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第3章.夏合宿

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37.荒野に放たれた羊こと男子

 男子三人は食事を終えると、別棟へと移動した。そこで制服から私服へ着替えようとしていると、扉をドンドンと叩く音がした。


「誰?」


 学が扉に声をかけると、


「男子はこの部屋なの?」


 聞き覚えのない複数のひそひそ声がする。すぐにオケ部の女子だと分かった。


「今着替え中だから、用事があるなら後にして」


 西田が返すと、なぜか黄色い悲鳴が起こった。男子三人顔を見合わせてポカンとしていると、扉がガチャガチャとこじ開けられる音がした。ひっと声を上げた辺りで、


「こら!女子は戻らんかい!」


 オケ部の顧問の声が廊下にこだました。ぎゃー!笹塚!と叫びながら退散する足音が聞こえ、


「……ごめんなー」


 弱り切ったオケ部顧問の陳謝の声がそれに続いた。向かいの部屋の扉が閉まる音がする。男子三人は部屋の中央で凍えていた。


「何だあいつら。やべーよ、野獣?」

「……何するにも鍵必須だね」

「鍵をかける癖があって、助かりました」


 荒野に放たれた兎の気分で、三人は開いていたカーテンを慌てて閉じに行った。



 学はTシャツにジーンズ。岬も似たような格好をしていた。西田は白いラインの入った赤いジャージに「愛宕河童」とプリントされた中学水泳部時代の部活Tシャツを着ている。三人は末続の車から黒のベルケースを運び出し、鶴の間に置いた。


 遅れて譜面台を抱えた二年生がやって来た。明日菜もTシャツに高校ジャージというラフな格好だった。レイラはマキシワンピースにパーカーを羽織っている。


 五人は白い手袋をはめ、ベルを並べ始めていた。鶴の間から食堂が見える。その中では、オケ部の女子らが揉めているようだった。部屋割りが決まらないらしい会話が聞こえて来る。


 末続が入って来て、また新たに楽譜を配った。


「The Entertainer」

「ジングル・ベル」

「大きな古時計」

「Wedding March(真夏の夜の夢より)」

「O Jesus,I have promised 」


 全五曲を三泊四日で完成させると言う。


「……本気ですか?」


 いぶかる学に、末続が頷いた。


「大丈夫。だってあなた達は放課後、たった一時間の練習を重ねてここまでになったじゃない。もっと自信を持って!」


 全員で、それぞれの楽譜に自身の担当箇所の印を付けて行く。それを譜面台に並べて、すぐに練習が始まる。


「この曲の中から三曲、最終日に発表するの。皆、気合入れて!」


 末続は張り切っている。


 オケ部の長い話し合いが終わり、部屋が決まったらしい小宮がこちらの部屋を眺めつつ通り過ぎて行く。ベルの音が漏れる廊下を、彼女は黙って歩いて行った。

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