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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第3章 学園2年編

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第94話 チー牛ジェットコースター?




 街中は相変わらず人が多くてごちゃついていた。こんな人混みの中じゃ、シオリーなんて見つかるわけがない。


「う~ん、人が多すぎて、見え隠れして魔素をうまく見分けられない……」


 ユリアは困り顔で、周りを見渡しながらつぶやいた。魔眼を発動し、ユリアの目は淡く緑色に光っている。


 これじゃ埒が明かないので、こんな提案をしてみる。


「高いところから見下ろせばよく見えそうじゃないすか?」


「そうかもしれないけど、建物の上にどうやっていくの?あの時計塔の上に行くにも時間もお金もかかるよ?あ、まあ私が払えばいいんだけど」


 ユリアは向こうにそびえたつ時計塔を指さす。さすがに遠いな。金もかかるらしいし。とりあえず高いところに行ければいいんだろ?


「えっと、あの塔にはいかないけど、この高い建物の上ならいいんじゃないですか?」


「いや、だからどうやって?」


「とりあえず路地裏行きますか」


「……え、なんで路地裏!?……まあ、いいけど……」


 ユリアは急に赤面して焦り始める。何を考えてるんだ?とりあえず、俺とユリアはちょうどそこの路地裏に隠れるように入っていく。俺はユリアに念のため聞く。


「えっと、飛ぶので、その、ユリアを……背負って問題ないですか?」


「え?背負うって、その、私をだよね?」


「はい、無理ならやめときますけど。俺みたいな男におんぶされるの、嫌じゃないっすか?」


「いやいや!その、嫌じゃないから!」


 ユリアは否定するが……いや、やっぱりリスクが大きい。あとで「私は無理やり背負わされた」なんて訴えられたら……。


「やっぱりやめます。訴えられるの怖いんで」


「何度も訴えないって言ったよね!?」


「とにかく飛ぶんで、スカートは絶対押さえててくださいね」


「……へ?」


「それと着地は頑張ってください」


「……はい?」


 ユリアは訳も分からず、言われた通りスカートを抑える。


 俺は腰から杖を取り出して詠唱を開始。系統は風魔法。少しだけ火魔法も組み合わせて上昇気流を発生させる。対象はユリア。無詠唱はさすがにこの繊細な魔法ではまだ無理だ。


 ああ、もちろん、風の威力も抑えてケガをしないようにする。ユリアはこう見えてある程度の運動神経は持っている。



 徐々に風が俺やユリアの髪をなびかせ、埃や微細な砂が舞い踊る。よし。そろそろいいだろう。


 俺は詠唱を完成させ、そのまま杖を振り上げた。直後、ビューーーンという風の音が路地裏内に響き……ユリアは天高く上がった。


「きゃーーーーーー!?」


 ユリアの甲高い叫び声が俺の耳をつんざく。おいおいこれはやばいぞ!?この声を聞いた通行人がこの路地裏に来れば俺は……まずい。


「今の叫び声は何だ!?」


「こっちからしたぞ!?」


 通行人は気づいてしまった。やばいやばいやばい。


 すぐにユリアが建物の屋上へと風魔法で運んだことを確認し、俺も同じように自分を対象にして高速で詠唱を開始した。落ち着け、心の乱れや焦りは魔法の発動に影響する。しかし心臓の鼓動が鳴りやまない。


 捕まりたくねえ!詠唱を完了させ、そのまま俺も上昇気流で屋上に飛んでいった。そのままなんとか屋上にスタっと着地。


 俺はさっきいた路地裏を屋上から覗く。


「あれ、誰もいねえ」


「さっき確かに聞こえたよな?」


「気のせいだろ」


 あっぶね~~~~~。せっかくのイケメンイージーライフがつぶれるところだった。リアルに冷や汗やばかった。多分、今俺の顔真っ青かも知れん。


 俺は後ろを振り向くと、ユリアがむぐ~っとしてこちらをジト目で睨んでいた。


「ば、ばか!めっちゃ怖かったんだから!もう……」


 なんだろう、バカと言われたのに、可愛いから全然気にならんかった、むしろもっと言ってくれ。


------


 ユリアは落ち着きを取り戻し、改めて建物の上から景色を眺めながらつぶやく。


「にしても、すごいよね、一瞬でこんな高いところに飛べるなんて、チー君ってほんと器用ですごいよ」


「……」


 もう褒められたらノーコメントを貫くことにした。肯定したらナルシストっぽいし、否定すればまた卑屈になってるとか、嫌味と取られたりするから、何も言わないのがベストだと学習した。


