行けトリス!君に決めた!byレイン・イース
どうもこんにちはっす。
トリスっす。
今日も今日とていつものように鍛錬をサボり、久し振りにイース家に来たっす。
相変わらず変わらない感じっすね…っ!
これは…先輩の殺気!
「イチ先輩お久しぶりっす!」
何もない空間に向かって声をかけるっす。
すると大体そこにシュバッと先輩は現れるっす。
シュバ!
やっぱかっこいいっすね。
あれだけは習得できなかったっす。
「お前なぁ…勘が鈍ってるぞ……はぁ」
イチ先輩は由緒あるアサシンで自らのことを『シノビ』だと言っているっす。
直接戦闘は苦手と言ってるっす。でも普通に俺より強いのは正直応えるっすね…
ちなみに俺を育ててくれたのもイチ先輩っす。
……ん?先輩人族っすよね?今何歳なんすか?
そういえば昔、家の人が全員でダンジョンで武者修行をした時も妙に手慣れていたっすね……
無駄な詮索をしないのがアサシンの基本っす。
先輩曰く無駄に頑張って天井裏なんかに潜むと槍で刺されるそうっす。
シュバ!
言いたいことだけいうとどこかに行くのも変わってないっすね。
それにしても珍しく客人が来てるみたいっすね。
どれどれ?この紋章は王家っすか…こっちはマギラウス家っすね……
え?
やっぱ後ろめたいことがバレたっすか?!
他の国の宝物庫からお金をパクったことっすか?
それとも他の国の予算の帳簿を書き換えたことっすか?!
それとも他の国の国宝を偽物とすり替えたことっすか?!
聖剣を盗んで家の地下にしまったことっすか?!
聖杖も一緒に盗んだことっすか?!
やばいっすよ…
はっレイン様まだ生きてる!とりあえず挨拶!
「おっす…あっレイン様じゃないっすかトリスっす。お久しぶりっす」
レイン様は生きてたっすね。
…あれ客人はど、こ……
「ってええっ?!なにがあった?」
「はっ?!なんでトリスがここにっ!ぅ、腕がぁぁあああ」
「切れた……って大丈夫か?!お前強化はどうしたんだよ!いや俺が切断強化使ったからか?!」
「お、お、親父!!」
「フーッ!フーッ!ハァハァ……大丈夫…大丈夫だから」
突然っすけどマーク様が我らがクロム将軍の腕を切り落としたっす?!
「おやおや、(本当に傷口を塞ぐだけでいいのかい?)」
「えぇ、構いません」
「はぁ…なんでこうなったのかねぇ?
『ヒール』」
すぐさま傷口は塞がったけど……切り落とされた左腕が生々しいっす…
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そうだ忘れてたっす!
あの後どうしてそうなったのか聞いてやっと納得したんすけどレインさんに聞くの忘れていたんすよ。
「レイン様…」
「戻ってくるってことは何か調べ物があるのだろう?言ってごらん」
さすが話を理解するスピードが速いっすね。
「俺は…いえ私は聞きたいことがあってここ戻ってきたっす…ました」
「敬語はいいから早く質問を」
「俺はある人に一時的に教えを請うことができたっす。その人はある時からパタリと居なくなってしまったっす。その人を探して欲しいっす」
ここでイーストライト様の武勇伝を語るのはあまりに簡単なことっす。
でもそれはレイン様に迷惑をかけることになるっす。
ここは我慢っすよ。
「なるほどそれは何の師匠なんだい?」
「武です。あの方がカタナを振る姿は隙がなく……失礼したっす。」
「へぇ。随分とトリスはその人物に入れ込んでいるようだね。その人の名前はなんだい?」
レイン様は微笑みながら紅茶を口に含む。
というかこの執事いつのまに?!
