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第2章.部員集結

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30.レイラの秘策

 次の日から、明日菜の様子がおかしくなり始めた。学は吉永達の背後からとぼとぼ猫背で歩く明日菜を見る。分かり易く仲間外れにされているような、そんな印象を受けた。


 岬が言うには、教会学校には顔を出しているということだった。二週間後、明日菜は教科書などをビニル袋に入れて部室にやって来た。鞄がないの、と明日菜は声を落とした。余りのやつれ具合に、明日菜を敬遠して憚らなかった西田まで思わず「大丈夫ですか?」と声をかけてしまうほどだった。


 それらを併せて学がレイラにラインで報告すると、「知ってる」というそっけない一文が返って来た。


 その頃になると、明日菜が部室に来ないようになってしまった。ペンテコステ礼拝の練習も終わりに近付いて来ていたので、三人での演奏を見込んでいた末続も困り果てていた。西田は他の女子から聞いた情報だけど、と学に耳打ちした。


「松島さんが制服を盗まれたらしいぜ」


 西田が言うに、制服は明日菜のクラスが体育の時間中になくなったらしい。見えないところで、確実に何かが起きている。


「派手にやられ過ぎじゃねぇ?いよいよヤバイ予感がするなあ」


 西田の言葉は、そのまた一週間後に現実となる。明日菜がジャージで校内を移動するようになり、ひとりでいることが増えて行った。異様な雰囲気を漂わせながらもひたすら登校して来る明日菜に、学ですら同情するほどだった。


「そういえば松島さんが泣いてたんですよ」


 岬はそう言って、教会学校での一幕を話し出した。教会で私服姿でいた明日菜に、ジャージで移動してるのを見ましたが……と話しかけると、彼女はわっと泣き出して、


「犯人は分かっているけど、先生に訴えても聞いて貰えないし、信じてもくれない」


と喚いた……ということだ。更に学院側は評判を恐れる余り、外部でそのことを喋るなとまで彼女に言ったのだという。


「何だか藤咲さんの予言通りですね」


 夕方の坂道を学と共に下りながら、岬は呟いた。


「完全にターゲットが松島さんに移りました。まるで、藤咲さんがシナリオを書いているみたいに」


 吉永達がレイラというターゲットを失えば、次なる標的は必ず明日菜となるらしい。


(藤咲さんは、それを分かっていたんだ)


 それを分かっていて、あえて部活を辞めるなどと言い出したのだ。学は感心すると同時に、レイラの狡猾さを恐ろしく思う。


 レイラが部活を休み始めてから三週間が経過した。四週目となる半ば辺りで、学は登校中、駅にレイラが立っているのを見付けた。声をかけようと歩き出したが、レイラは無言でこちらを見ると、手で追い払う仕草を見せた。


 来るな、ということらしい。


 レイラは駅で誰かを待っている。ああ、そうかと学は気付き、自らも待ち合わせの振りをして駅で様子を見てみることにした。


 しばらくして、ジャージ姿の明日菜が制服の学生に紛れて歩いているのが見えた。すかさずレイラは明日菜に歩み寄る。明日菜はレイラを見つけると、虚ろな目をして立ち止まった。


「C組の安岡さんが、吉永さん達が明日菜の制服を盗んでる最中の動画、持ってるんだって。私、その動画を送信してもらったの」


 みるみる明日菜の目に涙が溢れる。


「ね、一緒に職員室に行こう。これを見せたら先生も認めざるを得ないし、きっといじめも終わるよ」


 明日菜は顔を覆って頷き、レイラは促すようにその丸まった背に手を伸ばす。


「レイラあ、ごめんね私……」


 そう凍える声で呟いた明日菜に、レイラは笑顔で


「明日菜は小学校からの大事な友達だもん。失いたくないの」


と答えた。本当に、鮮やかな逆転劇だった。


 二人の女生徒は、改札の人々の中へ消えて行く。学は感動を通り越して寒くなる。


 全て、レイラの言った通りになった。

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