秋がいっぱい 1986年10月31号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1986年10月31日号掲載
秋がいっぱい
長雨のおかげで、夏がきれいに流されてしまった。青空にひろがる絹積雲、ススキ、モズの高鳴き、落葉や刈り草のにおい、おまけに食欲。げっそり夏やせしていた飼い猫が見る間につやつやとふとり、飼主の方は、言わぬが花。
家の中で毎日何かしら、虫の声がする。昨日は枕もとでミツカドコオロギが鳴いていた。二、三日前には、のこのこ出てきた小さなカネタタキがポットの口もとにとまり、手で追うと電気釜のふちに移った。しばらくじっとしていたが、やがてふちを伝ってまわりはじめた。三分の一ほど動くと、短いはねを持ち上げて、チ、チ、チ、チ、とひとしきり鳴いてみせた。感心して見とれていると、また三分の一ほどまわってから鳴く。電気釜のふちがよほど気に入ったらしく、カネタタキはそれから二〇分以上もふちを伝っては、一周につき三連節ずつチ、チ、チ、チ、と小さな鉦の音を聞かせてくれた。
九月二十八日の日曜、苗圃で敷きわら用の干し草を集めていた坂口君が、「双眼鏡、双眼鏡!」ととびこんできた。「オオルリ!キビタキ!それにムシクイ類も。ともかくいっぱいいるんだ。」
この日、坂口君が苗圃で見つけたのはオオルリとキビタキの他、センダイムシクイ、メボソムシクイ、サメビタキの五種。どれも秋の渡り途中の山の小鳥で、ふだんは見られないものばかり。苗圃といっても、草刈りの他には手入れもせず、苗木が茂るにまかせてある。でもけっこう木の種類が多く、小鳥が好む茂みもあるので、たいして広くもない割にはいろいろな鳥が多いようだ。そのかわり、ヤブ蚊もどっさり。
夕方、干し草を束ねてリヤカーで運び終えた坂口君たちが、「見て、これ」と持ってきたのは、何とアケビの実だった。まだ口を開けてはいないが、紫がかってよく熟している。苗圃のあたりでミツバアケビを見かけたことはあったが、アケビは実がなるまで十年以上かかると聞いていたので、まさかこの辺で実を見るとは思わなかった。
少しずつわけあったアケビの白い果肉は、なつかしい甘味だった。ぶつぶつした種ごとのみこむと、行徳に住んでもうすぐ十一年という実感がようやくわいてきた。私もやっと土着できたのだろうか。




