かにさん おとおり 1988年9月2日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1988年9月2日掲載
かにさん おとおり
買物帰り、ゆっくり自転車を走らせていると、舗装道路をこそこそと横切る黒っぽいものが目についた。スズメの子が飛べずにいるのかと思ってよく見ると、何と大きなカニさん。新浜鴨場に向かい合うしらさぎ公園近くのニセアカシア林のところだった。海岸付近の草原に多いとされているクロベンケイガニ。ごつごつした体つき、四センチ近い甲羅にはいくらか紫色がかかり、はさみは白っぽい。なかなか強そうなつらがまえでこちらをにらみつけている。
今年は観察舎のまわりでよくクロベンケイガニを見かける。せせらぎ2号・3号の2台の水車の様子を見ようとして、堤防上の水門跡に出て見たら、ざらざらした垂直のコンクリートの壁面を伝っていきなりカニが6匹逃げ出し、びっくりした。おととし以前にはほとんど見かけなかったし、去年も時たま目につくという程度だったので、明らかに数がふえているようだ。そのうちに観察舎への道を歩くとカニがぞろぞろ出てきて、いかにも海辺らしいムードを味合わせてくれるかも知れない。
クロベンケイガニはなかなかの冒険家で、水さえあれば海からけっこう離れたところにも住みついている。もちろん産卵のためには海に戻らなければいけないので、何キロも遠くというわけではない。毎月の園内観察会で、門から入ってすぐ、観察路の草原にいくつもカニの穴が見られるところがあるが、クロベンケイガニの巣穴だ。雨のあとなど、かさかさ逃げるカニを踏まないように気をつけなくてはならない。
面白いことに、新しい池にひいた導水パイプが外れて水があたりにあふれ出すと、急にこのカニの姿が多く見られるようになり、水がひくと消えてしまった。いつでも新天地をもとめて移動する用意があるようだ。
新しい池から流出する小さな流れができると、さっそくクロベンケイガニがやってきた。乾燥したセイタカアワダチソウの草原のまん中で、カニがこそこそ逃げ出すのを見ると、さすがに感心してしまう。新しい池の中にもちゃんと入りこんでいて、開拓者の根性を見せてくれた。
かにさん、おとおり。行徳は海辺の街なのだから、君たちの住み場所がもっとふえてもいいんだよ。
わけのわからないお天気続きだが、秋のシギの渡りは例年より早めらしく、毎日キアシシギやアオアシシギの澄んだ声が聞かれる。うれしいことに、丸浜川に採餌に入るものもいる。赤虫(ユスリカの幼虫)がお目当てらしい。




