貴族の役割
「美味しいかい?それは良かったよ」
「フェルさんの料理は本当に美味しいですからねぇ」
レインさんとソニアさんはこちらを見ながら微笑んでいる。
そんなにじっと見られると食べづらいし、何より恥ずかしい。
それにしてもスープが美味しい。
飯がうまい。
4ヶ月の日々は長かったなぁ。
礼儀作法の訓練は本当に辛かった…
ヤバ…ちょっと涙出てきた。
「そんなに美味しかったのかい…本当に良かったねぇ」
「ライカちゃんのことはパパが守ってあげるからね!……と言っても限界があるけどね。ハハハ」
「そこは守りきるって言い切る場面じゃないの?」
ソニアさんが私のことを慈しむような目で見ていたのだがレインさんの『限界がある』宣言で空気が一転。
おお、スタンドが般若とは。
頼もしいぞ!ソニアさん!
「そんなに軽い気持ちだったのかしら?」
「い、いえ、そんなことはないですよ?」
「あら、本当かしら?パパなら娘のことはなんとしても守りきるわよねぇ?私はそうするわ、それが母親として当然ですもの」
「はい、なんとしても守ります」
見事にソニアさんに敷かれてるなぁ。
ソニアさんはポワポワしてる優しいお母さんかと思ってたけど全然違った…
なんというかスイッチが切り替わると貴族様になるみたいだ。
私も貴族様モードができるようにならないといけないのかな?
私には無理そうだなぁ。
オーホッホ、なんて高笑いはできないし、そもそもそんな笑い方する人がいたら見てみたいね。
「ライカちゃん?どうしたの?」
どうしたって特におかしいところはどこにもないと思うけど……
さっきでていた涙を手で拭う。
ハンカチなんか持ってないよ!
「どこか、おかしいところがありましたか?」
「ううん、どこもおかしくないわ。でもやっぱりライカちゃんは笑顔が一番似合うわ」
私はそう指摘されて自分の頬を触る。
確かに口角が上がってるのかな?
今までよく意識してなかったけど私は笑ってたみたいだ。
「やっぱり笑顔が一番だね…せっかくの料理が冷めちゃうから早く食べよう」
「はーい」
「返事は『はい』。伸ばしちゃダメよ?」
「わかりました」
「そこは『はい』じゃないの?」
食事は楽しく進んでいった。
久しぶりに家族がいる気分を味わってなんだか幸せな気分だ。
大事な話があるとか言ってたからちょっと気構えてたんだけど気にしすぎだったみたいだ。
食事を食べ終わったあとにレインさんが座り直し口を開いた。
「ライカちゃん。ここからは一人のエルフ、レインとしてではなくマース王国、筆頭侯爵家当主レイン・イースとして話すよ」
と、そう言った。
レインさんの雰囲気が引き締まったものへと変わる。
私は緩んでいた心を引き締め直す。
「まぁそんなに気構えなくてもいいんだけど。
まずライカちゃん、いやライカ。君はこれから僕らの家族の一員になる。つまるところ貴族の一員になるわけだけど……その意味をわかっているか?」
貴族の意味。
元の世界ではとっくになくなっていた身分制度。
ただひとつだけ知っている言葉がある
「高貴さは強制する」
これは財力、権力、社会的地位、これらを有し身分の高いものはそれに見合った義務を果たさなければならず、それに見合った振る舞いをするべきだ、という道徳観のことを指す。
私にはどれもないけどね。
ただ知ってるだけ。
「よくそんな言葉を知ってるね。偉いよ」
「えへへ」
でも褒められるのは嬉しいんです。
精神年齢落ちてるなぁ…
「でもそれは当たり前だよ。ライカ、君は恵まれている。それをまず自覚しなさい。
そして立場を自覚しなさい。
身分にあった振る舞いを身につけなさい。
言葉遣いも何もかもが違うだろう。
でもね、これからはそんな世界で生きていかないといけない。
時には敵ができるかもしれないし、命を狙われるかもしれない。
僕らは貴族。高貴な者。上に立つ者。
だから決してそれらに負けたり挫けたりしたらいけない。
ライカ、君はこれからお金に困ることはないだろう。
でもそれは民達の税金であり、決して自分のものではないと知っておいてほしい。
民あっての国、民あっての貴族
民は貴族を支え、貴族は民を守る
民なくして国は成り立たないということを忘れないようにしなさい」
……レインさんがカッコいい。
いきなりビシッとしてキラキラしてる…
はっ…ちょっと見惚れてたかも。
「返事は?」
「はいっ!」
なるべく爽やかに元気よく返す
「いい子だね。でもこれからはお嬢様だからもうちょっとお淑やかにね?」
ちょっと声量が足りなかったかな?
