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第4章.文化祭

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55.集大成

「Wedding March(真夏の夜の夢より)」

「The Entertainer」

「Somewhere, Over the Rainbow」

「My Favorite Things」

「Mickey Mouse March」

「It’s a  Small World」

「Snow White and Seven Dwarfs」

「Can You Feel the Love Tonight」

「God of Grace」

「What a friend We have in Jesus」

「主よ、人の望みの喜びよ」

「CANON IN D」

「Farandole」


 今回は、誰もが耳馴染みのある曲、という基準で選曲されていた。緋色のベルベットに並んだ金のベルは、前日までにひとつひとつ部員が手分けして磨き粉で磨き上げた。ベルは昼の光を受けて薄ぼんやりと瞬いている。全てが彼らを祝福しているようだった。


 末続が深々と客席に頭を下げ、生徒もそれに倣う。拍手が起きた。


 白い手袋が、同時にベルを握る。


 五人で「Wedding March」を演奏する。特別な技法は特に使わないシンプルな曲だが、礼拝堂の空気に合ったいかにもな選曲に、客も満足そうだった。


 サウンドオブミュージックの一連の曲は緩急をつけるため、マレットを使ってポコポコと打楽器のように叩いたり、ベル内のクラッパー部分を直接手で弾くプラックの技法が入る。部員らは聴衆の体がリズムを取っているのを肌で感じる。


 ディズニー部分では堂内の子供全員が合唱を始めてしまう。プログラムが進むにつれ難易度は上がるので、部員らはそれを見て和む余裕はない。しかし観客は、ベルの音色と子供の声の融合に、大いに湧いた。


 「CANON IN D」はチームワーク必須の難曲だった。高音部は彼らの腕の数より断然多いベルが躍る。両手に三つ四つは当たり前、持ち替えの頻度も曲芸の域だ。もうその時は譜面をめくっていては追い付かないので、全員が末続の指揮だけを見る。


 ラストの「Farandole」では常に低音が同じリズムを刻み続ける。この時の為に、学は中学音楽部から低音ベルを借りたのだった。低い音域から始まるが、次第にその幅は広がって行き、追い上げるようにラストにかけてスピードが増す。そこから、一気の幕引き。


 音が瞬時にして止まると、観客は割れんばかりの盛大な拍手で迎えてくれた。学ははっとして礼拝堂内を見渡す。堂内は、部員の姿が見えないであろう廊下まで、人でいっぱいだった。扉はもう開かれ、その向こうまで人だかりが出来ている。


 演奏中は全力疾走で、人を見る余裕もなかった。観客を見渡すと、自分達以上に晴れ晴れとしているらしいことが分かる。その表情に、学の心は揺さぶられた。


 拍手はずっと鳴りやまなかった。アンコール曲は勿論用意してあった。


 ハンドベル専用曲「Caprice」


 今までは既存の曲をハンドベルに編曲したものばかりだったが、これはハンドベルのためだけに作曲されたベル専用曲である。知名度はほぼゼロだが、ハンドベルのほぼ全ての技法を網羅するこの曲がアンコール曲にふさわしいだろう、と皆で決めた。


 初めはキンキンと元気な滑り出しだが、途中で曲のピッチが緩やかになり、柔らかいベルの音に変わる。Caprice(気まぐれ)という言葉の意味通り、印象をころころと変えて行く曲だ。ベルはマレットで叩かれ、マットに打ち付けられ、前後に振り回され、一見めちゃくちゃに扱われながら、気まぐれに合わせて尚も可憐な音色を鳴らし続ける。


(気まぐれ、かぁ)


 自身の境遇を憂い、学はマスクの下で少し自嘲気味に笑う。


 ラストは出だしと同じくスピードを上げて、ベルをマットに叩き付けて音を止めた。


 再び拍手喝采が起きた。部員らは、末続のジェスチュアで互いに手を繋ぎ合い、深々とお辞儀した。末続は鳴りやまぬ拍手を前に、ハンドマイクを繋いでこう言った。


「以上をもちまして、S学院高校ハンドベル部の演奏を終わります。皆様、本日はお越し戴きまして、本当にありがとうございました!」


 観客は更に立って拍手をした。学はそれを見て、じわじわと泣きそうになった。


 ふと力が抜ける。急にしんどくなってきた。


「……大丈夫ですか?」


 隣にいた岬が声をかける。レイラが車椅子を引いてやって来た。学は腰が抜けたようにそこに座る。疲れを感じ始めていた。


「私、市原君と保健室に行きます」


 レイラがハンドルを握ると、山下が


「じゃあお願いね」


 レイラは頷き、すぐに礼拝堂の裏手から出て行った。山下はふと隅にいる石室に目をやった。石室は怒りで震えている。


「あ、あなた達……」


 生徒は皆白けた顔で牧師を出迎える。


「私の許可なしに、演奏とは何……!」


 彼女が声を荒げた瞬間。


「本当に、ありがとうございました!」


 輪を出て、頭を下げた生徒がいた。


 小宮だった。


「先生のおかげで演奏が出来ました!いつだって止めることは出来たのに、最後まで演奏させて下さって……!」


 小宮は演技なのか本気なのか、真っ赤な顔で泣いて訴えている。石室は怒りの腰を折られて、ただ驚いていた。石室の背後で、末続は笑いをこらえている。


 そこに、ぞろぞろとコーラス部の女子がやって来た。それを見た山下は


「早く片付けましょう、さあ」


と部員らを促す。小宮が我に返り、ベルを片付け始めた。


「何よ、もう……!」


 石室は半べそをかきながら、コーラス部と入れ違いに礼拝堂を後にした。扉が閉まるのを確認して、皆解放されたように笑い出す。


「小宮さん、すごい!」

「名演技だったな!」


 その言葉に、小宮はきょとんとしている。


 本気で礼を述べたらしいと分かり、更に皆は笑った。


Capriceはユーチューブにも動画があります!是非見てみて下さいね♪

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