01
職員室前の廊下で友達を待っていた。
正直、ここら辺は先生がよく通るから早く離れたいところだ。
「悪い、待たせた」
「ううん、大丈夫だよ」
それでも、五分ぐらいしか経過していないから情けないところは見せられない。
あとは、ここで正直に話してそれが長くなってしまうと彼の妹に怒られてしまうというのもある。
「真冬と合流して帰るか」
「うん」
彼は瀬口冬樹、妹さんは瀬口真冬さん。
高校一年生の秋頃に話すようになって、二年生の冬現在でも友達のままでいられている。
とはいえ、妹さんの方はまだあんまり一緒にいられていないからいまはまだ二人きりは避けたいところだ。
「真冬、待たせたな」
「もう終わったの?」
「おう、帰ろうぜ」
「そうね」
彼から聞いた分には、昔は髪を長く伸ばしていたみたいだけどいまは肩ぐらいまでしかない。
女の子がバッサリ髪を切るときって……と失礼な想像をしてしまったりもした。
「でも、スマホを没収されるのってどうなの?」
「どうしても見たい情報があってな」
「没収されてしまったらそもそも見られなくなるじゃない」
「授業の時間が悪いんだ」
が、学校全否定……。
とにかく、いつもこうして三人で帰るのは当たり前になっていた。
家に着くまでの間、二人だけが話していることが多い。
遠慮しているわけではなくて自然とそうなってしまっているだけだ、本当なら僕だって参加したい。
「じゃ、また明日な」
「うん」
まだ先に家に着くのがマシか……?
というか、妹さんの方は「またね」とすら言ってくれないし、認識すらされていないのかも。
だったら兄妹で仲良く帰っているところに一緒にいること自体やめた方がいい気が……。
「ただいま」
ちなみに、僕にも妹がいるけど……いまはまだ帰ってきていないみたいだ。
妹さんと同じで高校一年生で、僕以上に妹さんとは話せるぐらいの仲だ。
「ただいまー」
お、帰ってきた。
「おかえり」
「お兄ちゃんもいま帰ってきたばかりなんだ」
妹の悠里だ。
こちらは昔から妹さんと同じぐらいの髪の長さで、伸ばしてみたらどうかと言ってみても「面倒くさいから嫌」とはっきりしている子だった。
顔は……兄である僕が言うのもあれだけど……可愛いと思う、妹さんは奇麗系かなと。
「うん、冬樹君を待っていてね」
「そうなんだ、それならお菓子を一緒に食べよう」
「う、うん」
なにが「それなら」なのかは分からないけど、美味しいからいいか。
夜ご飯は交代交代で作っているから今日は僕の番だ、ある程度したら動こう。
「瀬口さんとは話せた?」
「今日も駄目だった」
「普通に話しかければ相手をしてくれるけどなー」
「でも、三人でいるときは冬樹君もこっちに話しかけてくることは少なくなるからね」
いや、なんで一緒に帰っていたのか。
これなら暇なときを狙って悠里と帰る方がいい。
「実はあの兄妹、デキていたりして……?」
「兄妹同士で恋をするって本当にあるのかな」
「格好いいと奇麗ならありえるんじゃない?」
ここで終わらせておこう。
「悠里」
「え、私はお兄ちゃんをそういう目では見られないかな」
「そ、そうじゃなくて、明日から一緒に帰ろう」
「え、んー……残って友達とゆっくりしたいときもあるからなー」
二重で無駄に振られた悲しい人間がいる。
ふっ、いいさ、これからも「もう参加しないでくれ」と言われない限りは金魚のフンみたいに付いて歩いていれば。
どうせ僕の家は高校からすぐの場所にある、なので、あの二人だけで世界を構築されてもダメージは少ないのだ。
「さて、ご飯でも作るよ」
「あれ、拗ねちゃった?」
「これはやらなければいけないことだからね」
今日はひき肉と卵とウインナーで三食丼だ。
ここにピーマンを入れても、玉ねぎを入れてもより美味しくなるだけなんて最強の料理の一つと言えるだろう。
甘くしてもいい、しょっぱくしてもいい。
うん、自由だ。
「そうだ、ご飯を食べてもらえばいいんじゃない? こう、胃袋を掴む的なアレで」
「冬樹君は上手く作れるみたいよ」
「入れないか……まあ、女の子ならいっぱいいるから諦めないでよ」
今日はなにか嫌なことでもあったのか攻撃的な日だった。
攻撃されてへらへら笑ってはいられないから食べたらすぐにリビングから離れた。
悠里ならスマホを弄りながらソファに座ってダラダラするので二階にいけば問題ない。
入浴は自分の意思で最後にするようにしているから……暇だ。
「あれ、冬樹君から……?」
五分前に電話をかけてきていたみたい。
かけ直してみると「お、急に悪いな」とすぐに反応してくれた。
「真冬が急に『古里さんと話してくるわ』と家を出ていってな」
「悠里といたかったんだね、悠里なら一階にいるからすぐに会えるよ」
ソファでダラダラ――のんびりする癖がいい方に働いたのか。
「はは、知生と、とは考えないんだな」
「だってほら、一緒に帰っているときも話しかけてこないから」
「あれなあ、不思議だよな」
「はは、冬樹君も話しかけてこないけどね」
「前に知生と話しているときにつねられてから怖くてな」
ああ……悠里が変なことを言ってきたせいで変な想像をしてしまう。
同じ場所にいるときに自分だけを優先してほしいみたいに聞こえてしまうぞそれは。
「一緒にいてくれるなんていいね、悠里なんて一緒に帰ってくれることもないからさ」
「まあ、意外だよな。あれぐらいの歳なら『話しかけないでちょうだい』とか言ってきそうなのにな」
「いつまでもそのままの仲でいられるといいね」
「喧嘩はしたくないな。とにかく、真冬はそのまま泊めてやってくれ」
「分かった」
悠里がなんとかするだろうから……って、待てよ?
