ダブルデート4
とどめは観覧車だった。
結構長い行列ができてて、なのに、2人ずつしか籠に入っていかない。
・・・何をやってるんだ・・・?
そんなことを考えていたのに。
なぜ、籠の中で、彼女は目を俺の隣にわざわざ座って、顔を上向けているんだろう。
昔飼ったことのある手乗りインコみたいだ。
・・・エサかな・・・。
鞄から飴を取り出して、ミナの口へ突っ込んだ。
「あほかーーーっ」
怒られた。
「言っとくけど、俺、こんなに人の多いところじゃ、心は読めないぞ」
そう言うと、
「この観覧車のジンクスだよっ・・・知らなかったのかぁ・・・」
がっくりした彼女は、次の瞬間、
「時間がないっ。キスしてっ」と小声で叫んだ。
・・・は?
「ユキたちが見ることになってるから・・・」
ああ、それで時間がない、と。
彼女たちが見れる範囲にいる間でないとダメってことか。
そこまでするかねぇ・・・。
また、溜息をついた。
あいつらのために、こいつ、どこまでしてやるつもりなんだ・・・。
ミナを軽く引き寄せて、ほっぺたにキスした。
「これでも、キスだ。いいだろ?」
何か言いたげなミナに、「お前は、もっと自分を大切にしろ」そう言うのがやっとだった。
「ファーストキスのクセして・・・ほんとに好きなやつができるまで、ちゃんととっとけ」
格好つけすぎだよね、俺。
でも・・・なんだか、ミナがそこまでするのが嫌だった。
そのイライラは、川本がミナに文句を言ってるのを聞いて爆発した。
籠から降りたとたん、川本がミナを引っ張っていく。
なんとなく嫌な予感がしてそっと距離をとって聞きに行った。
「どうして、ほっぺたなのよっ」
川本が文句を言っている。
「えーと・・・まだ付き合って日が浅いし・・・」
ミナが答える。
「日にちなんか関係ないわよっ。おかげで、相田君もほっぺたでいいじゃない?って言ったんだから」
なるほど。俺たちのキスシーンを見せて、「私たちも」って誘うつもりだったのか。
そこまでやろうとしてやって、どうしてミナが怒られなきゃいけない?
気が付いたら、間に割り込んでた。
「川本、いいかげんにしてくれない?」
声は怒りのあまり平坦に低くなっていた。
「お前の不安と目的のために、俺たち、ここにいるんだよな?
こいつ、お前のために一生懸命だったんだぞ。
なのに、どうして怒られるわけ?
んで、どうして、こいつがお前のためにそこまでしなきゃいけないわけ?
自分でやりたいことくらい自分で言えよ。とにかく、こいつを巻き込むな。」
川本は言い返してきた。
「親友なんだから、してくれて当然でしょっ」
そう言い返してくるから、
「じゃあ、親友のお前はコイツに何をしたんだよ?」
そう、こいつはあの時、ミナを泣かせたんだ。
泣かせないで済む方法なんていくらでもあっただろうに。
「こいつはもう、彼氏の俺のもんなんだよ。勝手に使うな」
つい、流れで、そう言ってしまった。
川本が黙ってしまったから、少しトーンを和らげて、それでも言いたいことは言う。
「自分の不安は、相手にいわなきゃ解決なんかしないだろ? 周りだけ動かしても、無駄だと思うよ。
二人で、ちゃんと話し合えよ。そうじゃなきゃ、第2、第3のミナが出てくるぞ。」
ミナにも、言う。
「お前も。親友ってのは、何でも聞いてやるんじゃダメだ。
それと、もうお前、俺のものなんだから、あまり勝手に約束するな。」
説教くさいけど、俺、年だけは取ってるし、な。
それに、川本の目の前でミナを怒っておいたら、怒りの矛先は俺に向くだろうとも思ったから。
それだけ言って、ミナと一緒に先に帰ってきた。
陰に相田がいたから、きっと話は聞こえてる。
嫌でも話し合うことになるだろう。
とにかく、もうこんな茶番は勘弁してほしい。




