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第4章.文化祭

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49.秘めた胸の内

 心を殺すのが随分得意になってしまい、学は自分が恐ろしくなる。


 あの日からも、ポーカーフェイスでいつも通りハンドベルの練習に明け暮れた。昼も集まって皆で練習をした。全員の息を合わせることが、もう難しくはなくなって来ていた。曲の成功に一喜一憂する人数ではない。十人もいれば大所帯である。


 五月に見た、末続コーチのクワイヤ〝スプリング〟の演奏していたような高度な曲も、適正な練習量を積めばハイスピードで完成して行く。本当に、ハンドベルは人数が物を言う楽器なのだ。


 あれから学は自分からレイラに話しかけることはなくなっていた。彼女も何か思うところがあるらしく、特には話しかけて来なかった。それが少し悲しくなる時もあったが、何をどう働きかけてもどうせこちらが傷付くだけなのだ、と学は繰り返し自分に言い聞かせるのだった。


 文化祭の発表まで、あと十日。


 部活帰りの電車で、学は小宮、荒井と電車が一緒になった。三人並んで、吊革に掴まる。


「あと十日だね」

「どの曲も全部出来るみたいだし、本当に良かった!」


 小宮と荒井は本当に嬉しそうだ。学は二人の話をただ聞いている。


「とにかく、全員でやれるのが嬉しいよね。あのオケ部と違って、必要とされてるって感じ」


 荒井がしみじみと言い、小宮が頷いた。学はぼんやりとレイラとのことを思い出した。


「必要、ねえ……」


 小宮と荒井は学の呟きに、顔を見合わせた。


「どうしたの?最近市原君変だよ」


 学は声に詰まった。気付かれている。荒井が顔を覗き込んで問う。


「藤咲先輩と何かあったの?二人が会話しているところ、最近全く見ないんだけど」


 女の勘というものは、凄まじい。全て見通されている気味悪さを感じながら学は


「気にしないで、何もないよ」


とだけ言って、口をつぐんでしまう。


 レイラに関する話はもうしたくなかった。小宮はそれを察してか、努めて笑顔で話し出した。


「私、ベル部に入部したいって、あの合宿の最終日に、藤咲さんに言いに行ったんだけどさ」


 学が小宮を見る。小宮は秘密を打ち明けるように口に手をあてがうと、


「その時言われたの。今の一年はみんな良い子だから、助けてあげてねって。市原君の前ではあんな感じだけど、藤咲さん、内心ではとても市原君のこと信頼してるんだなって思ったよ。私、藤咲さんと対等に喧嘩してた市原君が羨ましくて、この部活入ったんだから」


と囁いた。学は小宮から視線を外した。最近弱っていたのもあって、ちょっと泣きそうになる。


(色々分かっていて、みんな慰めてくれているんだ)


 小宮と荒井は学より先に、乗り換え駅で降りて行った。


 学は回らない頭で思考する。


 思えば、自分は男にいじめられないからという理由でこの学校に入ったのだ。そこから考えると、大きく進歩したではないか。


(とにかく文化祭では、いい演奏をしよう。もう、藤咲さんのことは忘れて)


それが今は一番皆に報いる方法だと学は思った。


次回からいよいよ文化祭です。物語は佳境に突入します!

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