最終話 「家路」
夕方の柔らかな木漏れ日が差す森の中。虫たちの静かな声が響く緑の中に、軽い足音が駆け抜けていく。
美しい銀色の髪を揺らす幼い少女。その手には、剣のようにも見える木の枝。少女はそれを、楽しげに振り回していた。
「あまり走ると危ないですよ」
少女の背後から優しい声が掛かる。振り返った先には、穏やかな眼差しを向ける男──ハミルがいた。
「父さま!」
少女が目を輝かせ、満面の笑みでハミルのもとに駆けて来る。その笑顔は、自分を救ってくれたあの人によく似ていると、ハミルは思った。
「そろそろ夕飯の時間ですからね」
「はーい!」
手を繋ぎ歩く親子。ハミルは左手で握った手の温もりを心地よく感じていた。
「ねぇ、父さま?」
「なんですか?」
「わたしね、おおきくなったら、父さまみたいな剣士になる!」
屈託のない笑顔で言う娘の言葉に、ハミルは一瞬だけ困惑の表情を浮かべた。
剣を握るということは、いずれは誰かの命を奪う。自分のような血に塗れた道を、娘が歩もうとしているのかと。
しかし、少女の続く言葉で、その認識は変わった。
「だって母さまが言ってたよ、父さまの剣はやさしい剣で、ひとをまもるための剣だって」
ハミルはハッとした。そうだ、何も命を奪うだけが剣ではない。何かを、誰かを守るために振るう剣もあるのだと、あの人が教えてくれたではないか。
「だから、わたしも父さまみたいに、だれかをまもる剣士になりたい!」
一切の曇りもない眼差しで、少女は力強く言葉を放つ。そこには、父への強い尊敬が込められている。
ハミルが小さく笑う。少女の姿に、自らの迷いが全くの杞憂だったことを思い知らされ、自嘲した。
「分かりました、じゃあ、明日から稽古をつけてあげますね」
「うん!」
自然と、娘の手を強く握っていた。今はまだ柔らかく、小さいこの手が、やがて誰かを守るために剣を握ることになるのだと思い、胸が熱くなった。かつては血に塗れていた自分の手を、娘は何の迷いもなく握ってくれる。
「では今日は早く帰りましょう。家で母さまが美味しい夕飯を作って待ってますからね」
「やったー!」
ゆっくりと日が落ちようとする中、親子は手を繋いだまま、母親──エイミィの待つ家へと歩いていった。