これは勘が鈍りすぎっすね…
「その人の名はイーストライトっす」
「ブッーー!」
レイン様…不意打ちとはいえ紅茶を吹きかけてくるとは思わなかったっす……
まだまだ俺が修行不足だとわかるっすね…
ただ不意打ちならナイフとか暗器があると思うんすよ
「ああ、すまない。ちょっと知ってる人の名前に似ててね。その人の容姿はどんな感じ?だった声は?特徴はなんかあるかい?」
なんかレイン様がめちゃくちゃ動揺している気がするっす。
「そうっすね…まずいい匂いがしたっす。花というか自然を思わせる匂いっすね。
後は結構背が小さかったっす。
声は中性的な感じっす。後は足音が全くしないっすね。それから猫耳があったような気がするっす。後は…なんかいつもぼやけてるような感じっすね、存在感が薄いというかうまくいえないんすけど幻影を見てる気分だったす。ん〜見たら絶対わかるんすけど…」
あの今にも消えそうな気配。
魔力の残痕。
音を立てないのに優雅で高貴な気品を漂わせるあの仕草全て。
もう一度見ることができれば確実にわかるんすけど……
やはりどこかの引退した高貴なお方なのだろうか…できればもう一度手合わせを願いたいっす。
「いつも幻影を使う…背が低い…中性的な声…気品を漂わせる仕草…おいおい絶対トライトさんの悪ふざけだろ…というか偽名が相変わらず雑だな…
トライとかトライトイとかライトとか…
はぁ…あの人もうちょっと偽名を真剣に考えるべきでしょ…
中性的な声も背を低くするために幻覚を見せるのもやり口が変わってないし…猫耳をつけただけ進歩…なのか?」
え?レイン様もしかしてイーストライト様と面識あるの?!すげぇ……イーストライト様すげぇな!いや…まだ俺の早とちりかもしれないっす。
「イーストライトさんのことを知ってるんですか?!」
「え?うん、まぁおそらく…というか九割九分九厘ね。」
「マジですか?!教えてください!」
「いや…その人ね。これ伝えていいのかなぁ…」
いや?!なんでそこで迷うんすか?!
「教えてくださいよ!お願いするっす!」
「いや、別に構わないんだけどね?その人の本当の名前はトライト・イース前侯爵。人族で男性だったけど幻覚を見せるのが上手いし魔法も上手だし近接戦闘でも敵なしだしもう300年は生きてるらしいし…うん人なのかどうか怪しくなってきたね。旅に出るって行ったきり帰ってこないけど侯爵だった頃はそんな感じの変装をして良くいろんなことをやってたよ」
わ、わぁ……そ、そんなことがあるんですか…
「連絡は…」
「うん、つかないね」
「そ、そんな…」
王族もマギラウス家も帰り元将軍のハウル様もヒルダ様もいなくなったイース家で俺は膝をついたのだった…
クロム将軍は腕を息子の代わりに切らせるしどうなってるんすか?!
