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第6章.そこにある光

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66.我慢の限界

 帰り道、学はいきなり西田にこう聞かれた。


「もしかして、フラれたか?」


 学はぎくりとする。その反応を目の当たりにした西田と岬は目配せし合った。


「あんなに市を避けなくてもいいじゃんな。……何重にも傷付けなくてもさ」

「只の先輩後輩として接すればいいのに」

「えっと、違……」


 学は反論しようとするが、


「俺、今日暇だぞ!岬は?残念会しよーぜ」

「あ、僕も暇ですが……市原君?」


 妙に話が進んでしまっている。学はようやく


「違うんだ……」


と声を振り絞った。



 次の日の弁当の時間。


 三人は教室で顔を寄せ合っていた。


「まあ藤咲さんの言い分は分かる。別れたばかりで言い寄られてもなぁ」


 西田が率直な感想を述べる。


「フラれたと言うよりは、保留っていう感じですか?曖昧なところですね」


 岬は今日は珍しく輪に加わっている。学が憔悴しきって箸を食んでいると、


「いいなー、皆でお弁当」


 急に思わぬ方向から横槍が入った。男子三人はのけぞって振り返る。


 小宮が立っていた。


「今日、荒井さん休みなんだ。一緒に食べていい?」

「駄ー目。俺ら、今大事な話してんの!」


 澄まし顔で西田が断るものの、


「大事な話って何?藤咲さんのこと?」


 小宮が薄ら笑う。男達はそれで馬鹿正直に黙ってしまった。それを合図に小宮は近くの空いている椅子を持って来た。


「よいしょっと。私さ、きっと一番困ってるのは藤咲さんの方だと思うんだけど」

「げっ。しかも話聞いてやがったのかよ」

「どういうこと?」


 藁をも掴む勢いで学が尋ねる。小宮はもっともらしく説明した。


「次の恋愛に向ける余力が今はないってだけのことだと思うよ。ほら、市原君も疲れてるのにあれやってこれやって、って言われたらしんどいでしょ?」


 フームと三人唸る。


「でも無視はやり過ぎだろ」


 西田が言う。学もそれが気になっていた。


「ねえ、そんなに早く答え出さなくてもいいんじゃない?苦しんでるのは藤咲さんの方なんじゃないの?無視というより、避けてるんだよ、ストレスから。もっと時間あげたっていいじゃない」


 学は呆れた。


「小宮さん、随分プラス思考なんだね」

「そうじゃないわ」


 小宮はやれやれ、と首を振った。


「私からすれば、市原君はどうして今までの積み重ねがある日突然消え失せるなんて思えるの?逆に聞くけど、市原君はそんな短期間で藤咲さんのこと、信用出来なくなっちゃうのかな」


 学はどきりとする。西田と岬もぽかんと小宮を見つめていた。


「確かに藤咲さんは気難しいところがあるよ。でもそれ含めて好きになったんじゃないの?もっと理解してあげて然るべきだと私は思いますよ!」


 説教されている犬のように、学はしゅんとなった。気圧されて、他二人は拍手する。


「ちょ、ちょっとトイレ……」


 学は一時退席する。残された三人は顔を寄せ合った。


「ちょっと皆、いいかな……?」


 小宮が何事か二人に耳打ちしている。西田は岬と顔を見合わせ、いや、それはちょっと……と首を傾げている。


「だって、ずっとあの調子じゃ部活が上手く回らないよ。他の女子はもう藤咲さんの幼稚さに付き合えないって嘆いてるんだよ?市原君振り回して発散してるようにしか見えないもん。大きなイベントに臨む前に、そろそろこの状況を終わらせないと」


 西田と岬は肩をすくめる。そこに学が戻って来た。西田が椅子に座る学に、


「なぁお前、あんな目に遭ってもまだ藤咲さんのこと好きか?」


と問う。もう今更隠すことでもないだろう。学は二、三度頷いた。


「そうか……」


 三人は学の一途さに静かな感動を覚えながら、互いに目配せし合う。


「一年生で話してたんだけど、二年生もそろそろ引退だから皆でお別れ会をしようと思ってるの」


 小宮が言う。


「へぇ、どこで?」


 学が問うと、


「まだ決めてない。男子達が良ければ、場所は女子で決めちゃうよ」

「ケーキ食べ放題とかじゃなければ、どこでもいいよ」


 小宮と学の会話を、岬と西田は気まずそうに聞いている。

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