 別に無視はしてない。俺も学ぶのだ。


「この建物の上なら王都を見渡せると思うので、えっと……魔眼、お願いします」


「うん、分かった。……お、落ちないように、ちゃんと見ててね、チー君?」


「あ、はい」


 ユリアは建物の上の端に立ち、王都を見下ろす。そんなユリアの後ろ姿を見ているが、ちょっとかっこいい。静寂の中、風で髪をなびかせ、街中を見下ろしている。


「見つけた」


「本当ですか?」


「うん。少し弱ってるけど、間違いないよ。ちょうど、学園より少し北のあたりに反応があったよ」


 弱ってる?まあでも、生きてるってことだからひとまず安心だ。あとは実際の現場だけでも押さえたいとことだが、ユリアを連れて行かないと場所が分からない。


 王都に下りて行くと時間がかかるし、正直、建物から建物へと飛んでいきたいところだが……。


 それだとユリアを背負って行かないといけない。じゃあ、めんどくさいけどやはり降りるしかないな。


 俺は先に先ほどの路地裏に飛び降りようとしたのだが、こいつのことを忘れていた。


「えっと、俺が先に飛び降りるので、その後ユリアも飛び降りてください」


「へ!?ちょっと何言ってんのチー君!?怖すぎるから!」


「いやいや、俺もちゃんと風魔法でキャッチしますから」


「そういう問題じゃないから!」


 ああ、まあ、俺も高所恐怖症だったけど、慣れるまでは大変だった。いくらこの世界の身体能力が高くても、怖いもんは怖い。


 だから俺は何度も、低いところから飛び降りる練習をして、どのくらいから着地で痛みが出るのか、どの程度の風魔法の補助が必要か、確かめながら克服したもんだ。


 なんでそんなことしたかって、そりゃ、すぐどこからでも逃げるために決まってるじゃん。


 とにかく、ユリアの気持ちはわかる。でも今はそんな事言ってられないのだ。俺もどうすればいいか考えるが、ユリアがもじもじしながら俺に頼んでくる。


「そ、その……チー君が背負ってくれなきゃヤダ。怖いもん」


「絶対嫌です」


「ほ、本気で言ってんだよ?」


 ユリアはちょっと眉を吊り上げながら言ってくる。ちょっと怒ってる?俺だって本気だ。


「いや、だから社会的に怖いんですって」


「いや私だって飛び降りろって言われて怖いんだけど!?」


「私は『この男に無理やり背負わされて胸触られた』とか言って性被害訴えてくるだろうし」


「いや私そんなふうに思われてんの!?ていうかしつこいよ!?何回このやり取りしてるの!?信じてよ~」


「嫌です。最初は同意してても人は簡単に裏切れます」


「ああもう!じゃあどうすればいいのさ!私はチー君みたいに風魔法器用に使えないし、身体も鍛えてないんだけど!」


「いや、だから代替案を考えてるのですが」


「ああもう、疲れるこの人」


 呆れられた。付き合ってるわけでもないのに、背負うとか接触なんかしたら終わりだよ。


 そしたら、妥協に妥協を重ねて、この方法で行こう。俺は以前ユリアに編んでもらった手袋を左手にはめる。そのままユリアに差し出す。


「じゃあ、手握っててください」


 ユリアは目を丸くしてちょっと嬉しそうに驚いている。


「え、え!?チー君が手を……ってなんで手袋!?」


「手袋なら俺の指紋もDNAも証拠も何も残りませんしね」


「なんの話してんの」


 ユリアはちょっとつまらなそうにしながら俺の手を握る。手袋越しだからまだ安心できる。てか、手握られたことは何度かあるのに、気にしすぎだよな俺も。


 なんて思いつつ、俺は右手で杖を握り、詠唱をとりあえず途中まで完了させておいて、一応確認を取る。


「今から飛び降ります。準備は良いですか。ちゃんと握っててくださいよ」


「う、うん。大丈夫。信じてるから……」


 ユリアは緊張しているのか、ユリアの握る手から震えが伝わる。俺も緊張するんだが……あ、これも伝えなきゃ。


「あ、絶対声は出さないでください。俺が不審者に見えてしまうので」


「いや見えないと思うけど」


 そして俺とユリアは一緒に踏み込み、屋上から路地裏に飛び降りた。俺は路地裏の地面に向かって先ほどと同じ上昇気流をうまく設置し、何とかゆっくりと着地できた。


 ユリアは上手く行って胸をホッとなでおろす。


「……はあ、怖くて叫びそうになったよ」


「やめてください」


「ありがとね、チー君」


「え、あ、はい」


「今度はちゃんと背負ってほしいけどなあ」


「やめてください」


 そんなことを軽く話しながら、俺たちはシオリーの魔素の反応する場所へと王都を歩いて行った。





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