これから
「さて、とりあえず、急ぎ解決しないと行けない部分は片付いたからの、今日は終わりじゃ」
生徒会長が本日の生徒会活動の終了を告げた。
・・・すみません、生徒会活動にすれ違いバカップルの別れ話を入れていただいて・・・・
ちょっとだけ、仕事が山になっている机を見てミナはそう思う。
でも、きっとサトリという仲間は彼らにとっては仕事より優先すべき心配だったんだ、と心が温かくなった。
生徒会室に荷物のあったミナと、ミナのために慌てて生徒会に来たからクラスに荷物を置いてきた悟。
靴箱で待ち合わせて、一緒に帰ることになった。
薄暗くなった外へ出ようとした時、悟が振り返って、少し後を歩いていたミナに向かって手を差し伸べる。
ミナは何も言わず、その手に手を載せた。
ぎゅっと握られる。
そのまま、手をつないで帰り道を歩く。
お互いの手の暖かさが嬉しい。
「俺の家に寄ってく?」
「・・・うん、そうだね。この際、さっき言えなかったとこもあるだろうし、全部聞かせてもらう」
久しぶりに入る悟のマンションの部屋は、何だか以前と違和感があった。
「?」
お茶を淹れにいってくれた悟をそのままに、まわりを見回す。
どこが違うんだろう?
雰囲気?
しばらく考えて、ミナは結論にたどり着いた。
きれいに掃除されすぎている。
まるで、いつ死んでもいいかのようなきれいさだ。
観葉植物や、生け花などがきれいになくなっている。
世話をする気がなくなった、と言うことだろう。
ふと、応接室で源くんがいっていたことを思い出す。
「お前、またひきこもるつもりだっただろう」
おそらく、ここしばらくの間、ここは人を招くところではなく悟を収監するところだったのだろう、と思った。
・・・ほんと、真面目すぎる。ひきこもりにまで馬鹿がつくほど真面目だ。
でも、その真面目さで自分のことも考えてくれたのなら、それはそれで嬉しいと思うミナだったりする。
この部屋は居心地がいいように変えてやる、とりあえず、それだけ決心した。
悟がアールグレイを淹れたティーカップを運んできた。
それから、二人はいろんな話をした。
といっても、ほとんど、さえさんの話を悟が話すのをミナが聞いていたようなものだ。
全てを話終えて、悟はすっきりとした顔をした。
「聞いてくれてありがとう。これでやっと、前に進める気がする」
そう言って笑う悟は、やっぱりちょっと今までの悟とも違っていた。
ミナの方からは、ひとつの質問。
「ほんとにわたしのこと、好き?」
これから、いろいろと積み上げていくにしても、これは一番大事なこと。
有耶無耶にしたくなかった。
「好きだよ。・・・というか、『愛してる』」
それが悟の答え。
それなら、と、ひとつの約束をとりつける。
「それなら、自分で勝手に二人に関することは決めないで」
だって、さえさんのこともそう。
さえさんとちゃんと話し合ってたら、こんなにこじれることになってない。
今回だって、勝手に別れることにして、説明もなかった。
「だいたい、心が読めるくせに、どうしてちゃんと人と話し合うことが・・・」
言いかけて、やめた。
悟は、心が読めるから、話し合えなかったのじゃないかとふと思えて。
何人もの心を読んで、自分が本当は否定されているのを知って、それを笑顔に隠して生活してきた悟には、大事な人と話してもしそんな拒絶をされたら、という恐れがあるのだろう。
人が信用できなくなる。
大事な人は、信用したいから心も読まない・・・?
