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5.さすらいのアルバイター

 辺りを見渡し、見つけた衣料品店に迷うことなく入った。

「手袋って置いていますか」

「はい! ご案内しますね」

 着いて行った先には何種類かの手袋が置いてあった。

「いくつか種類があるのですが、こだわりなどはありますか?」

「旅の中で日除けに使うので、耐久性のある生地が良いです」

 そう言うと、店員は無地の革手袋を手に取った。

「柄のついた物もありますが、そのようなご希望だとこちらが良いかと。色のご希望はありますか?」

「黒色をお願いします」

「他にご購入される物はありますか?」

「いえ、これだけです」

「では会計に参りますね」

 一万アネロを支払い、店を出て宿屋に向かった。


「おかえり! どう、買えた?」

「はい。そちらはどうですか」

「良い求人見つけたよ。住み込みだから宿屋代が浮くし、賄いも出るところ」

「最高ですね。どんな仕事ですか?」

「使用人と飲食店のスタッフ。どっちがいい?」


 木造二階建ての民家の扉をノックする。使用人を雇うくらいだからどんな豪邸かと思っていたが、正直周りの家と比べても小さいくらいの家だ。そんなことを考えていると、顔色と姿勢の悪い青年が出てきた。髪、肌、瞳の色に見覚えがある。

「はい。ゴホッ、何のご用でしょうか」

 うつむいていた青年が顔を上げ、私の顔を見てぎょっとした。しかしすぐに正気を取り戻し、母さんと家の奥の方に呼びかけた。

「エンフェル! 誰かが来たら私が出るってあれほど言ってるのに……って、えっ?」

 母さんと呼ばれた女性も、息子……エンフェルとそっくりな表情で私の顔を見た。それもそうだろう。

「使用人の求人を見て来ました、フリア・ティフィコです。見ての通り、()()()()()()()()()()()アルビノですよ」


 放心状態だった女性が気を取り直し、私を家の中に招いてくれた。階段を上がった先にあるダイニングに座るよう促され、一応飲み物を入れに行った女性が戻るまで立っていようかと思ったが、青年に座れよと言われたので素直に座った。しばらくすると女性が戻ってきて私の向かい、青年の隣に腰掛けた。

「先ほどは驚いてしまってごめんなさい。私はプレシオサ・レクト。こちらは私の息子のエンフェル・レクトです」

「いえ、私も自分以外のアルビノにはあまり会ったことがありませんから。改めまして、私はフリア・ティフィコ、十歳です。今更ですが、こちらは未成年でも働かせていただけますか?」

「十歳!? 大人っぽいんだな、お前。俺と同じくらいかと思ってたよ」

「エンフェル! 失礼しました、未成年でも最低限の知識と技術があれば構いませんよ。……でも確かに十歳には見えませんね。高身長ですし、雰囲気も落ち着いていらっしゃる」

「それはどうも。ところで、業務内容や勤務期間についてお伺いしてもよろしいですか」

「はい。業務内容は使用人として家事や息子の世話をしていただくこと、勤務期間はひとまず一ヶ月で検討しています。それと、給料は一ヶ月あたり四十万アネロで考えております。……もしよろしければ一ヶ月以上お願いしたいのですが、恐らく旅に出られるんですよね」

「ええ。こちらとしては、一ヶ月が助かりますね」

「では一ヶ月間よろしくお願いします。何か質問はおありですか?」

「見たところ、息子さんはそこまで小さなお子さんではないようですが。世話が必要なのですか?」

 青年がムッという顔をした。

「普通はそう思いますよね。エンフェルもそんな顔しないで。……虚弱体質、ってわかりますか?」

 恐る恐る、といった表情で言われたので知っている知識を話す。

「はい。明確な病気ではないですが、生まれつき体力が少なくて疲れやすい、風邪を引きやすく回復も遅い、食が細いといった状態が慢性的に続く体質のことですよね」

「お詳しいですね、その通りです」

「父が科学者なもので」

「もしかしてティフィコって……あの有名なシエン・ティフィコさんの娘さんですか?」

「ええ、そうです」

 別に隠すつもりもなかったので肯定した。

「じゃあお前、良いとこのお嬢様じゃん。なんで使用人とか旅とかやってるわけ?」

「しがらみが面倒だったので家を出ました」

「ふーん」

 顔立ちは整っているが、私にもわかるほど性格が悪いようだ。これは苦労するかもしれない。

「それでは、早速ですが今日よりお願いしてもよろしいですか」

「もちろんですよ。宿屋の荷物を取ってきます」

「ああ、それならついでにお使いを頼まれてくれませんか。この通り私は黒髪で不吉と言われていますから、外に出ると後ろ指を刺されて肩身が狭いんです」

 プレシオサは背中に垂らした大きな三つ編みを手に取り、前に持ってきた。カリーダのようにまっすぐな髪で、私と違ってアレンジもしやすそうだ。外はねがない分、カリーダよりもストレートかもしれない。

「そういうことでしたら、今後も買い物などは私がします」

「助かります。では、よろしくお願いしますね」

 手渡された紙には、野菜や日用品が書かれていた。


「ただいま戻りました」

「ありがとうございます、フリアさんの部屋を用意しておきましたのでご案内しますね」

 案内されたのは二階のリビングの手前、廊下の左右にある部屋のうち左側だった。

「向かいはエンフェルの部屋です。何かあったら呼びますので、荷物の整理をしておいてください」

「わかりました」

 カバンから荷物を出していき、カリーダに渡されたヘアオイルをサイドテーブルに置いてふうと息を吐いたその時だった。

「フリアさん!」

 焦っている様子のプレシオサの声が聞こえ、私は扉を開けた。

「どうしましたか」

「エンフェルが熱を出してしまったんです。桶に氷水を入れて持ってきてもらえますか」

「わかりました」

「キッチンは一階に行けばすぐに見えます。では、お願いします」

 そのままプレシオサは向かいのエンフェルの部屋に入って行った。

 私は一階に下り、言葉通りすぐに見つかったキッチンに入って氷水を作った。再び二階に戻り、自室の向かいをノックする。

「氷水を持ってきました」

「ありがとうございます、入ってください」

 初めて顔の青白くない彼の姿を見ることができた。

 渡されたタオルを氷水に浸し、しっかりと絞る。そしてエンフェルの額に置かれた生温かいタオルと取り替えた。彼はうなされているようだが、かすかに私を睨んでいるようにも見える。

「もういい。一人にしてくれ」

「わかった。いつでも呼んでね」

 プレシオサはこちらを見て頷いた。私は立ち上がり、一礼してプレシオサと共に部屋を出た。

「ごめんなさい。あの子、いつもはあんな風じゃないんですけど」

「いえ、気にしていないので」

 プレシオサは眉を下げて笑った。

「もうお昼時ですね。私はあなたと自分の分を用意するので、エンフェルのお粥を作ってもらえますか」

「わかりました」


 再びエンフェルの部屋の扉をノックすると、中からか細い声が聞こえてきた。

「誰だ……」

「フリアです。粥を持ってきました」

「……いらない」

 私はその言葉を無視して中に入った。

「おい」

「食べないと治りませんよ」

「食べたところで俺の体質は治らないだろうが!」

 息を荒げる彼の瞳をじっと見つめ続けると、やがて彼はバツが悪そうに呟いた。

「……悪い。後で食べるから、そこに置いておいてくれ」

 言われた通りにサイドテーブルに粥を置き、私は部屋を出る。扉越しにくそ、という声と柔らかい物を殴る音が聞こえた。

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