あぁ酒が飲みたい…あ、もう飲んでもいいのか。
ニンニクを使った上手い料理も食べれるし……
何より人の血を見なくてももういいんですよね。
戦うことしかできないから騎士になったんすけど技量が足りない…
そのためには師匠がいる。
誰にも負けないくらい俺を強くしてくれる師匠が
突然レイン様の声が響く。
「別にそこまでして無力化にこだわらなくてもいいじゃないか。自分が傷つかないために敵を素早く倒す、それでいいじゃないか。
別に長剣にこだわらなくても糸と短剣で気づかれないうちに敵を殺すのが君の戦い方だっただろう?」
確かにそうかもしれない。
でも…たまに右手が血で染まって見えるんすよ…
敵を斬った時の感触が残ってるんすよ…
血の匂いが鼻にこびりついてるんすよ…
殺したやつの家族が泣き叫ぶのを何度も見たんすよ…
それが頭から離れなくて…もう嫌なんすよ…
「これからも長剣で戦っていきたいっす…もっと強くなれば敵を傷つけずとも無力化できるはずっす…」
「そうか…すまない、ひどい仕事を押し付けたな…そういえばトリスは優しい子だったね。訓練をよくサボるって聞くからこっちの世界に呼び戻そうかとも思ったけどやめておくよ」
「すいません…育ててもらったのに…」
孤児だった俺をここまで育ててくれたお礼分はもう働けただろうか…
「いや、そんなことは気にしなくてもいいよ。いわゆる貴族の道楽ってやつだし人材も手に入るから純粋な奉仕ってわけでもないからね」
そんなのは嘘だ。孤児院のほとんどは社会に出て行ってる。
「でもほとんどの奴らは自由に働いてますよね?全然特なんかしてないじゃないっすか」
そんな言葉で甘やかしてもらうと困る。
恩が残るじゃないっすか…
「そうだね、たまに善意で情報を持ってきてくれるけど。まぁその程度で十分なんだよ……だから別に君がこっちの世界から足を洗ってくれたって構わない。むしろそっちの方が嬉しいよ」
「すいません。本当に…」
全くこの人は…なんでこんな人がそういう世界に足を踏み込んだのか不思議っすね…
「気にすることはないさ。またいつでも帰っておいで。……そういえばより強くなりたいなら紹介状を書いておこうか?」
「どこへの紹介状ですか?」
「アズール学園国……そこの衛兵だね」
アズール学園国……国とはいうもののアズール商会の持つ設備の一つである。
海に浮かぶ巨大な島一つをまるごと学園にしておりありとあらゆる知識や技術が集まる場所だ。
世界中の貴族が集まることでも有名でここで学ぶことが一種の自慢にもなる。
もちろん武も鍛えることが出来る。
学ぶということに関してはこれ以上ない場所だろう。
なぜそこに紹介状を?
「嬉しいんすけど…俺なんかが行って大丈夫なんすか?…そもそもどうして紹介状持ってるんすか?」
「え?そりゃ私がスポンサーの一人だからだよ?あとライカちゃんも、もうすぐ8歳じゃん?そしたら職業を授かるじゃん?9歳になったら小等部に入れるじゃん?というわけでライカちゃんが入った時のためかな」
「あっはい…そうですか。ぜひ行かせてください」
「いや、こちらとしても助かるよ…とりあえずこっちで異動願いとか説得とかはしておくから」
……あれ?これまずいパターン?
小等部で3年。
中等部で3年
高等部で3年
もしも大学部とその後の大学院まで進めば6年
最大で15年かぁ…あっ、でも今からだとさらにプラス2年っすか……
その間に向こうで彼女作って結婚するっす。
こっちだと全然出会いがないんすよ!
それに…卒業の時には30後半のおっさんっすよ
「あっ、あと今から生まれてくる子供も9年後には通わせる予定だから」
「向こうに骨を埋めればいいですか?」
どうやら母国の土を踏むことはこの先なくなりそうっす……
できればいいお嫁さんが欲しいっすね…
「では行け!トリス!君に決めた!」
「了解っす…」
「まぁ大きな休暇が年に2回あるからその時に帰ってきなよ」
「あっそうなんすか」
それでも休暇の間に嫁を探すのは無理っすね…やはり学園内で探すしかないのか……
いや、そもそも断るという選択肢は…
「その時にはなんか奢ってやるからさ」
「約束っすよ!絶対っすからね!」
ないっすね。いいお酒でも貰うことにするっす。
そういえばマース王国のどこかに酒神と呼ばれるほど酒造りが上手い人がいるって聞いたっす。
貰うものはその人が作った酒にするっす。
噂だと…俺の年収と同等のお値段らしいっす…
「…あまり高くないもので頼むよ?」
騎士のお給料は安いから大丈夫っすね
レイン「よかったなトリス君。君の異動が決まったよ。場所は海の向こうだ。おめでとう。」
トリス「くっ…これが権力っ!」
没ネタです




