表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハンドベル・リンガーズ!  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
第3章.夏合宿

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/73

42.予兆

 二日目の朝練では、小宮、荒井、他3名の計五人が小さな部屋で自主練をさせられている。理由は「下手だから」ということだ。


「うちのオケに参加したいんだったら、もっとレベル上げてよ」


 そう言い残して二年は大広間に消えた。


 誰も上級生はいない。顧問やコーチもあちらに掛かり切りだった。教えてくれる人はいない。ただひたすら自主練をせよ、と言うのだ。


 五人のやる気の低下に拍車がかかる。徐々に自主練をやり尽してしまい、愚痴大会になって来る。


「私達さ、陰でストッパーって呼ばれてるらしいよ」


 小宮は、そりゃ仕方ない……と思う。


「合宿からミスするようになっちゃった。変に緊張してるみたい」

「自主練なんて。ていのいいハブだよこれ」


 本来上手なはずの荒井がなぜか名指しで移動させられたのを、小宮も疑問に思っていた。


「ていうか鹿島さんなんて荒井さんより断然下手じゃん?なのに先輩と仲良しってだけであっちの大部屋で続けてるんだよ!」


 愚痴が混線する間、近くの「鶴の間」からウェディングマーチが流れている。


(かわいいな……)


と小宮は上の空で思う。



 ハンドベル部はウェディングマーチの練習を繰り返している。末続が熱心に声をかける。


「ちょっと岬君、ちゃんとレイラの音を聞いて合わせて。もうリズムを頼りに振る段階はお終いよ。出来れば楽譜から目を離して、私の指揮を見てくれる?あと、市原君、音弱い。もしかして、クラッパーの位置がおかしい?調整してみて」


 学は周囲と見比べ、ベルの中のクラッパーを回して位置を決める。レイラは岬に、腕を伸ばして振るのではなく、もう少し手前で振ろうと話しかけている。


「じゃあもう一度頭から始めよう。せーの」


 オケ部の方が先に朝練を終えた。女子らが通りかかり、開け放った窓の前で足を止める。ウェディングマーチを男子が振っているのが珍しいらしい。最後の音が合うとわっと窓の外で拍手が起きた。ベル部は互いに顔を見合わせて笑っている。


 末続も拍手する。健闘を讃え合っているかのようだ。小宮がやって来て、ちらと眺めて去って行く。その顔は苦痛に歪んでいる。



 昼食時、いつもの席に小宮がいない。


「小宮さん、どうしたの?」


 学が尋ねると、荒井は怒り心頭で


「嫌がらせされて病んだわ。部屋で寝てる」


とのたまった。他の一年女子がその話に加勢し始める。


「小宮さん、先輩にやり方教えて下さいって言いに行ったら無視されたんです」

「それでコーチに聞きに行くって言ったら、迷惑かけるなって止められて」

「どうしたらいいの?って思うんです。自主練にも限界があるし」

「私達、まだ一度も合奏してない」


 西田は


「そういうのはそっちでやってよ」


と困っている。そうなんだ……と、学は小宮を可哀想に思う。レイラはぴしゃりと言った。


「ここでこんなこと言ってないで、味方増やしてあげて、顧問やコーチに抗議したらどうなの?小宮さんが病気になっちゃったのは、ひとりで受け止め切れないからでしょう」


 わあわあやっていた四人は黙ってしまう。

結局彼女達は先輩や同級生が怖くて、何も言えなくなっているだけなのだ。


 ああ、この感じ、経験がある、と学は思う。


 味方はいないのか。


 眉をひそめて見ているのは、いじめている方なのか、いじめられている方なのか。段々分からなくなり、全員が敵に見えて来るあの状態に、小宮もはまったのかも知れない。


「今日の練習は夜九時までね」


 沈黙をいいことに、レイラが言った。


「後片付けのあと、君達は私達の部屋に来て」


 何の躊躇もなくさらりと言われ、男子らは息を呑んだ。


 ついに事実が分かるのだ。それがこのメンバーと部活をする上でどのような影響が出るのか、まるで予想がつかなかった。


 今、自分達はこうして問題ない風でも、これまでに様々なことがあった。腹を割って話せたのだって、つい最近のことだ。今思えばレイラの身勝手な振る舞いが、関係前進の予兆だったとも言えなくはない。何をきっかけに部内が変わるのかは運も多分に関係している。


 学はそうして築き上げた関係は全て、今日の夜に試される気がしている。


 学にとって今の小宮の困難な状況は、他人事とは思えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