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第2章.部員集結

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26.明日菜、見参

 門を叩く者には開かれる、とは、新約聖書の一説なのだと気付いた連休明けの礼拝。


 そこから教室までの道程で、学は自身に妙に生徒の視線が集まっていることに気が付いた。何かしたっけな?と、まるで心当たりがないので気にせず歩いていると、


「あの」


 背後から声がかかった。わっと声が出んばかりにおののいて振り向いた。岬が立っている。


「市原君、ちょっといいですか」

「どうしたの」

「その……明日菜さんが登校して来たんです」


 学は本当に!と喜ばしい表情で返したが、岬の表情は険しい。岬は手招きしながら、


「それで今、二年生が大変なことになっているんです。とりあえず来て」


と早足で歩き出した。学は促されて一緒に走り出した。


 校舎に戻り二年の階へ走ると、人だかりが出来ていた。男子二人がそれを掻き分けて中心へ向かうと、そこには水浸しになったレイラと、泣きながら向かい合う明日菜の姿があった。


 明日菜の背後には、彼女を守るように四人ほどの女子が立っている。


「明日菜に謝る日、来たよ」


 レイラは明日菜ではなく、その向こうの四人を眺めている。


「早く謝りなよ、さあ」


 レイラは明日菜に視線を向けた。が、明日菜はレイラを見ようともしない。


 そこへ、バスタオルを持った山下がやって来た。その後ろには一緒に駆ける西田の姿がある。


「こら!お前ら何をしている!」


 その途端、人の群れはふわっと溶け、皆わらわらと去って行ってしまった。そこには濡れて立ち尽くすレイラだけが残された。明日菜とその仲間は溶けた人並に紛れて上手に姿をくらましてしまう。自然と、男性陣とレイラだけが立ち尽くすことになった。


 狐につままれたようになった彼らの耳は、幻聴のように様々な声を拾う。


「男は……男だから……美人に弱くて……」


「何あれ……味方は男だけ?」


 男子三人はどきりとして周囲を見渡した。女子の視線がざくざくと刺さる。その目付きたるや、まるで人を見る視線ではない。


 岬は下を向いて震え出した。学はこの程度の嫌がらせは全く平気だった。


「僕のせいだ」


 苦しそうに呟いた岬を、西田、山下が同時に見つめた。


「……僕のせいで」



 一週間前。


 ハンドベルのコンサートから教会へ足を運んだ岬は、見覚えのある顔に出くわした。


「まさかの明日菜さんがいたんです。登校拒否中にも、教会には行ってたらしくて」


 岬が初めての教会ということもあり、明日菜の方から話しかけて来たらしい。


「それで僕、ついこう言ってしまったんです」


〝ハンドベル部の人達が、あなたを待ってますよ〟


 すると瞬時に明日菜の頬から笑顔が消え、こう返されたという。


〝男の人って、皆レイラに優しいのね……〟


「わああ怖い怖い」


 岬の怪談の如き語り口に、西田が震え出す。学は彼女を部員だという認識でいたので、残念でならない。岬は今にも泣き出しそうなぐらい落ち込んでいた。


「どうすれば……もうあの教会、行けないや」

「それもう、別の教会探した方が良いって」


 西田はそう言って岬の肩を叩く。岬は大きくため息をついた。


 今日の弁当は誰も味を感じていなかったに違いない。なかなか互いに箸が進まない。中庭で結論も出せず、ぼんやりするしかなかった。そこに、別の声が割って入って来る。


「ちょっと君達」


 三人背後から声をかけられ、おっかなびっくり振り向くと、そこには山下がいた。


「あ、何だ山Pか……」

「おっと。驚いた?ごめんね」


 三人が座っているベンチをぐるりと回り、山下は三人の前に立った。


「あの、折入って君達にお願いがあるんだ」


 周囲をはばかって小声で言うので、三人は耳をそばだてた。


「その、大したことじゃないんだ。今日起きたことは君達にとって嫌な体験だったかも知れんね。でも、このことで藤咲さんを遠ざけることだけはしないで欲しい」


 三人は顔を見合わせる。


「そんなこと、しませんから安心して下さい」


 学が先陣切って言うと、他の二人もうんうんと頷いた。


「……なら、いいんだ」


 寂しそうに山下は笑う。


「女子生徒だけじゃない、教師にも藤咲さんに関わりたくないと思っている人が沢山いるんだ……胸張ってそういう風に答えてくれる君達は、本当にいい子達だよ」


 教師まで彼女との関わり合いを避けている者がいると聞かされて、彼らはこれが互いの予想を超えた随分重い問題らしいことに気が付いた。彼らの箸はより重くなるが、言い終えた山下はひとつ肩の荷を下ろしたように、軽い足取りで中庭を通り過ぎて行く。

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