シジュウカラ異変 1984年5月11日号掲載
シジュウカラ異変
シジュウカラ(四十雀)という小鳥をご存じだろうか。日本全国でふつうに見られる種類で、スズメ位の大きさ。灰青色の体に黒い帽子、ネクタイをしめたような腹の黒帯が特徴。白いほおが目立つのでホオジロと思われていることも多い。チーチージュクジュクジュク‥‥‥と呼びかわしながら活発に飛びまわり、まるで鉄棒をやっているように小枝にぶら下がったり、両足で木の実や虫をおさえてトントンとつついたり、見ているだけで楽しくなるようなかわいい小鳥だ。巣箱をよく利用する上、あまり人おじしないので、庭や公園の人気者である。
ところがこの鳥は、都心でもーそれこそ東京駅でも銀座通りでもーよく見られるのに、荒川から東のかつてのデルタ地帯にはほとんどいない。江戸川区をはじめ、浦安・市川・松戸の大部分・船橋の海岸寄りなどの地域では、むしろ稀な冬鳥になっている。
こうしたシジュウカラの分布は、沖積世のころ、このあたり一帯がまだ海底や入江であり、房総丘陵が島状であった当時の森林の分布と一致しているのではないか、つまりこの鳥は、長い長い年月の間、種族の伝統的な生活域を守って暮らしてきたのではないか、などと思っていたものだ。それにしても、シジュウカラの多い都内に住んでいた私にとっては、この鳥のいない庭はひどくさみしいものに思われて、巣箱作りにも熱が入らなかった。
ここ四、五年、秋になるとシジュウカラの姿が時々見られるようになった。一羽か二羽が冬中残ることもたまにはあり、昨年の十月にシジュウカラが記録された時も、例年同様の秋の渡りと思っていた。しかし、今冬のシジュウカラは日を追って次第にふえてきた。新浜鴨場周辺に限らず、旧道沿いのあちこちで目につくようになり、時には四、五羽から十羽近い小群まで見られた。この冬の積雪や寒波の影響で、山地や北方に残るはずだった鳥が南下してきたのだろうか。それとも夏の繁殖成績がよくて、育った若鳥の数が例年より多かったのだろうか。行徳だけでなく、市内のあちこちでシジュウカラの越冬が目立ったとのことだ。
二月末になると、チューピーチューピーという高らかなさえずりが聞かれるようになった。観察舎の近くでも二羽で巣箱をのぞいているつがいがいたので、もしかして巣作りをしないかと期待していたのだが、三月に入って間もなく、シジュウカラの姿は急に少なくなった。繁殖場所をめざして帰って行ったのだろう。
ところが四月に入ってから、ごく少数のシジュウカラが残っていることがわかった。新浜鴨場に少なくとも一つがい、湊新田の方にもいるとのこと。もう卵をうんでもおかしくない時期だ。この鳥たちが巣をつくり、ヒナを無事に巣立たせることができれば、行徳で繁殖する鳥(市川で、と言ってもいいのかな)が新しくふえることになる。八年前から繁殖をはじめたヒヨドリ、四年前からのセイタカシギに続く快挙である。ニュー・フロンティアのシジュウカラたちが定着できるかどうか、今年と来年は大事な年になりそうだ。
それにしても、セイタカシギはともかく、ヒヨドリやシジュウカラは明るい森林から市街地にすむ種類。沼や湿地を好む水鳥が減少の一途をたどり、ヒクイナ、タマシギ、アマサギ、チュウサギなどほとんど姿を消してしまった種類も少なくないことを考えると‥‥‥時代がかわったんだなあ。




