第10話
ツチノコとの戦いを終え、過ぎ行く夏の日々。
時は流れ続け、夏休みの終わりがやってきた。
俺は都会に帰る準備を整え、田舎の駅に向かっていた。帰るのが寂しいと感じるのは、やはり海月と過ごした夏の思い出が心に残っているからだ。彼女と過ごしたあの日々が、どんなに短くても、俺にとってはかけがえのない時間だった。
「海月、見送りに来てくれなかったな……」
彼女のことを思いながら、電車に揺られる俺。車窓から見える風景が流れていく中、何気なく息を吐いた。
海月にさよならを言いたかったが、あの日以来、彼女の姿を見かけることはなかった。もちろん、見送りにも来なかった。
「まあ、忙しいんだろうな……学生だろうし、夏休みの宿題もあるだろうから……」
そんな風に自分を納得させつつも、残念な気持ちが心に広がるのはどうしようもなかった。
その時、突然、ふわりと風が舞ったかのように少女の声が聞こえた。
「隣いいですか?」
俺はその声に慌てて顔を上げ、驚きのあまり目を見開いた。そこにはあの海月がいたのだ。
麦わら帽子をかぶり、白いワンピースを着て、まるで夏の光そのもののように眩しくて、少し照れくさそうに微笑んでいる。
「海月!? どうしてここに……?」
「あの公園にもう私の待っているものはいないから新しい場所に行こうと思って。最近は色々と忙しくて、転校の手続きとかもバタバタしちゃって会えなくてごめんね」
海月は少し照れたように言い、続けた。
「こうしてまた会えて良かったよ。私も一緒に行こうと思ってたから」
俺は驚きながらも、その言葉に安心感を覚えた。海月が来てくれたことが嬉しくて、心の中で何かが温かくなった。
「それに、都会に着く前に一つ頼みたいことがあったんだ」
海月は少し真剣な顔をして、俺を見つめた。
「頼みたいこと?」
海月は頷いた。
「私、都会に行くことに決めたんだ。でも、何も分からないし。村一番の物知りなお祖母ちゃんに聞いたらあなたのお世話になりなさいって言われたの」
「え……!?」
俺は驚きのあまり、言葉が詰まった。
「海月、俺の家に来るの!? 本当に?」
「うん。あなたと一緒なら私も平気かなと思って」
海月はにっこりと笑って、続けた。
「夏休みが終わっても、私たちの時間はまだ続いているみたいだね」
その言葉に、俺は心が跳ねるのを感じた。夏休みの終わりが、実は新たな始まりであることを教えてくれたような気がした。
「海月……」
俺はその言葉を胸に、しばらく黙って彼女を見つめた。その目には、もう一度一緒に歩む未来が映し出されているようだった。
海月は少し照れたように目を伏せながら、でも確かな決意を込めて言った。
「これからも一緒に、もっとたくさんの思い出を作っていきたいね」
俺はその瞬間、心の中で強く決意した。海月と一緒に、これからも歩んでいくために、どんな困難も乗り越えていくんだと。
電車が都会に向けて進む中、俺たちは静かに隣り合って座った。海月はすぐに安心したように眠ってしまったけれど、窓の外にはこれから始まる新しい日々の予感が広がっているように感じた。
「海月、見て。海だよ」
そうは言っても彼女は寝ていて見てはいないけれど。これからいつでも見る機会はあるだろう。その時はもちろん一緒に……
夏休みが終わっても、俺たちの物語はまだ続いていく。海月と共に、新たな未来へと踏み出すその時が、またすぐにやって来る。