それとも滑舌?
「はいっ!」
「お淑やかの意味わかってる?」
語尾にちっちゃい『つ』をつけると爽やかに聴こえるとどこかで聞きかじったんだけどなぁ。
「まぁ言葉遣いとか礼儀作法はおいおいやるとして…まずはこの国の4大貴族、そしてその役割を話そうと思う」
そして話は始まった。
「まずこの国の始まりは大体500年前だと言われてる。……あぁライカちゃん、もう気を楽にしていいよ」
え?そこから?歴史の授業ですか?
困ったなぁ歴史は苦手なんだよなぁ…
私は椅子に座り直す。
「この国は新興国家な訳だ。
だけど土地自体。マース家自体だと話は変わる。
元々マース家は辺境伯、遥か西にある帝国の一貴族だったのさ、それも800年は続く名家。
なんで中枢に入らないのか不思議なくらいのね。
…500年前頃、その当時の帝国はそれはひどい圧政だったと聞く。
それに帝国の本土ではひどい飢饉が重なったらしくてね、とんでもない量の税を辺境だったこの地方にかけたらしい。
幸いこの地方は豊かだったから最初の一年は余裕を持って持ちこたえたそうだが、それに味を占めた帝国は飢饉が終わった後も2年3年と要求を続け……
それが続き5年目でとうとう限界がきたそうだ。……ってライカちゃん、聞いてる?」
ちょっとだけ、うとうとしてたかもしれない…
寝ないように気をつけないと…
うーんやっぱり加護が切れたのは大きいかもしれない。
夜更かししてチェスをするのはもうやめよう。
「はい。聞いてます」
気合いを込めろ!睡魔なんてぶっとばせ!
病気も気合いでなんとかなる!
ってお母さんがよく言ってたなぁ…
なんだったんだろうね、あの教育方針は。
病気は気合いじゃどうにもならないでしょ…
それでも気合いは大事だと思う私は、すでに毒されているのだろうか?
「話を続けるよ。
そしてマース辺境伯はその周辺の子爵家3家と協定を結びクーデターを起こした。
これは絵本になってるからみんなが知ってることだね。
まぁ英雄録みたいな感じだからだいぶ内容は違うけど。
それが今のマース王家と2大貴族のアーツクス家とマギラウス家だよ。
アーツクス家は今の騎士団を纏めている家で、マギラウス家は今の魔法師団を纏めている家だよ。
魔法師団は宮廷魔導師も兼ねてるね。
まぁこれは経費削減のためだったんだけど…
…そういえば近頃アーツクス家のルイーナ嬢が正式に結婚式を挙げるそうだから来てくれと王家から招待されてたな……ライカちゃん?」
はっ……寝てません。
寝てませんヨ?
「レイン…話が逸れてるわよ」
ソニアさんがやんわりとした雰囲気で注意する。
内容はどストレートなのだけど。
「あぁすまないね、でその時のもう一家がこのイース家というわけさ。
で役割の話なんだけどね…
その当時のその家が得意としていたことがそのまま引き継がれているんだ。
まぁ理由は他にもあって、その当時の戦を助けてくれた勇者がね建国に携わっていたんだけど、その勇者が
『権力はいつか腐る。だから分けないといけない』
と言っていたらしくてね、そのせいもあって、マース家、アーツクス家、マギラウス家の3家だけは貴族の中でも領地を持たないという特殊な立ち位置なんだ。
そのかわり絶大な武力を持っているけどね。
話が逸れたね、でイース家の役割なんだけどこの王都を管理しているのは実はイース家なんだ。
それがイース家の表の役割」
ん?なんかきな臭くなってきたぞ?
