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第1話「令嬢との婚約破棄!?」

「レイン・ノクス。貴様と令嬢との婚約を、今ここで破棄する」


 カイル第二王子殿下が、全校生徒の前でそう宣言した。


 俺の返答はシンプルだった。


 「あ、そっすか。じゃ、昼飯行っていいですか」


 中庭が、凍りついた。


---


 王立アルカディア学園。昼休み。数百人が見守る中庭の真ん中で、俺は欠伸をこらえながら立っていた。


 事の発端は俺の婚約者、リリアーナ令嬢の一言だ。「無能な死神紋章持ちとの婚約が恥ずかしい」という言葉が殿下の耳に入り、殿下が「俺が代わりに婚約破棄してやろう」と買って出た

——らしい。


 正直、なんともお節介な話だなあと思った。リリアーナ本人が俺に直接言えばよかっただけの話で。


 でもまあいいか。俺もあんまり乗り気じゃなかったし。


 「……"そっすか"だと?」カイル殿下の目が据わった。


「この場がどういう場かわかっているのか! お前は今、公開で恥をかかされているんだぞ!」


 「あー……」俺は頬をかいた。「なんか、すみません。怒らせてしまいましたか」


 「怒って当然だろう!!」


 「いや、俺じゃなくて殿下が怒るのが不思議で」


 「貴様が怒らないことに俺が怒っているんだ!!」


 「そういうもんなのか」


 「そういうもんだ!!!」


 わからん。貴族って難しい。


 俺がぽりぽりと後頭部を掻いていると、周囲がざわざわし始めた。同情の目、嘲笑の目、好奇の目。いろんな視線が刺さってくる。


 正直、全部どうでもいい。


 昼飯のほうが気になる。今日は食堂に新メニューが入るって聞いてたんだよな。


 「あの」俺はおそるおそる手を挙げた。「もう行っていいですか」


 「よくない!!」


 「そっかー……」


 困ったな、と思ったその瞬間だった。


 ざわめきが変わった。


 さっきまでの「嘲笑と同情」のざわめきとは、明らかに質が違う。人込みが、左右にさっと割れていく。まるで水が引くみたいにだ。


 「——少し、よろしいですか」


 声がした。凛とした、静かな声だった。


 銀色の長い髪を後ろで緩く束ね、制服のリボンをきちんと結んだ少女が、人込みの中をゆっくりと歩いてくる。早足ではあったものの、走ってはいない。けれどその歩幅は大きく、迷いがなく——ひどく、急いでいた。


 見覚えがある。三ヶ月前に入学してきた転入してきた——竜王国の第一王女、セレフィーナ・ドラグニス。


 学年トップの成績。魔力測定では計測不能の数値を叩き出し、先月の剣術大会では教官を相手に軽々と五本取って「もう教えることがない」と言わしめた、この学園で知らない者のいない存在だ。


 その彼女が今、まっすぐに——俺のほうへ向かってきていた。


 俺とは一度も話したことがない。


 なんでこっちに来るんだろう。そんな疑問が頭の中を支配していたとき......


 セレフィーナは俺の前で立ち止まった。いつもの涼やかな顔に、今日だけは少し血の気が上っている。胸に手を当てて、短く息を整えてから、口を開いた。


 「失礼を承知で割り込みます。——レイン・ノクスさん。三年前のことを、覚えていらっしゃいますか」


 「いきなりなんなんだ、というか三年前……?」


 「密林の中で、銀色の子竜が罠にかかっていたことがあったかと思います。助けてくださったのは、あなたでしょうか」


 ——あ。


 思い出した。


 三年前、冒険者の仕事を手伝いに行った密林で、でっかい罠に前足を挟まれてぎゃんぎゃん鳴いている子竜がいた気がする。かわいそうだったので罠を外して、近くの集落の入り口まで送ってやったのだが......あの子か。


 「えっと……竜の子って、成長すると人になるのか。知らなかったな」


 「そんななわけがないでしょう!竜族は人化できるんですよ!」セレフィーナはわずかに目を細めた。


 「あの時、あなたが助けてくださらなければ私は死んでいました。三年間、ずっとお礼を申し上げたかったんです。でも——」


 一瞬、迷うような間があった。それから彼女は、覚悟を決めたように顔を上げた。


 「——今日、機を逃せばまた言えなくなると思って。少し、礼を失した形になってしまいましたが」


 「あー、別にそんな気にしなくても——」


 「加えて、一つだけ聞いていただけますか」


 セレフーナは俺の言葉を華麗に遮り、一拍を置き、何やら大事なことを伝えたさそうにしていた。


 そんなふうに、俺の言葉を遮ってまで彼女が伝えたかったことというのが何か気になり、何も口を出さずに待つ。すると、ここにいた誰もが想像するにしえなかった、驚きの事を口にする。


 「私と、結婚してください!」

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