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第6章.そこにある光

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67.光

 そうだった。


 気難しくて頑固で我儘で、愛想も少ないのに好きになったのだ。その表層の奥、もっと深い部分に自分の心は近付いている。


 深海の海底を掘り返すときらりと光る部分。それが好きで、それが見たくてどうしても放っておけない。


 強く光ったり弱く光ったり、捉えどころがない。でもそれさえ好きになってしまった。


 海底の砂を、もっと掘り返せないだろうか。もっと奥の奥、もっと輝く部分が見たい。


 息が苦しい、もう持たない。


 いや。


 いいや、死んでしまってもいい。


 もっと掘り返せ、もっと……



 夢だった。


 学は電車の中で目覚める。あと一駅で降車駅だ。


 夢の中は苦しかった。が、死んでもいいと思った時は実に爽快だった。もう二度と引き返すことは出来ない。幸いというのか残念というのか、そんな覚悟が出来てしまっている。


 相手のことばかり考えてもしょうがない。


(自分の気持ちだ。それを大切にしなきゃ……)


 窓の外を見る。日差しが徐々に春めいている気がする。


 学は西田からのメールを確認する。駅前に十一時に集合して、ハンドベル部の皆で、お別れ会と称した昼食会を催すことになっている。学は合宿以来の会食というのもあってわくわくしていた。


 駅に着き、下車する。待ち合わせの時間十分前なのに誰も集まっていない。学は柱にもたれ掛かり一年生を待った。


 と、ようやくそこに現れたのは、レイラだった。


 あれ?と学は驚いた。向こうも、学と目を合わせないというマイルールさえ忘れるほど、彼の姿に驚いているようだった。


 彼女は何も言わず、学から一メートル離れた辺りに立った。


 時刻は午前十一時を過ぎた。


 互いに虚空を見上げるのに飽きて来た。そこに、電子音が鳴り響く。学は自らのスマートフォンを立ち上げた。


 西田からメッセージが入っていた。


「今、藤咲先輩と二人きりだよね?あとはがんばれ」


 学は恐る恐る隣を見た。レイラも同じくスマートフォンを取り出し、唖然としている。


 ふわとレイラの視線がこちらに動いたのを、学は見逃さなかった。


「藤咲さんは誰を待ってるんですか」


 二人きりになってしまうと、レイラもこちらの言葉を無視出来ないようだった。


「明日菜が……来られなくなっちゃったって。市原君がいるから大丈夫よね、って」


 そこまで言って、彼女は気付いた。


「まさかこれ、わざと?」


 レイラの声が震えている。学はそういうことか、と仲間達の計らいに気付いて心が決まった。動じず近付いて行く。彼女は警戒するように後ずさった。


「……あなたが明日菜と計画したの?」

「違います。俺は一年生達に誘われて」

「嘘!こんなだまし討ちみたいなことして」


 その言葉に学は傷付いた。何を言っても信じてもらえない。


(俺が何をしたって言うんだ)


 少しの怒りで学の心はたがが外れた。


 ぱっとレイラの手首を掴む。


「だったら何なんです。そっちこそ、ずっと無視だの幼稚なことして」


 レイラの表情から怒りの色が消えた。彼女の手首から、震えが伝わって来る。レイラは下を向くと小さな声で


「……ごめん」


と呟いた。学は急に彼女を可哀想に思った。


「……迷惑なら、そう言ってくれて構わないんです」


 学は手を放した。レイラは冷えた手を胸元で揉んでいる。


「黙っていられるのが一番辛いんです。嫌なら嫌だと言って下さい。もう二度と好きだなんて言いませんから」


 レイラはハッとして学を見た。そしてその瞳には、見る見る涙が溢れて行くーー


 学は驚き固まった。レイラはボロボロと涙ばかりをこぼしたかと思うと、わーっと声を上げて泣き出した。周囲の視線が突き刺さりる。慌てて学は彼女の腕を取ると、引きずるようにして人通りの多い駅を出た。


 駅からすぐA大学が見えた。チャペルの十字架も見える。若者がある程度いるところに入れば、泣いている女子を連れていても目立たないでいられるかも知れない。焦る学はレイラの手を引っ張り、取りも直さずA大を目指した。


 大学正門に足を踏み入れた。木陰にチャペルの見えるベンチがある。人通りのないところへ座らされて安心したのか、彼女は大げさに泣くことはなくなった。けれども尚も泣きふさぎ続ける少女の前に、少年は無力だった。


 何も出来ずチャペルを眺める。そこに清掃員が入って行くのを学は見た。十分後、再び清掃員が出て来たのを、見逃さなかった。


「藤咲さん」


 学は顔を伏せるレイラに声をかけた。


「あのチャペルの中、見てみませんか?A大でハンドベルするなら、きっとあのチャペルですよ。確かここ、先輩の志望校でしたよね」


 その言葉で、レイラはきょとんと顔を上げた。それを見て学は少し元気になり、チャペルへと走って行った。鍵をかけようとしている清掃員に何やら声をかける。戻って来て、学は努めて明るく話しかけた。


「入っても良いそうですよ。少し見学して行きませんか」


 レイラは頷くと、すっくと立ち上がった。それだけでも嬉しくなって、学は確かな足取りでレイラと共にチャペルへと急ぐ。

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