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Ⅲ.講義
校内の廊下を渡ると
足音が薄く伸びる水の膜を割る
汚れた靴の後を残して
それ以外何も残らない
講義
蛍光灯は小さく空気を揺すり
スライドの明かりは壁に流れ出て
教授の声は深い底
ノートを開けて文字を書く
インクの色がどこか淡い
書いた文字の意味も分からずに
ただ手から漏れ出る砂のよう
校外では
傘がゆっくり移動する
その一つ一つに生きる道があって
そのどれも私からはそれている
講義は進む
問いの答えも声にならず
頷くふりの中に
私は一つうそをついている