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第2章.部員集結

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25.門を叩く者には開かれる

「あなたもハンドベルに興味あるの?」


 岬はほとんど見知らぬ女性からこんなことを問われて困っている。誘われたから来たに過ぎない。


「コーチ!岬と言いますどうぞよろしく」


 西田が代わりに茶化して挨拶する。


「市原君、遅いわね……」


 末続はいよいよ心配になってごめん、と立ち上がり、出入り口まで二人を見に向かった。


「何だか市もコーチも大変だな」


 残された西田が岬に囁く。


「部長さん、随分気難しいけど、何かあったんでしょうか」

「あの調子じゃそりゃ、後輩は入らないわな……」


 先に、三人分の紅茶が運ばれて来てしまった。お先に、と末続の空席に声をかけて西田は飲み始める。


「西田君は、なぜそう思いながらもこの部活にいるんですか?」


 岬が不安げに尋ねる。


「え?俺まだ部員じゃないよ。試しに参加してみたって言うか」

「それもう入部扱いでしょう?そんな気分だと、後々面倒じゃないですか」

「そうなの?まあいいや」

「まあいいやって……今日の演奏見ましたか。あんなの楽譜も読めない僕には出来ないし、面倒こうむらない内に早く帰りたいです」

「市は難しくないって言ってたけど。俺もやってみて、案外やれると思ったよ」

「難しいでしょ。見れば分かります」


 岬はいつもの笑顔もなくむくれている。西田は彼がこんな反応をするとは思ってもいなかったので、とりあえず無言で末続らを待った。


 思ったより早く三人は帰って来た。末続は近くの店員に声をかけ、紅茶を追加で二つ注文した。


「お待たせ……」


 おずおずと学は言い、レイラは疲れ切った表情で席に腰を下ろした。


「ところで、明日菜には会えた?」


 末続の問いに、レイラは力なく頷いた。


「でもまともに話してくれなかったわ」

「……そう」

「明日菜は、コーチが誘ったのね?」

「そうよ」


 男子三人はことの成り行きを静かに見守っている。完全に蚊帳の外状態だが、


「私、部員も、そうじゃない男子達にも、言っておきたいことがあるの」


 末続は大演説の如く、ぐるりと生徒らを見回して語り始めた。


「私はあの学院の正教員ではありません。卒業生のよしみで採用された、時給で働く雇われコーチなの。でもだからこそ、学校に通うあなた達、そして通えなくなった明日菜に出来ることがあると思ってるわ。ハンドベルを通じて、伝わることや伝えることがきっとある。私はそう思ってるの」


 学はふと、車椅子のヒロのことを思い出し、そうかもなあと思う。対してレイラは不貞腐れたようにそうかしらと呟いた。


「ええー?私、今日は皆に届けー!って念じながらベル振ってたのよ。気付かなかった?」


 末続はそう言ってレイラを少し笑わせる。学には気になることがあった。


「明日菜さん、もう学校に戻って来ないんですかね」


 末続は


「はっきりとは分からないけど……」


と前置きして、


「言葉をかけ続けた方がいいのは確かよ」


と声を落とした。


「でも逃げられてしまいました」

「それでも、よ。門を叩く者には開かれるって言うでしょ」


 男子は全員首をひねったが、レイラだけはああ、と反応した。末続はびっと学を指差すと、こう言い切った。


「それを一番よく知ってるのが、市原君よ!」


レイラを含め、皆その指先につられるように学を眺めた。


「……言われてみれば、そうね」


 レイラの緑の瞳にいつもは消えている光が灯った気がして、学は目を離せなくなった。彼女は今初めて、意思を持って学を見ている。学はようやくひとりの人間として認めてもらったような気がした。



「随分熱いコーチだったんだな」


 日が落ちて来ている。男子らは女性陣と別れ、共に駅の入り口前にいる。岬はスマートフォンをいじりながら、


「お二人はこの横浜方面行きに乗るんでしたよね」


などと思い出したように話し出した。


「何だ?岬、今日どっか寄るの?」

「桜木町まで歩いてから、JRでちょっと教会学校の方へ行きます。ここでお別れですね。それじゃ」


 言うなり手を振って駆け出して行ってしまう。


「そういや、K大の推薦に教会学校に通った実績が必要だとか言ってたな」

「へー。そんな推薦、あるんだ」

「はあ?市、マジで知らねーの?信心深い者ってのが推薦条件の大学、結構あるんだぜ?」

「へーえ」

「へーえてお前……余裕過ぎない?」


 学と西田は地下に降りて電車に乗り、互いに窓の外へ遠い視線を向けた。


「岬の奴、目標に向けて一直線だな」

「そ、そうだね」

「俺なんて」

「まあまあ、受験のことなんか、まだ先……」

「ちげーよ。そういうんじゃなくて」


 西田がどこか寂しそうに見える。


「やっぱ、入ろうかな、ハンドベル部」


 落ち込んだ様子でそんなことを言うので、学は心配になって彼の顔を覗き込んだ。


「あんまり見んなよ」


 西田は顔をそらし、


「積極的な理由なんて、これと言ってないんだ。でもさ、コーチやお前は一生懸命でさ、最近ああなりたいって思うんだ」


 うんうんと声に出して学は頷いた。自分も最初は同じような気持ちで入ったようなものだから、その言い分はとても良く分かる。消極も積極も紙一重だ。行動に起こすことだけが、本当に必要なのかも知れない。

今日は数調整のため、一気に3作品投稿してみました。ブクマにpt下さった方、ありがとうございます!

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