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サトリの友達  作者: 李雨
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真実は

「ミナちゃん、もうそろそろいいんじゃない?」

そんな声がするまで、この部屋にもう一人がいることを忘れていた。

・・・いや、もしかしたら、何かの術でカラスは自分を隠していたのかもしれない。二人がお互いを出せるように。


「悟は、一緒になってから、全然さえさんの心を読まなかったの?」

「約束なんだから、それくらい守らないと」

その返事に、術をかけてしまったことに罪悪感を持っていたから、余計に守られてしまった約束を思う。



「さえさんて、ほんとに術にかかってたのかなぁ・・・?」

ぽろっと言葉が唇から転がり落ちた。

術にかかってたら忘れるはずで、そうしたら泣いたりしないんじゃないの?

「そりゃ、俺が「そのことなんだけどっ」」

いきなり悟の言葉をぶった切る勢いで、源くんが叫んだ。

悟と二人で源くんを凝視してしまう。

「源くん?」

「・・・そのこと、なんだけど・・・」

何かすごく言いにくいみたい。

源くんは息をひとつつくと、目を瞑り、何かを覚悟したかのように目を開けた後、鞄から紙を取り出した。

薄茶色にシミができた、端がボロボロになった紙。

・・・手紙、だ。


「ごめん、悟」源くんが頭を下げた。


手紙の表には、「だんなさま」と書かれていた。

サトリじゃなく、旦那様。

さえさんからの手紙だ。

彼女にとっては、伴侶だったんだ、と思う。


「紗枝の・・・?」

「・・・うん」源くんが、答えたくなさそうな沈黙のあと、仕方なくというように頷いた。

「ミナちゃんの言う通り、彼女は術にかかってなかった」

「なっ・・・」

「黙っててごめん」

源くんはそう言って、ただ頭を下げた。


少し震える手で、悟がその手紙を受け取る。

封筒などなかったころのもので、ただ畳んで何かでくっつけただけの封を、ぺりぺりと丁寧に剥がす。

そのまま、黙って読んで、片手で両目を覆った。


何が書いてあったんだろう?

ここまで巻き込まれているのだから、という免罪符じみた気持ちで

「何が書いてあったの?」と聞いた。

答えはなく、そのまま、手紙が私の方へ押し出された。

読んでいいってことだよね・・・?

受け取って、読んだ。



「だんなさまへ


このてがみをよむのなら、だんなさまは さへのこころを さへがいきているあいだ よまなかった ということでしょう。

だましてごめんなさい。

わたしは こわかったのです。じぶんが だましていることを くちにするのが こわくて なんども だんなさまが こころをよんでくれれば とおもいました。

このわたしの つみが さっさとばれてしまえばいい とおもいました。

でも じぶんで いう ゆうきは ありませんでした。

てんぐさんにも いえ といわれました。なんども。

ごめんなさい。

わたしは じぶんのつみが こわくて なくことしか できません。

このつみがばれるのが こわくて なくことしか できません。

                               さへ」



ああ、と思った。

彼女は、自分が村で必要とされていないことに傷ついていたんだ。


「何が怖かったんだろう。おれが妖だから? 騙してるのがばれて怒らせたら食われるとか思ったんだろうか」

ぽつりと悟が言う。

この手紙でどうしてそうなる。

「違うよ。多分、さえさんは、悟に言って嫌われるのが怖かったんだよ」

「なぜ? 俺はずっと紗枝の傍にいたのに。どうして嫌うってことになるのさ?」

「さえさんに、自信がなかったから」

そういうと、悟が私の顔をまじまじと見つめた。

「どういうこと?」

「多分、っていうか、推測になるんだけど・・・」

こう前置きして、話始める。


さえさんは、小作農で、自分のお金も土地も時間も家もなかった。

それに、男の人に口説かれたこともなかったんだと思う。

だから、自分には何も魅力がないと思ってたんだよ。

唯一、いい感じだと思った男は、さえさんを何とも思わずに他の女を選んだわけだし。

そこへ、失恋が契機とはいえ、悟がプロポーズして、傍にいてくれることになった。

私が言うのもなんだけど、悟、やさしいからね、きっと彼女はその状態がとても居心地よかったんだと思う。

そこへ、いきなりの有力者の息子の再登場。

悟は決めつけたようだけど、女って結構、聡いよ。

彼女もほんとはその男が離婚してくれるなんて思わなかったと思う。

でも、悟は信じ込んでるみたいで、彼を忘れる術をかけた。

なぜか術はかからなかったけど、きっと、彼女は、これでここから離れずに済む、って思ったんじゃないかな。

悟の家を追い出されたら、彼女がいる場所なんてどこにもなかったんだよ。

だから、彼女は術にかかったふりをした。

でも、悟は親身になっててやさしいし、だから、騙していることに罪の意識がどんどん膨らんで泣くしかなかったんだ。

年をとればとるほど、自分に若さっていう価値すらなくなって、何の働きもしないただの役立たずになっていて、ますます本当のことを言って呆れられたり嫌われるのが怖くて、だから、余計に言いづらくなって。

多分、だけど、さえさんは悟に好意を持ってた。悟がさえさんの傷心につけこんだんじゃなく、さえさんもちゃんと好意をもってたから、だから、少しでも悟に嫌われそうなことは言いたくなかったんだよ」

言い終えるとしばらく沈黙が場を支配した。


「俺がこころを読まなかったのが悪かったのかな・・・」

悟がぽつりと言う。

「ううん。心を読まれるのも、きっと怖かったと思う。それに、ばれたら さえさんは、きっと傍にいられなくなってた。自分の罪を思って出て行ったと思うよ。・・・多分ね、すれ違い、とか、ボタンのかけ間違い、って言われる状態だったんだよ。誰も悪くない。さえさんは、悟が最期まで傍にいてくれたの、嬉しかったんじゃないかな」


ばれて呆れられたり嫌われるのが嫌だと思うなら、さえさんは、きっと悟を愛したんだろう。

本当のことを言えない辛さで泣いても、傍にいられて嬉しかったんだろうと思う。


悟は何もいわない。

私は悟の手をとった。

その手は冷たくて、両手で抱え込んで私の手のあたたかさが移ればいいと思う。


源くんが、お茶を淹れ変えて出してくれた。


「九郎、お前はどうしてこれを今頃出してきた?」

しばらくして、悟が口にしたのがこの質問だった。

「まず、さえちゃんが生きてる間は渡さない約束だった」

うん、それは手紙をよんで感じたこと。

彼女はできれば勇気を振り絞って自分の口で言いたかったんだと思う。

この手紙は彼女がどうしても言えなかった時のためのものだ。


「彼女がなくなってから、もう数百年は経つ。なぜ今だ?」

「お前が変わったから」


私も感じていた疑問に対しての答えは、随分とあっさりと簡単なものだった。






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