28.レイラが退部!?
岬はうなだれるように座って、取り急ぎといった様子で話し始めた。
「この前、H教会で明日菜さんとハンドベルの話になって。そこで聞いた話なんですが、もうしばらくするとH教会のベルは海外にクリーニングと修理に出されるそうなんです。で、その後は養護学校に貸し出されるらしくて。明日菜さんがベルに触らない状況が長いこと続くみたいなんです」
言うなり岬は頭を抱えた。
「あー、本当にごめんなさい。僕が明日菜さんに余計なこと言わなければこんなことには」
西田が大型動物を手懐けるかの如く、岬の両肩を撫でて慰める。
レイラはそっか……と思い当たったように呟いた。
「明日菜がベルに触ろうとなると、ここに来るしかないってことね」
レイラは顔を上げると、学に向き直った。緑の澄んだ瞳が彼の目を捉える。学は目が離せなくなった。
「あなた達に協力して欲しいことがあるの」
「何ですか」
「私、部活辞める」
室内の空気が一瞬で凍りついた。
「そんな、藤咲さん」
「ちょっと待てよ!いきなり辞めるこたねーって」
学と西田の声が重なって、レイラはわざとらしく耳を押さえて見せた。
「うるさいわね。いい?まだ話し終わってないから、続きを聞いて。協力して欲しいことがあるんだってば。市原君、西田君、君達には部活を続けて欲しいの。とにかくそれだけよ。あとは、その。岬君だったっけ?」
岬ははぁ……と生返事する。
「悪いけど、またH教会へ行って明日菜に会って来て貰えない?それで、それとなくでいいから藤咲が部活辞めたって言っておいてほしいの」
岬があからさまに嫌そうな顔をする。
「本当に、それだけでいいの」
男子三人は困惑の表情で互いを見つめ合う。
「ちょっと先生にも協力してもらいます。明日菜の担任に、彼女の日常の様子を聞くことは可能ですか」
「うん、出来ると思う」
山下は力強く頷いた。
「明日菜の様子に何か変化があったら、何でも私に教えて下さい。早くて一週間、遅くて一か月かな?かかるとは思いますが……ペンテコステ礼拝までには解決出来ると思います」
学が進む議論の中置いて行かれていると、
「市原君も、私のライン教えておくから、何かあったら連絡して。明日菜に関して色々情報を知っておきたいの」
はいと答えるしかなかった。学はレイラと初めて電波上で繋がって、高揚と同時に妙な緊張感を覚えた。
その後全員で協議した結果、学は今日からハンドベル部の仮部長ということになってしまった。
練習の帰りがけに、レイラは
「大丈夫、私はすぐに復部するつもりよ。一か月もすれば全て落ち着いているから。頼むわね、仮部長さん」
と取り成すように学に微笑んだ。下級生達は彼女の目にある自信を見、頷くことしか出来なかった。
レイラの言葉を信じるしかない。