表ってことは当然裏があるわけでして……
神さまどこに私をぶち込んでくれやがったんですか……
神は死んだ!
私はティム神に祈りを捧げる!
ティム様どうかあの残念な主神が地獄に落ちますように…
=生きとるぞー=
……チェンジで。
「王家と公爵家が建国に貢献したというのはさっき言ったみたいに絵本にもなってて、
華麗に敵の策略を見抜き指揮をとるマース王家、一人一人が一騎当千の騎士であるアーツクス公爵家、戦場を焼き払い、雷を落とし、天変地異を引き起こす大魔導師達の集まりであるマギラウス家……その3家が協力して凶悪な帝国を薙ぎ払い王国を作った…という話になっているんだ」
……ん?イース家は?
というか意外と聞き入っている自分にびっくりだよ。
「さて、じゃあイース家は『なぜ絵本に載らないのか』それを説明しよう。
それがイース家の裏の役割。
というより本当の役割だからね。
なぜ絵本に載らないか、その理由は簡単。
やってることがとても載せられるものではないから」
やっぱり裏稼業…暗殺とかかな?
「なんか、『やっぱり』みたいな顔して落胆しないでくれる?その当時ほど過激じゃないからさ。
今の役割は諜報がメインだよ。
敵の策を見抜くにも、一騎当千の騎士が活躍するためにも、凄腕の魔法使い達が敵を焼き払うにしても正確な情報がないことには何もできない……
情報の大切さがわかってくれたかな?
それと同時に身バレすることは情報の収集に支障をきたす。
だから絵本には載っていないのさ。
まぁその当時は敵の指揮官の暗殺とか補給線を断ち切ったり、砦を爆破したりと色々裏工作もやってたらしいけどね…もちろん今もやろうとすればうちに仕えてる人はみんな同じことができるけど」
「ねぇ…ところでこの話……」
「刺激が強すぎるかもしれないな…」
「違うわ、量が多いの。まだ6歳よ?」
「でもアーサー王子は「口答えしないの、ライカちゃん、ちょっとお休みしましょうか?」
……刺激が強すぎるかもって。
床に人の指が落ちてるのはそういうことだったのか!
って今更ながらに思ったよ。
思い出したら吐き気が…ちょっと気持ち悪いかも。
「ほら貴方!ライカちゃんは穢れを知らないから…」
いいえ、すでに動物の血で血塗れでございます…
「それは甘やかしすぎなんじゃないか?」
できればもうちょっと甘やかしてほしい…
ダメですか?
気持ち悪いけど「パパ」って言ってみた。
「前言撤回!僕は全力で甘やかします!」
頬ずりするのはいいけど……
「貴方……スープが口の周りについたままよ…」
「え?うわっ、ライカちゃんごめん!」
そう言ってパパは口の周りを拭いた。
でも私の顔がスープ塗れだ…
「ライカちゃん…お風呂行きましょうか」
「じゃあ僕も…」
「貴方はダメよ…乙女の肌をこんなケダモノに見せるわけにはいきませんもの」
「それは男として?それとも1エルフとして?」
「エルフなのにケダモノだとは思っても見なかったの…」
「それはねぇ…ソニアが可愛いから…それにソニアだって…」
「それ以上はダメよ?ところで今夜良かったら…」
……早く風呂に連れて行ってくれないかな?
ちょっとスープがカピカピになってきたんだけど…
「レイン」
「ソニア」
気まずい。
本当にどんなところにぶちこみやがったんだあの神様は……
「あっごめんなさい。ライカちゃん、行きましょうか」
「はい、お母さん」
お母さんと手を繋ぐ。
恨めしそうにパパが見てるけど知るもんか!
「パパ、バイバイ」
「絶対!今日の夜は容赦しないからな!」
「あら?先に倒れるのはいつも貴方じゃない…」
パパ……子供の前で何を宣言しているんだ……
それに返すお母さんもお母さんだよ……
それにしても……
ここでの生活は面白そうだ。
思ったよりも長くなってしまった……




