第98話 VSスキンヘッド その2
今、スキンヘッドはユリアにナイフを投げようとしている。
ユリアは治癒師だとバレているなら、狙われるのも仕方ない。何度でも再生させられるチートだからな。先に潰すのは当たり前だ。
氷の張ったこのフィールドで、この数メートル離れた距離から飛び込んで、ユリアを突き飛ばすのはかなりきつい。仮に間に合っても投擲ナイフに被弾するのは俺だ。
いやだ、ユリアを殺されたくない。俺の唯一の理解者、かもしれない人……。俺は無意識に、手を床でごそごそ動かしていたが、たまたま地面に落ちてた、手のひらサイズの瓦礫を拾った。
これしかない。それをスキンヘッドの手をめがけて超剛速球でぶん投げた。
当たるかなんてわからない。とにかく必死だった。でも、器用貧乏な俺なら、なんだかんだ当たるかもしれない。
そして、ナイフを投げようとしたスキンヘッドの手に俺の投げた瓦礫が命中し、ナイフは弾き飛ばされた。
「なんだと!?」
奴の手からは鮮血が流れ落ち、何が起きたのか分からず動揺している。俺はその隙にスキンヘッドに接近する。床は凍り付いて滑るから、あえてスケートのようにフィールドを滑りながら近づいた。そのまま奴と接触し、胸倉を掴んで背負い投げを決めた。
奴はあおむけで思いきり床に叩きつけられる。さっきと同じ状況。俺は再び奴の馬乗りになった。
「よくも俺のユリアを傷つけようとしたな」
「くそ!てめえ本当に学園生かあ!なんでそんなに強いい!?」
「環境と才能だよ」
さっきと同じ手は食わないように、ガッツリと奴の腕を足で拘束しながら、俺はスキンヘッドを無心になって殴り続けた。俺だけでなくユリアまで殺そうとした。ただただイラついていた。最大の痛みを持ってこいつは殺す。
……が、また油断を突かれ、スキンヘッドは最後の力を振り絞り、そのまま俺ごと回転させ、今度は逆にスキンヘッドが俺に覆いかぶさった。スキンヘッドはそのままナイフを取り出す。こいつ何本ナイフ持ってんだよ。
「まだまだ甘いなあ!クソガキイ!感情に振り回されて我を忘れたかあ!?そのまま後悔して死になあ!」
クソ!さっさと殺してれば!でもリングで光魔法でも放てば目くらましにはなるはず!俺はリングを発動しようとしたが――
「チー君!」
ユリアはいつの間にか魔法を詠唱して、スキンヘッドにアイスエッジを放っていた。
しかし、スキンヘッドは短剣で簡単にそれを捌く。ユリアは表情は絶望の色に染まる。スキンヘッドはニンマリと笑みを浮かべながら、ユリアの方を一瞬向く。
「嬢ちゃん、こいつをやったら次はお前だからあ、安心して待ってなあ!」
「あのお」
「ああ?なんだお前え!?」
俺はスキンヘッドに声をかけた。
「殺すなら、一瞬で、楽に、グサッと、死なせて欲しいです。頼みます。痛いのは嫌なので」
「……は?え、あ、はい」
明らかにスキンヘッドは戸惑って、声を小さくしていた。人は動揺すると、俺みたいな返事をするんだろうか。
スキンヘッドは戸惑いながらも、俺の心臓めがけて、奴は短剣を振りかざそうとする。
……かかったな!お前のその戸惑いと油断で、俺を押さえつける力が弱まった!あとはそのまま奴の息子を思いっきり蹴り上げれば――
その瞬間、スキンヘッドは首を抑えて苦しみだした。あれ?まだ蹴ってないのに?
「ぐ、な、なんだ、くるじ、誰だ、俺の首を……うがああ」
しかし、後ろにスキンヘッドの首を絞めている奴などいないし、むしろ自分で首を絞めているのでは?といったおかしな様子だ。
そして俺の身体から徐々に離れ、どんどん宙に浮いていくスキンヘッド。俺は意味が分からず、息を飲む。
ユリアの仕業か?しかし、ユリアは棒立ちしたまま、目を丸く見開き、この状況を不思議そうに見つめていただけだ。
俺はもう一人を見る。そう、意外な人物の仕業だった。
「先輩を、傷つけるお前は、絶対殺す!」
シオリーだった。シオリーはスキンヘッドに手をかざし、紫色のオーラをまとっていた。シオリーの表情は今まで見たことないくらいの怒りに染まっていた。
相手の首を絞める魔法?そんなものがあるのか?だが、火、水、風、土、光とも全く関係ない力だ。魔法とは違うシオリーの特殊能力か?
