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「あのさ、こう壁際に追い詰めないと進められない制限でも課せられているの?」
「……昨日の夜、平気な顔をしてあんなことをするから……これは知生さんのせいです」
「あれ、嫌がっていたわけじゃなかったんだ」
真冬だけによく似合う冷たい顔だった。
そういうのもあって不安になっていたわけだけど、いまの彼女の表情を見るにどうやら違うようだ。
「それはそうですよ、自分から言っておきながらいざ実際にされたら嫌がるような人間ではありません」
「じゃあ、たまにはいいことができたのかな?」
「あっさりと一人にされてむかつきましたけどね」
「それはもう時間的に仕方がなかったから」
なんだろう、もう怖さが微塵もない。
とはいえ、調子に乗るのは駄目なのは変わらないけど。
「なので今日は帰らせません」
「ある程度はいてくれると僕的にもありがたいよ、悠里と冬樹君はまた出かけしてしまったからね」
「……本当に分かっているんですか?」
「ちょ、近い……」
「はぁ、本当に鈍感だったのは知生さんだったんですね」
いや、僕としてはどうしてここまで彼女がその気になっているのかが気になる。
好きになるとしてもこっちだろう。
「信じてもらえないかもしれないですけどね、私はほとんど最初の方から知生さんのことが気になっていました」
「流石にそれは嘘だよね? だってそれなら話してくれていなかったのはおかしいし」
「上手く内に隠しつつできるような人ばかりではないということです」
あの変な空白の時間がなくて、本当に最初の方からいまみたいにいてくれていたら信じられたものの、そうではないから流石に……。
それこそ、大事なのは過去よりもいまどう思っているのかどうかなので変に盛らなくていい。
「私は知生さんのこと好きですよ、知生さんはどうなんですか?」
「……このまま『好きだ』と答えたら乗っかろうとしているだけに見えない?」
「私としては振られずに済んだわけですからそれなら嬉しいですけどね」
ごちゃごちゃ考えると駄目になるからそのままぶつけておいた。
いまにして思えば最近、彼女がお母さんの実家から帰ってきたときのあのハイテンションだったのは……となる。
相手が冬樹君でも同じような反応をしていたかどうか――はしていただろうけど、それでも少しずつ差を作ってしまっていたのだ。
「でも、私が話すようになるまでは知生さんが遠慮していたことが不満でした」
「自己紹介以外ではほとんど全滅と言ってもいいぐらいだったからさ」
実際、数回は頑張ったのに反応してくれなかったのが彼女だ。
同じ場所には必ず冬樹君もいたからこれ幸いとばかりにそちらに話しかけていた、だから僕も冬樹君に頼ることでなんとかしていたのに。
あれでは「歓迎してくれている!」なんて判断することはできないぞ。
「なんのために朝も放課後も付き合ったと……」
「それはお兄ちゃん大好きだったからかと――い、いまはもうそうは思っていないからっ」
違う意味で危うくなりかけたところで「ただいまー」と救世主が帰ってきてくれたようだった、隣にはちゃんと悠里もいる。
「もー聞いてよ真冬さん、冬樹先輩なんて口を開けば『腹が減った』としか言わないんだよ?」
「だからある程度、お腹が満たされている状態のときに頑張った方がいいわ」
「だけどさ、それでご飯を食べにいったら『腹いっぱいで眠たくなってきた』とか言うからねこの人」
これは照れ隠し……かな?
彼はこちらがそういう状態になっていても付き合ってくれる側だった。
いまはただの友達から変わっていっているわけで、その悠里相手になら――いやそっちも普通の人だから照れ隠しという可能性もあるか。
格好いいからとなんでもかんでも上手く完璧にできるわけではないことは分かっている。
「兄さんは駄目な人ね、告白してくれた知生さんを見習ってほし――」
「「嘘だろ!?」」
まあ、彼女が言わないわけがないよなあ。
寧ろここで黙っているようなら「言わなくてよかったの?」と聞くことになっていたよ。
「思わず男口調になってしまうぐらいには驚くことなの?」
「だ、だってお兄ちゃんがだよ?」「知生がだぜ?」
「ふふ、言われていますよ?」
「……実際、真冬さんのサポートがなかったらできなかったことだから……」
「可愛いっ」
た、楽しそうね……。
「えぇ……冬樹先輩、真冬さんが壊れちゃった」
「真冬、前から知生のこと気にしていたみたいだったからな」
そうか、彼が知らないわけがないか。
なら、僕と珍しく悠里だけが分かっていなかったことになる。
「えーそれなら知らなかったのは私だけということですか?」
「大丈夫だ、知生だって知らなかっただろうからな」
「それもそうか、だって真冬さんはアピールとかも全然していなかったもんね」
「絶対に参加していたあたりが露骨だったけどな」
そのうえで彼とばかり話していたら露骨に見えてしまうよなあ。
一緒に登校してくれているから、一緒に下校してくれているからこっちに気があるんだ! とはどんなに頭が幸せな人でもならないだろう。
「露骨なのはいまの私みたいな状態のことを言うんですよ」
「よ、よくそれを自分で言えるな」
「だって目を逸らしても仕方がないですからね。ということで冬樹先輩、食欲の方ももう少しぐらいは自重してください」
「その度に付き合ってくれればいいだろ? 悠里ならそれができる」
「無茶言わないでくださいよ、そもそも最近はよくお店に付き合っているせいで体重が増えて困っているんですから」
ああ、これは空気を読んで離れなければならないところだ。
「なら、一緒に走ったりすればいいだろ?」
「ふむ、それなら自然と冬樹先輩との時間が増えますね……?」
「おう、俺も悠里といたいから――」
座っていた彼女の腕を掴んで廊下に出た。
そのまま二階に上がらせてもらってそこで手を離す。
「最近はすぐにああなるんだよ」
「ふふ、仲良くできていていいじゃないですか」
「はは、そうなんだけどね」
ではないよなあ、変えていかないと怒られてしまう。
「真冬さんありがとね」
「私は自分のために行動しただけですから」
「それでもだよ、真冬さんがいてくれてよかった」
今回だけは勇気を出して優しく抱きしめておいた。
彼女も抱きしめ返してくれて「必ず毎日一回はしてくださいね?」と無茶なような……そうではないようなことをぶつけてきた。
「ふっ、結局知生もイチャイチャしたかったってことか」
「そりゃそうですよ、なんたって初めての彼女なんですよ? 舞い上がりますよ」
「じゃ、空気を読んであげた方がよかったか?」
「でも、興味があるんですから仕方がありません」
「はは、興味があるのに目を逸らしても意味がないからな」
もうやらなければいけないこともできたから利用してくれればいい。
何気に真冬さんに手を握られているから話しながらでも満足感が高いのもよかったのだった。




