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第1章.冴えない毎日

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12.初めて触れるハンドベル

 学は促された席に座る。末続はわくわくうるうるした目で彼を見ている。


「あなた、さては噂の新入生男子よね?」


 学はとりあえず頷く。


「そうよね!じゃああなたが我が部の歴史上、最初の男子になるわけねえ」


 感慨深そうに腕を組んでいる末続。だが、まだ入部の意思を固めたわけではない学にはそこまで言われると荷が重すぎる。


「歴史ってそんなに長いんですか?」


 とりあえず尋ねると末続は頬を掻いて、


「あっ、うーんと、創設は去年」


と意外なことを言った。きょねん?と学がおうむ返しすると彼女は慌てて


「ベル自体は昔から学校にあるのよ。その時は……そう、ベルは宗教部のものだったの。ベル中心の部活を、ということで分離したのよ。だからあちらが本家みたいな感じかな?分離したうちは、分家っていうか」


 例えが上手いような下手なような、だがとにかく宗教部とハンドベル部がかつてはひとつであったことが何となく分かった。


 まだ誰も生徒は来ない。末続は辺りをはばかって、そっと学に聞いた。


「ねえ、さっきの石室先生との会話……聞いてた?」


 学は固まって何も言わない。それで察したのか


「そっか」


と末続は悲しそうな顔をした。何か凄く面倒臭い内情があるようでしんどくなる学だったが、とりあえず部長の彼女には顔を見せておかないといけない気がする。


(あんな大見得を切っておいて、来ないなんて出来ないもんな)


「さっきのは二人だけの秘密、ね!ね!」


 末続はそう言って、学の肩を力強く何度も叩いた。そんな時。


「あのう」


 扉が開かれ、一年生らしき女子が五人ほどのグループでやって来た。末続はすぐさまそちらに歩いて行って、


「あなた達も、新入生?」


 彼女らは後方の学に気を取られながらも頷いた。


「末続コーチ、私達のこと、覚えてませんか?」

「私達、中学音楽部で一度ハンドベルをやった……」

「あー!クリスマスにね!ハイハイ」


 学の分からない話題で盛り上がっている。とりあえず、男子は黙って聞いておくことにした。


「高校にハンドベル部が出来たって聞いて、私達楽しみにしてたんです」

「宗教部も音楽部もハンドベルは選抜有志にしか触らせて貰えないものだったから」

「あら、そうなの?まあまあ、こっちで」


 末続は非常に嬉しそうだ。ふと時計を見る。


「レイラが来ないわね。先に始めよっか」


 末続が並べたらしいベルが緋色のマットの上にある。女子らはベルの前に並んでみたものの、しまったという顔をした。


「ハイハイ、手袋ね」


 末続が白い手袋を持って来た。女性用のサイズだったが、学の手にも合う。


「じゃあどの音でもいいから、ベル持ってちょうだい」


 皆手袋をはめた手で、わくわくしながらベルを持った。


「はい、じゃまずは自由に打ってみて」


 学はベルの口を上にして、下方向に振り下ろしてみる。しかし音が出ない。女子五人はきれいに音を出している。


「あの女子は経験者だから……市原君」


 末続は学の前に来て、自身もベルを持つ。

それから腕をゆっくり回し傾け、ベルをコーンと鳴らして見せた。


「いい?自分の前に壁があると思ってね。その壁を、このベルでノックするイメージで振ってみて」


 学が力任せに振る。音が出たが弱い。


「うーん、振るというより、回すの。ベルの中の音を。そう、ベルの中に水が入っていると思って。それをこぼさないように、静かに前の壁をノックノック」


 末続の振り方を見よう見真似で、学は腕を「振る」というより「回す」ことを心がけた。大きな音がぼわんと響いて、びりびりと持ち手に震動が伝わった。


「……で、音の余韻をここ、胸元で押さえて消すの」


 水が入っているのを想像しながら、回す流れで学のベル先がその胸に戻る。音は消えた。


「そうそう、じょーず!」


 末続が拍手するのと同時に、重い扉を開けてレイラが入って来た。


「レイラ!」


 末続が声をかけるも、彼女は学を見付けるといかにも不快そうな顔をした。

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