22 僕と彼女と古傷
「タツの背中って意外と大きいのね」
男なら一度は言われてみたい台詞に入りそうなことをさらりと告げたのは僕の背中を流してくれている瑠璃さん。
・・・・OK。状況が認識できないのは僕も同じさ。
混浴のフラグはへし折られたはずだったのに・・・何故か僕は瑠璃さんとお風呂に入っております。
健全な男子としては美味しすぎるシチュエーションなのだが・・・誓って僕は何もしていません。
指一本触れてないどころか、逆に瑠璃さんにベタベタと触られてるぐらいだ。
そのたびに瑠璃さんの細い指や手の感触や、暖まった体温が伝わってきてこそばゆい気分になるが・・・再度言いましょう。僕は何もしておりません。
普通の男子ならこのままエロゲ的な展開もありそうだけど・・・僕は草食系(という名前のチキン)なので、そこまでの気概はない。
婚前交渉が当たり前のようなこのご時世に、どうかと言われるかもしれないが・・・一時の快楽のために種の本能に全てを任せるのは僕のポリシーに反する。
よく、子供を捨てたりする親がいるけど・・・あれって、一時の快楽に身を委ねて失敗したケースだろうから、僕としてはそれが怖いというのもあって、下手に手を出せないでいる。
もちろん、僕としてはやらかした場合は責任をきちんと取るし、なんなら瑠璃さんが僕を嫌いにならない限りは離れるつもりはないが・・・この先どうなるかはわからないし、それにこれは僕だけの問題ではなく、瑠璃さん・・・ひいてはそれに関係する人の問題でもある。
瑠璃さん的にはそのうち、新しい人に『烈兎隊』の総長の座を明け渡すと言ってはいたが・・・何やら話によると、瑠璃さんはかなりのカリスマでチームを纏めているようで、当分は無理そうみたいだ。
まあ、色々言い訳を重ねてはみたけど・・・僕としては誠実にいたいというのと、未知のことに恐怖する感情が混ざっているという認識が打倒だろう。
「ねぇ・・・タツ・・・」
「ひゃい!る、瑠璃さん!?」
振り替えわけにもいかずに声だけあげるが・・・うん。完全に今、僕の耳元へ息を吹き掛けるようにささやかれましたよ。ええ。
「タツはどうして手を出さないの?」
「ど、どうしてって・・・」
「私が言うのもあれだけど・・・男の子なら普通はこういう状況なら襲ったりするんじゃないの?」
何やら偏見がありそうだが、その通りな疑問に・・・僕は少し視線を下に向けてぽつりと言った。
「その・・・中途半端な気持ちで瑠璃さんを抱きたくないから・・・かな?」
「中途半端?」
「瑠璃さんが好きなのは事実だけど・・・だからこそ、お互いにもっと深く通じ会ってからがいいというか・・・その・・・」
性的な欲求だけで瑠璃さんを抱きたくない・・・もちろん、その手の欲求からの恋愛もあるだろうし、恋愛自体にもそれが含まれるだろうけど・・・だからこそ、少しずつゆっくりと育んでいきたい。
そんな僕の曖昧な言葉に・・・後ろの瑠璃さんがくすりと笑ったような気がした。
「タツは意外と乙女チックだね」
「う。め、女々しいかな?」
「普通の女の子なら面倒がるかもね。でも・・・私はそんなタツが好きだよ」
「瑠璃さん・・・」
「タツ。変なこと聞いてごめんね。でも、私も色々と不安もあるのよ・・・タツのことは信じてはいても、やっぱり女の子としては好きな人との確かなものが欲しいから焦っちゃうの」
瑠璃さんのその言葉に・・・なんとなくわかるような気がした。
「案外似てるのかもしれないね」
「ふふ・・・そうかもね。だからこそお似合いよね」
多分・・・瑠璃さんも気持ち的には僕と似ているのだろう。
好きな人との確かなものが欲しい・・・信じてはいても不安な気持ちになる・・・そんな感情はわかる気がする。
僕だって、瑠璃さんのことは信じていても・・・時々嫌な想像をしてしまうことはある。
瑠璃さんが僕の知らないところで他の男に取られたりしてないか・・・とか、柄にもない独占欲的なものまである始末だ。
恋愛とはまったくもって面倒であり・・・でも、いいものでもあるのだろう。
「あれ?タツこんなところに大きなキズあったんだ」
「おふ!」
つうっと、指先で脇腹の横をなぞられて思わず変な声をあげてしまう・・・な、ナチュラルにそういうことする瑠璃さんはマジで小悪魔な気がする・・・
「ま、まあね・・・昔事故にあったときの傷が残ったんだよ」
「事故?」
「う、うん。保育園ぐらいの時のことかな・・・友達の子と近所の公園で遊んでいたら、ボールが公園の外に出ちゃって・・・追いかけていったらその友達と一緒にバイクに引かれてね」
「それ・・・大丈夫だったの?」
「バイクもスピードは遅かったし、かなり軽傷にすんだけど・・・その時に大きい石が下にあって、それが食い込んで傷口が広がっちゃって、今でも残ってるんだよ」
あの時は・・・そうそう。友達がボールを追いかけて外に出たのを止めようとして一緒に引かれてしまったんだよね。
まあ、その子も対した怪我はなかったみたいだけど、あの子はかなり前に引っ越したからなぁ・・・元気かな?
「そう・・・ちなみにその子って女の子?」
「そうだけど・・・なんでそう思ったの?」
「女の勘・・・かな?でも、今は近所には住んでないの?」
「うん。大分前に引っ越したみたいだけど・・・別にどうこうは無いよ?保育園ぐらいの話だし、瑠璃さんに会うまで告白どころか、初恋もまだだったくらいだし・・・」
言ってて悲しくはなるが・・・その分今、軽くリア充になりかけてるからいいだろう。うん。
「そう・・・」
何やら考え込んでいた瑠璃さんだったが、しばらくしてからまた僕の体を弄んでいたので、特に問題はないだろう。
・・・うん。別に僕からは何もしておりません。誓って。