最後に入りたい派の僕にとっては……もう妹さんが入浴済みであることを願っておこう。
「お兄ちゃん入るよ」
「え、なんで?」
「瀬口さんが来たからだけど」
扉を開けてみると確かに悠里の隣には瀬口さんがいた。
電話に反応するのが遅くなったからこんなことになったのか。
部屋に招くわけにもいかないし、悠里もなにも話さないから気まずい時間となった。
「え、お兄ちゃんに会いに来たわけじゃないの?」
「違う……よね?」
何故なにも答えない……。
「悠里の部屋に入れてあげたらどうかな?」
「まあ、お兄ちゃんに会いに来たわけじゃないならそれでいっか」
僕の前でだけ話すことができない呪いがかけられているとか?
来たことを連絡して、ベッドの上でごちゃごちゃ考えていた。
話すことすら嫌なら遭遇する可能性のある家ではなくて――は悠里的に危ないからこれでよかったと片付けるしかない。
「ここ、開けておくね」
なんでだ……。
部屋数があるように見えてないからこういうことになる。
兄妹でも異性なのだから簡単に入れてしまえるようになっているのはやめてもらいたいところだ。
というか、やっぱり今日はなにか嫌なことで僕をサンドバックにしているような……。
「飲み物持ってこないと」
「それなら僕が――」
「お兄ちゃんはいいよ」
二階なら安全だと考えていた僕が馬鹿だった……。
一応、お客さんがいる手前、寝転ぶことはやめて床に座る。
「ふふ、なにも正座でなくてもいいと思います」
「あっ、く、癖なんだよ」
ローテーブルを使用して勉強をするときはこれが普通だから嘘は言っていない。
にしても……笑顔の破壊力がすごい……。
「いつも兄に合わせてくれてありがとうございます」
「僕が合わせてもらっているんだよ」
なんだなんだ……? 一回、壁が壊れてしまえばこんなものなのだろうか?
冗談抜きで自己紹介以降、ここまで話せたのは初めてだ。
「あとは古里さんの――もう戻ってきたみたいですね」
「開けてあげてくれないかな?」
しまった、いまのは偉そうだったか。
でも、勝手に部屋に入るわけにもいかなかったし……って、廊下に出て受け取ってあげればよかったのか……。
「分かりました」
彼女が扉を開けると「両手が塞がっていてどうしようと悩んでいたところだったから開けてもらえて助かったよ」と悠里が、悠里の笑顔は落ち着く感じでこれもいい。
「いま話してなかった?」
「うん」
「ふーん、まあ、いいや。それで、瀬口さんはなんのために来たの?」
よく聞いてくれた。
「急に古里さんと話したくなったの」
「なんか紛らわしいなあ……私のことは悠里って呼んで」
「それなら私のことも真冬で」
ならここは閉じておけばいいか。
話も聞かれたくないだろうから部屋からも離れた。
流石に帰ってきていた両親と会話をして、丁度食べ終えたところだったから洗い物をしておく。
基本的には自分の分は自分で洗うというルールがあるけど、こういうときはやらせてもらえた方がありがたい。
一部屋のような二部屋のようなという曖昧な部屋の関係上、客間なんかはないから今日は僕がソファで休むことになった。
「あ、なに急に下にいっているの」
「瀬口さんは? あと、悠里が下りてきたのはなんで?」
「上だよ、いまは本を読んでいるかな。私が下りてきたのはあまりにも静かだったから見てみたらお兄ちゃんがいなかったからだよ」
「気にすることないのに」
「や、それはこっちが言いたいことだから」
はは、確かに。
「ほら、戻ろうよ」
「え、いいよ」
「そこにお兄ちゃんの匂いをつけられても困るから早く」
「ゴロゴロはしていないから――あー」
まだ二人きりだと気まずいとかなのかな。
僕よりも仲良くできているのになにを気にしているのか。
「んーなんかすごい集中しているからお兄ちゃんの部屋にいこうかな」
「いいけど」
「だったらお兄ちゃんも私の部屋に入ってよくない?」
「え、よくない」
「はあ……お兄ちゃんはよく分からないよ」
男の僕がするのと女の子の悠里がするのとでは違うというだけだ。
クッションなんかはないから勉強机付属の椅子に座らせておいた。
「多分、私じゃなくてお兄ちゃんに会いに来たんだと思う」
「そうかなあ」
「本当はもっと話したいんじゃない? だけどほら、集まっているときは瀬口先輩がいるからそこで仲良くするのは恥ずかしいと思っているのかも」
