35.女子34人vs男子3人
女子と大量の荷物の間を縫って、学は黒い革張りのケースを運ぶ。末続愛用の白い軽自動車にケースが次々と運ばれて、その後部座席は黒で埋まった。
「今年は男子がいるから作業が早いわ。じゃ、私は先にロッジへ行ってるね!」
ハンドベル部員全員で手を振り、運び屋の末続を見送った。さて……と、部員はバスの方へ歩き始める。
観光用バスが駐車場に一台停まっている。それを囲むように、大量の女子達がいる。照り付ける日差しに負けない元気な声が駐車場内に響き、ハンドベル部男子は早くも気圧される。山下が汗を拭いながらやって来た。
「はい、うちは合宿参加者全員揃ったね!」
見渡しただけで分かる人数なので、点呼はすぐに終了した。一方、
「おい!オーケストラ!ちゃんと整列しろ!」
オーケストラ部の顧問の笹塚は点呼に難儀している。山下ははあ、とため息をついた。
「まだ時間かかるかなあ」
「先生、オケ部は何人部員がいるんですか?」
学が尋ねると、
「全部で三十二人」
という答えが返って来た。
「すっげえ大所帯ですね」
西田が呟いたところで、オケ部の顧問からオッケー、と腕を高く上げる仕草があった。山下ははい、と軽く返して、
「さあ行こう」
大所帯より先にバスに乗り込む。レイラと明日菜が乗り込む時はまばらだったオケ部員らの視線が、男子三人乗り込むところで一挙に突き刺さった。その視線の多くは、好奇、そして期待の目。
後方の席についた西田がぼそりと呟いた。
「何か、不安だな」
彼の隣の席に座った山下がくすりと笑う。学と岬はその前に並んで座る。続いて、ぞろぞろとオケ部員が入って来た。車内は黒々蠢き色めきだって、すぐにエンジンがかけられる。バスは西に向かって走り始めた。
目指すは、「ロッジ白百合」
富士山を望む湖近くにある、部活合宿用の宿泊施設だ。横浜周辺の多くの私学が夏にこの施設を利用するらしい。
西田が合宿用の行程表を見ていると、
「ねえねえ、ベル部の男子はどの部屋に泊まるの?」
前方のオケ部の女子が臆面もなく、そんなことを聞いて来た。男子達は面食らったが、西田は何やら苛々して
「……言わね」
「やだ!探し出してでもそっちに行くかんね」
女子らは大声でそう言い放つ。山下がすかさず、女子がそんなこと言うもんじゃない、とたしなめた。彼女らは二年生らしい。
前方にいる一年生からは、まだぎこちない雰囲気が漂う。一年は二十人もいるらしい。全員が仲良しなわけではないようだ。
西田は席にうずもれるように体勢を崩した。
「先生、俺らまさかあのテンションで四日もいじられ続けるんですか?」
西田の疲弊ぶりに、山下は意地悪そうな笑みを浮かべた。
「大丈夫。あいつらも元気なのは初日だけだよ」
ひたすら高速を走り続け、二時間も過ぎると、バス内は確かに山下の言う通り、静かになった。
岬は本に目を落としている。学は頬杖ついて眠りこけるレイラの美しい横顔と、菓子を無限に食べ続ける明日菜をじっと観察している。
バスは昼に目的地へ到着した。




