帰ってきたスズガモ 1985年11月8日掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1985年11月8日号掲載
帰ってきたスズガモ
十月二十六日の朝、何気なく水面を眺めたとたんに黒々としたスズガモの大群が目にとびこんできた。少なくとも三万羽、もしかすると五万羽近く。観察台からのぞくと、人影を認めたらしく、カモたちが少し遠ざかった。幼稚園に向かう子供たちが下の道路を通ると、更に沖へと動いた。それほど近距離‥‥‥人間から50mと離れていないところまで、群れがひろがっていたのだ。
スズガモの第一陣は六十羽程度の小群で、九月十六日に見かけた。一ヶ月ほどで数が少しずつふえて、十月十九日には千羽をこえた。二十から二十五日まで三千羽前後が見られていたのが、この日一挙に数万羽にふくれ上がったのだ。一、二日前にマイナス五〇度の寒気団が近づくという気象ニュースを聞いたばかり。このカモたちはもっと北の青森や北海道、もしかすると千島やサハリン方面から飛びたち、夜を徹して飛んできたものかも知れない。
十月中に三万羽をこす大群が見られたのは初めてだし、数千羽や1万羽前後、二万羽弱、という中間段階を経て数万羽に達する例年の様子と違って、いきなり大群が入ったというのも初めてのこと。
この六月、保護区前の塩浜二丁目の京葉線沿いに、ちょうどカモの通り道をふさぐような位置で六万ボルトの高圧線が張られた。東京電力では鳥の衝突防止のために一mおきにプラスチックのリングをつけ、見やすいような工夫がされた。カモが入ってきてくれるかどうか心配していた矢先に、例年以上にみごとな大群が入ってきてくれたのは、さすがにうれしかった。
夕方四時をまわるころ、それまで落ちついて休眠していたスズガモがざわめきはじめ、水面に流れ模様を描いて泳ぎ寄り出した。やがて端のほうから百羽前後の群がいくつか飛びたち、南から北、ちょうど千鳥町交差点の方向へむかった。昨年まではこのまま東に向きをかえ、五、六十mの高度で海に出て行ったものだが、群は千鳥町の手前でぐるっと回転し、行徳高校方面に戻ってきた。観察舎上空を通過して福栄四丁目の住宅地にかかるあたりで群は再び方向転換して、南東へ向かってぐんぐん上がって行く。高圧線を通過する時はたっぷり二百m以上の高さを飛んでいた。安全な高度を保ち、電線衝突の危険を避けるため、何度も大きく方向をかえるので、ぼんやり見ているとまるで西の荒川方面に出て行くような錯覚を起こしてしまう。湾岸道路や倉庫、工場、高圧線といった何重もの障害物にもめげず、遠い北の海からまっすぐ保護区に入ってきてくれたスズガモたち。
十月二十七日の朝、東京湾で夜の間採餌していたスズガモが保護区に戻ってきたのはちょうど六時前後。夜明けの空を背景に飛ぶ大群は、いつに変わらぬみごとな眺めだった。これから当分の間、朝五時四〇分ごろに塩浜岸壁に出ると、スズガモの朝帰りの光景と日の出をたんのうすることができる。まだ寒くもないし、ぜひお試しください。
観察舎前水路(愛称「丸浜バードリバー」)の浚渫工事のため、十一月上旬から年内いっぱい、行徳高校から観察舎までの道は平日通行止になります。ご迷惑をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。