みんなそうだと言われるかもしれないものの、無表情のときなら冬樹君も怖いから確かに仲良くしようとする際に裏まで考えて駄目になるかもしれない。
ただ、それは僕の話であって、妹さんもそうなのかどうかは分からないわけで。
「普通に話せるのが一番だよね」
「え、うん――え、そんな当たり前のことを言ってどうしたの?」
「うん」
「変なお兄ちゃん」
真ん中を開けていつでも話すことができるようにする。
が、確かにすごい集中力で、話しかけられないぐらいの感じだった。
「いい天気だ」
朝の家事は両親が交代交代でしてくれているからゆっくりでいい。
でも、そう長くも寝ていられないので一階に移動して顔を洗った。
いい天気はそれだけで力をくれる。
特にいまみたいな冬には少しでも温かい方がいいのでありがたい。
「「あ」」
洗面所から出たときに妹さんと遭遇した。
「おはよう、よく一人で移動できたね」
「おはようございます。古里さんが起きてくれるまで我慢したかったのですがトイレにいきたかったので……」
「ああ、ここは一階にしかないんだ、ごめんね?」
「ふふ、謝る必要はないですよ」
こうして話せるようになった以上、小さなことで警戒してほしくなかったから二階に戻ることにした。
近くにいると……なんかそのつもりのために残っているように見えてしまうし……。
「……お兄ちゃん瀬口さんは?」
「おはよう悠里、瀬口さんなら一階にいるよ」
「んー……」
苦手というわけではなくても得意というわけではないから仕方がないか。
普段の悠里であれば午前七時ぐらいまでは普通に寝ているところなのに今日は六時頃に起きているぐらいだからね。
「なにしているの、早くいこうよ」
「うん」
別に攻撃したいわけではなかったか、そんな子ではないのに昨日は余裕がなさすぎた。
でも、正面から謝罪をすると「なんの話?」と興味を持たれてしまいそうだったので背中に向けてしておいた。
「お兄ちゃん昨日からどうしたの? そんなに不安定になってしまうぐらいには冬が苦手だったっけ?」
「ううん、冬は苦手じゃないよ」
「なんだかなあ……」
少し時間が経過したらご飯ができたとのことだったので三人で食べた。
仲良くできているとは悠里経由で知っているというだけのことだったので、二人が楽しそうに話しているところを見られてよかったと思う。
それでも、何気に朝も三人で登校することになっているから早く帰《返》してあげないといけない。
「悠里、僕達はもういくからね」
「待って待って、今日は私も一緒にいくよ」
「分かった、それなら外で待っているからね」
まあ、冬樹君も妹さんがいるとはいえ、それ以外は変な野郎だけよりはいいだろう。
「お、今日は悠里もいるのか」
これ、未だに慣れないんだよね……。
なんで当たり前のようにすぐに名前で呼べるのか。
これなら冬樹君の妹が二人だったらよかったのに。
「はい、おはようございます」
「おう。じゃ、いくか」
んーこの二人がくっついても面白いかもしれない。
兄妹だと恋愛はほとんどできないと思った方がいいし、この点で見れば兄妹ではなくてよかったのかも。
「知生は真冬とちゃんと話せたのか?」
「話せたよ」
「よかったな」
「うん。でも、今度似たようなことがあったら冬樹君を誘うよ」
「お、それなら誘ってくれ、何回でも参加するぞ」
優しいなあ。
気持ち悪いと思われたくないから言わないものの、彼が女の子だったら惚れていた。
それぐらいには支えてくれているのだ。
「ただ、今日は悠里がいるからだけど集まると駄目そうだな」
「そこはほら、お兄ちゃんと仲良くしてほしいからね」
「だからって変な勘違いをしてくれるなよ? 俺は真冬に本当に好きな奴と付き合ってもらいたいからな」
茶化すことができないぐらいの真剣な顔だ。
まあ、僕だってあまり変わらない。
悠里にはこの人だ! という人と出会って、仲良くなって付き合ってほしい。
「こういうのってシスコンって言うのか?」
「いや、そんなことないと思うよ」
「ま、別にシスコンと言われてもいいか」
確かに、周りの目を気にして言いたいことも我慢するようになったらもったいない。
とはいえ、僕の場合は本人から「お兄ちゃんは自分のことに集中しなよ」とガチトーンで返されそうなので伝えるのは勇気がいることだった。