「こうやって、話し合うことで解決することって多いと思う。もちろん、全部が解決に至るわけじゃないのはわかるけど、でも、話し合うだけ話し合ったら、気持ちもけじめがつけやすいと思うんだ」
ミナはそう言ってみた。
お願いだからもう勝手に別れを決めないで、と心で思う。
「悟が不安なら、私の心は読んでくれていい。でも、二人のことは、二人で決めたい。勝手に決めないで。たとえそれが別れ話でも、心が納得できなくても、ちゃんと話してくれるなら、理性で理解しようと頑張るから。」
よく考えたら、付き合い初めになんて縁起の悪い話・・・。
それを悟は約束してくれた。
やっと・・・思いが通じた。
二人で顔を見合わせて、ほっとした。
******
「ねぇねぇ、源くんからなにか近況報告、来た?」
久しぶりの土曜日、ミナは悟の部屋のソファに寝転がってそんなことを問いかけた。
「あー、義経が女になってる、ってパニくってたな・・・」
「・・・は?」
ミナがまた学校の帰りに寄ったり、こうして土日に遊びにくることになって、この部屋はまた様子をすこし変えた。
二人でデートにいった先で買った小物なんかも飾られるようになった。
まだ比較的静かな場所だけれど、博物館や美術館、水族館に動物園、順番に少しずつ回っていく。
部屋を見回して、悟が感心したように、「やっぱりミナってすごいね」と言う。
「ミナがくるだけで、この部屋がすごく生き生きする。暖かくなる」
そう言われたのが嬉しくて、ミナはにこにこと笑う。
だって、将来は悟の奥さんになるのが夢だから。
旦那さんが帰ってきた時に、ほっとする家が保てるなら、それって嬉しい。
「料理は、既に悟の好みの味に調教済み、ですからね」
副会長がそう言ってたのも記憶に新しい。
「で、その義経が女にって何?」
今日のおやつはミナがアップルパイを焼いた。
悟がそれに合うようにお茶をブレンドして淹れてくれる。
二人でおやつタイムを楽しみながら話をする。
「ん? 源九郎義経、って知らない?」
「いくらなんでも知ってるよーっ。有名じゃんっ。あの鎌倉幕府をつくった頼朝の弟でしょ・・・って、あれ? 源九郎? あれ・・・?」
「もともと、カラス天狗に名前なんてなかったからな・・・。」
「・・・牛若丸の話にでてくるカラス天狗なら、源くんも有名人じゃん・・・・」
「まぁ、また一緒に遊ぼうと思って会いに行ったら生まれ変わりは女だった、ってことで、いろいろ苦労してるみたいだ」
「うそぉぉー!」
******
悟はミナを見る。
ミナはアップルパイを食べるのに一生懸命になっていて視線に気づかない。
彼女は太陽だと思う。
今や彼女は生徒会にもなじみ、姫のお気に入りということで、妖界でもそれなりに有名だ。
来年は彼女に会いたさに、もっと多くの妖が入学してくるのだろう。
きっと彼女に恋する妖もいるに違いない。
この先、彼女を自分に向かせておけるのかはすごく不安だ。
それでも。
きっと彼女なら、ダメになってもきちんと誠意を持って終わらせてくれるだろう。
―――もちろん、みすみす他の奴にとられたり、ダメにする気はないけれど―—―
一度、ほかの女で失敗したから、意志を失くした人形では楽しくないとわかっている。
一度ミナをなくしかけてどん底を経験しただけに、大事さがわかる。
元気なミナが好きだから、閉じ込める気も、無理につなぐ気もない。
ただ、彼女が帰ってくるのが自分のところだといい。
つかれた時、休みたいとき、我が儘を言いたいとき、愚痴を言いたいとき、自分を一番に思い出してくれればいいと思う。
そういえば、最初のころ、失恋して泣きながら抱き付かれた時に、あんな時ですら嬉しかった、と顔に苦笑いが浮かぶ。
紗枝との関係は、今思えば、紗枝の失恋からのつけこんだ罪悪感と初めて楽しく過ごした人間と離れたくない執着で始まったように思う。
他の男を思っていると信じていただけに、恋を愛にできなかった。
それから数百年たっての恋は引き籠っていただけの自分にはどうしていいかわからないことだらけだ。
ただ・・・ちょっと、こんなことを今から言ってしまうのは、やっぱり独占欲だろうか。
「ねぇ、ミナ。ミナが大学に行くのも仕事をするのもミナの気持ちを優先するから、ミナがその気になった時に、俺と結婚しようね。いつまでも待ってるから。」
視線の先、ミナの口からアップルパイが落ちた。