まずい、このままだとスキンヘッドの首が吹き飛びかねない。いや、このまま殺してもいいのだが……シオリーの手はどんどん力強くなっていく。
冷静になって考えてみれば、こいつを生かしておけば、何か神声教団の情報を掴めるかもしれない。それに個人的に拷問もし足りない。まだ殺しちゃだめだ。俺は焦ってシオリーのところに駆け込む。
「待て!殺すな!そのまま思いきり地面にぶん投げろ!」
「……は!?先輩!?」
「いいから!」
「は、はい!」
シオリーは正気を取り戻しつつ、宙に浮かせたスキンヘッドを超能力で思いきり地面に叩きつけた。
いや草。そのまま、スキンヘッドは地面に倒れ、今度こそ気絶して動かなくなった。……死んでないよな?
俺はシオリーを先程縛っていた縄を持っていき、倒れたスキンヘッドをがっちりと固定しておいた。こいつも満身創痍だ、万が一目が覚めてもほどかれる心配はないはず。
俺は盛大なため息をついて、床にへたり込む。本当に、怖かった。
「チー君!大丈夫!?ってきゃっ!」
「え、あ」
ユリアは、まだ凍ったままの床を駆け寄ってきて、盛大にこけて座り込んでいた俺に突っ込んでくる。
俺は無意識にひょいっと、倒れてきたユリアの身体を支えたのだが……
「あ、ありがと……」
俺は思わずやべえと思いユリアを速攻突き放した。もちろん優しく。ユリアはまた滑って転びかけて、何とか踏みとどまってそのまま床に座り込んだ。
こちらを振り向いたユリアは、完全にむくれて眉を吊り上げていた。
「チー君ひどすぎない!?」
「いや気安くユリアに触ったから訴えられそうかと思って」
「ああ、いつも通りのチー君だ」
ユリアは呆れつつも俺にちょこちょこと近づいてくる。
にしても、もうこんな戦いしたくない。本当に終始恐怖と戦っていた。食らえば即死の殺し合い。そしてあのナイフを刺された時の地獄のような痛み。
これからも何度も頭の中でフラッシュバックしそうだ。
恐らく、この戦いはこれで終わりではないはずだ。必ずまた、同じように神声教団と戦うことになる。……決めた。俺は絶対に攻撃を食らわない回避盾になる。不意打ちも絶対にさせない。
だから、今度ブルーに察知能力の鍛え方とかいろいろ教えてもらおう。……いや、やっぱりあいつちょっと苦手だし、そもそも教えてくれるのかな……。俺にストーカーしてたくらいだし、多分大丈夫だろう。
するとユリアは、なぜか、少し照れながら話しかけてきた。
「チー君」
「あ、はい」
「さっきのセリフ、もっかい言って?」
「はい?」
何の事だろうか。もしかして……。
「殺すなら、一瞬で、楽に、グサッと、死なせて欲しいっす。一瞬で殺して、頼みます。痛いのは嫌だ」
「違うそっちじゃない!」
違ったようだ。
「あのさ、さっきスキンヘッドに覆いかぶさって殴ろうとしたときだよ」
ああ、あの時は怒りで我を忘れかけてたからなあ。なんて言ったっけ。確か……『よくも俺のユリアを傷つけようとしたな』だったような……っ!?
「すいませんでした!」
「なんで謝るの!?」
聞こえてたのか!?とっさに出た言葉だが、ユリアの彼氏でもないのに彼氏面みたいなセリフ吐いて、今考えたら気持ち悪いわ!
「『よくも俺のユリアを傷つけようとしたな』だっけ?」
覚えてんじゃねえか!
「やっぱり一瞬で、楽に、グサッと、殺してください。恥ずかしすぎるので殺してください」
「やらないよ!?チー君はきっと咄嗟に出た言葉なんだろうけど、そ、その、嬉しかったんだから……ね?」
ユリアは目を逸らしながら小さい声でつぶやく。
”嬉しかった”だと?どうも信じられん。俺はただのユリアの”騎士”でしかないんだぞ。まるで俺に好意があるみたいな……。
いや、俺は絶対に勘違いしない。それで破滅したチー牛は数知れず。
チー牛は夢を持つのは良いが、モテないという現実をちゃんと理解するのが賢い生き方ってもんだ。チー牛は誰よりもリスクが多いからな。
俺は一旦冷静になって、今の状況を振り返る。なんとかこのスキンヘッドを捕らえることができたし、シオリーも無事に保護できたわけなのだが。
気になるのは、さっきのシオリーの豹変ぶりだ。紫色のオーラを纏い、超能力でスキンヘッドを絞殺しようとしていた。
さっきの能力について聞こうと思って、俺はシオリーに近づくと、目を反らしつつ、震えながら距離を取る。
「わ、私に近づかないでくださいっ……」
「え、な、なんで」
「私は、厄災をもたらす、忌み子……だから……」
「は?」
忌み子?なんだそれ、どういうことなんだろうか。




