだしな」
もっともなことを言い、西田は弁当箱を閉じた。
「お?」
突然西田が声を上げる。
中庭からすぐの調理室の前に、五人ほどの女子が歩いて来た。皆手に弁当はない。その中に、栗毛の少女が歩いているのが見えた。彼女は壁を背にすると、じろりと他の四人を睨む。四人は彼女を囲んで、互いに何か言い合っている。
「うわ、何か恐ろしー空気だね」
見てしまった手前目をそらすことも出来ず、二人は彼女らの会話に耳を澄ませた。




