2.アルビノの少女
促されるままに列車を降りて、カリーダを見上げる。
「ここは帝国で最も大きな都市、最も乗降者数の多い駅だから案内所があるだろうね。まずは駅の地図を探そうか」
「待ってください」
「どうかした?」
「立ち眩みでまともに歩けません」
駅のホームのベンチに座って休んでいると、カリーダが水を持って走って来た。
「立ち眩みの原因は主に水分不足って聞いたことがあるよ。飲める?」
「ありがとうございます、迷惑を掛けてすみません」
「元はといえば私が着いて行きたいって言ったんだし、気にしないで! それにフリアはお嬢様だったんだし、ゆっくり旅人生活に慣れていこうよ」
顔色良くなって来たね、と言われ、肌のことを思い出す。
「帽子を屋敷に忘れました」
「そっか、フリアちゃんアルビノだもんね! 急いで買ってくるよ、今のところ肌に違和感は?」
「大丈夫です。帽子と日焼け止めのクリームを買って来てくださると助かります」
カバンからお金を取り出そうとすると、やんわりと手を押さえられた。
「私のポケットマネーで買ってくるよ。少しくらい格好付けさせて?」
「もう十分格好いいですよ」
ポケットマネーって、父は自分で生み出した人造人間に給料でも払っていたのかと考えて笑いが溢れた。それは都合良くカリーダに受け取られたようで、
「そう? 嬉しいな!」
などと言っている。
「それはそれとして帽子と日焼け止めだったね。買ってくるから待ってて。怪しい人に声を掛けられても着いて行っちゃダメだよ!」
はいはい、と少しやる気のなさが滲んだ声で返事をした。
そして今の今で私は興味本位の男性二人に声を掛けられている。
「お嬢ちゃん綺麗だね〜、どこから来たの?」
「一人? 俺ら美味しい店知ってんだけど、腹減ってたりしない?」
「いえ、結構です。人を待っているので、すみませんがお引き取りください」
よく冷たいと言われる瞳で睨め付けたが、体格差もある男性たちには怖くないようで、通じなかった。
「そんな邪険にしなくてイイじゃん! どうせ待ち人ってのも方便でしょ?」
そして私はまともに取り合う方がアホらしいなと気付き、無視することにした。手を出されたらそれはその時、周りの目も厳しくなるだろうし何とかなるだろうと考えたのだ。
「おい、いい加減着いて来いって!」
「フリアちゃんに何してるんですか」
いつの間にか男性たちの背後に立っていたカリーダが小型銃の撃鉄を上げた。
「は、女、え?」
「耳悪いんですか? フリアちゃんに何してんだって言ったんだよ」
片方の男性の頭にゴリと銃口を押し付けると、二人組は慌てて逃げて行った。カリーダはそれを見送りながら、コートの内側のポケットに銃を入れた。
「銃? どこで仕入れて来たんですか……」
「最近は戦争とかもあって物騒だから、個人が銃を携帯していても怒られないんだよ。この銃は屋敷からパクって来た」
「怒られますよ」
「ご主人様に許可取ってパクって来たから大丈夫!」
「許可取ってパクるって何ですか!」
何だかんだ言ってカリーダは頼りになるなと思いつつ、私は立ち上がった。
「先程は助かりました、ありがとうございます。もう歩けるので行きましょうか」
「そうだね!」
駅の中を歩き、案内所を見つけてコスパの良い飲食店を紹介してもらった。あの二人組の知っている美味しい店とはどこだったのだろう。ところで、何か忘れている気がする。
「じゃあその店に向かおうか」
「……」
「フリアちゃん?」
「肌がピリピリします」
「日焼け止め!!」
カリーダは泣きそうな顔で私の肌に日焼け止めを塗りたくった。加減がわからないのか、べちゃべちゃするくらい大量に塗られたので、使わない人にはわからないものなんだなと思った。
「ハンバーグを一つと、フリアちゃんは何にする?」
「お子様セットBをお願いします」
「えっ」
「かしこまりました」
入ったのは洋食店で、カリーダはメニューを見ることなく呼び鈴を押した。私は店外からメニューを見ていたので、迷うことなくお子様セットを注文した。店員は少し大きな子供がそれを頼むことも慣れているようで静かに去って行ったが、カリーダは目を見開いてこちらを見ている。
「フリアちゃん大人びてるから、お子様セットとか頼むの恥ずかしがると思ってたよ」
「私は最低限お腹が埋まる量が食べられれば良いんです。美味しい味を感じていない訳ではありませんが、それは胃の容量を超えてまで食べたいと思わせるものではないので」
「冷めてる〜、その辺の大人より大人だね」
カリーダは肘をついて乾いた笑みを浮かべた。
「多分私は他人より幸福を感じていないんだと思いますよ。だってあの人の娘ですから。美味しいものを食べて、幸せを感じて、もうお腹いっぱいだけどまだ食べたいなんて、私には一生体験できないことです」
そう言うと、カリーダは顎の辺りに手を置いて話し出した。
「シエン様仰ってたよ。私は生まれつき幸福を感じるのが苦手なんだ、って。確か、そういうホルモンが分泌されにくいんだったかな。普通の人で言うと、鬱に当たる状態が一生続くんだって」
「それが遺伝したんでしょうね」
空気が淀んできたその時、店員が料理を運んできた。
「ねぇ、そのオムライス一口もらっていい?」
「旗もあげますよ」
「それはいらないかな。ところで、次はどこに行きたい?」
目的地を聞かれるも、とりあえず家を出ることしか考えていなかった私には答えを出せなかった。
「まあ、長期的な目的は後で考えよっか。食べ終わったら流浪の旅人っぽく見せる為に服でも買いに行く? 今のままじゃ、家出したお嬢様感がマシマシだから」
そう言われ、私は俯いた。少し汚れがついてくすんだ白いドレス、走り慣れていなさそうな細い足、自分で切ったことが丸わかりの髪型。
「ホテルに着いたら、最低限はアメニティで髪の毛整えてあげるね」
綺麗な髪の毛だから触るの楽しみだな、などとカリーダが言っているのを横目に、私は店の外を見た。
流石中央都市と言ったところか、視線を滑らせただけで服飾店が三つは見つかった。ジャンルも異なるようだ。
「私、可愛い服にはウンザリしているので格好良い服が着てみたいです」
「えっ、えーっ! 絶対似合うよ、私がコーディネートしてあげるね!」
カリーダのハンバーグを食べるスピードが目に見えて変わった。自分の前に置いてある空の皿を見て、私はやっぱり旗を手に取ってカリーダのハンバーグに刺した。
「えっと、いらないって言ったよね?」
カリーダは戸惑っているようだった。
「でも、カリーダは子供時代を味わったことがないでしょう?」
カリーダは目を見開き、そして口角を上げた。
「フリアちゃん、良い性格してるね」
「私なんて人でなしですよ」
「そういうところがね」
そう言うとカリーダは最後の一切れを口に含み、席を立った。




