第3話「いまさら擦り寄ってきてももう遅い!」
ここまで伸びたのは始めたなものでとても驚いているところではあるのですが、あとこれを除きあと1話、短編を分割したもの出した後に、続きである新しい話が出ますので、お楽しみにお待ちください!
もし少しでもいいなと思っていただけたら、ブックマークと評価、感想などもお待ちしていますのでよろしくお願いいたします!
絶対に面白いと思っていただけるよう、精一杯執筆させていただくので、何卒ご容赦を!
「ぜーったいに!普通では、ありません!」
「……話を聞いていなかったのか、カイル」
低い声がした。
人込みの端に、いつの間にか白髪の老人が立っている。彼の名前は、カイラー・アルトレイ。学園長だ。
「ノクス君」老人は俺を見た。細い目が、なんだか優しい。
「ちょうどよかった。去年提出してくれた"廃農地の土壌改善についての考察"というレポートのことだが」
「ああ、あれですか。なんか暇だったので書いてみたやつですね。採点してもらえましたか?」
「その......採点できる人間がいなかったんだ」
「……えっ」
「農学、魔法地質学、古代術式論を横断した内容だった。それぞれの学問において、世界有数の実績をあげている専門家達にも見せたのだが、三人とも『自分の専門範囲は完璧だと思う。ただ、他の分野の評価ができない』と言って返ってきた。先週、三人に合同で採点してもらったら、全員が揃ってこう言ったんだ。『これは学術論文として即時発表すべき内容だ』とな」
「あ、はあ」
「なんでそんなに他人事なんだ、君は」
「いや、ただの暇つぶしのレポートだったので……」
「暇つぶし!?」学園長が驚きと感嘆の声を上げた。「……この学術論文が?」
「そんなつもりじゃなかったのですが」
「なぜそんなことになるんだ……」
学園長が額に手を当てた。中庭がまた静まり返る。カイル殿下の顔が、みるみる青を通り越して白くなっていく。
そしてその時——リリアーナが、動いた。
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「レイン」
声が変わっていた。
さっきまでの、婚約破棄を宣告する凛とした声ではない。甘く、柔らかく、蜂蜜を溶かしたような声だ。
リリアーナが、俺のほうへ一歩近づいてくる。ふわりと笑って——カイル殿下の腕から、さりげなく手を離した。
「三年間、本当にごめんなさい。あなたのことを、ちゃんと見ていなかった。でも今ならわかるわ。あなたって、本当にすごい人だったのね」
俺はぽかんとした。
「……婚約破棄、したんじゃないの」
「あれは、カイル殿下が先走ってしまったのよ。私はまだ、何も決めていないわ」
リリアーナはさらに一歩近づき、体をくねらせ、胸をあからさまに当ててくる。声にはさらに甘さが加わり、同時にくどさも増していた。
「地脈の修復も、魔力炉のことも、川のことも——全部、あなたがしてくれていたなんて。ねえ、もう一度だけ話を——」
「話ってなんの話ですか」
「婚約のことよ。もう一度考え直せないかしら。あなたのことが——」
「あ、でも、そんなことよりもさ.......今日の昼飯まだなんだよね」
「……え?」
「新メニューが入るって聞いてたんだけど。セレフィーナさん、食堂ってどこだっけ」
「あなた様は学園に三年間在籍されておられましたよね?なんでわからないのですか。......南棟の一階ですが」とセレフィーナが答えた。
「ご一緒してもいいですか」
「どうぞご自由に」
「ありがとうございます」
俺はそのまま、リリアーナの横をすり抜けた。
「ちょっと——待って」
声が、少し上ずった。
「レイン、聞いてる? 私の話を——」
「あー、なんか言ってましたっけ」
俺はもう振り返らなかった。聞こえていなかったわけじゃない。ただ——特に、返す言葉が見つからなかった。
リリアーナが三年間、俺を「無能」と思っていたのは本当のことだ。そこに文句はない。ただ、実績が積み上がった途端に声音を変えて近づいてくるのは——俺には、よくわからない行動だった。
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食堂に向かう廊下で、カイル殿下が追いかけてきた。
さっきまでの威勢はない。顔色は悪く、足取りもどこかおぼつかない。
「レイン・ノクス……少し、いいか」
「なんですか」
「その……さっきは、少し言い過ぎた。貴様——いや、君のことを、正しく評価できていなかったのは、俺の落ち度だ」
「あー、まあ、別に俺は気にしてないですよ」
「そうか……そうか」殿下は少し俯いた。
「その……学術論文の話、なのだが。もし君が王宮の研究機関に興味があれば、父上に話を——」
「俺、あんまり難しいとこ向いてないので、大丈夫です」
「そ、そうか……では、その——」
「失礼ですが」
セレフィーナがすっと前に出る。穏やかな笑顔だった。けれども、目が全くといっていいほど笑っていない。
「殿下は先ほど、この方を公衆の面前で無能と呼び、婚約破棄を宣告されましたね」
「…………」
「その後、事実が明るみに出た途端に態度を改めていらっしゃいます」彼女は静かに続けた。
「それを見て、この方が喜ぶとお思いですか」
殿下の顔が、またもや白くなる。
「そ……それは」
「この方は昔から変わっていません。変わったのは、あなたがたの見え方だけです」
一言一言が、静かに、しかし的確に刺さっていく。
「お時間をいただきましたが、私たちはこれで失礼します」
セレフィーナはそれだけ言って、俺の隣に並んだ。殿下は何も言えずに、その場で立ち尽くす事しかできなかった。




