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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第3章 学園2年編

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第89話 秘密の魔法特訓



説明回





 後日、シオリーに無詠唱魔法を教えてもらう日に、学園の自習室の1つを予約して借りていた。


 約束の時間になったので、適当な魔法書や筆記用具を持ってそこへ向かった。なんか、自習室って真面目君みたいで嫌だな。


 そういえば、部屋を出る前にユリアに「出かけるのでネクラ付けます」と言ったのだが、どこに行くの?と言われた。


 さすがに返答に困った。


 無詠唱魔法のことはあまり言わない方がいいだろう。シオリーの特許みたいなものかもしれない。特許の侵害みたいになったら可哀そうだからな。特にシオリーに何か言われたわけじゃないけど、念のため伏せておきたい。


 だとしたら、なんて言えばいい?なんか、知り合いの名前を勝手に出すのって、ちょっと抵抗ない?気にしすぎ?


 だからシオリーの名前をだすのもやめておく。隠し事はしたくないのだが、シオリーも俺と一緒で目立ちたくない子だし。とっさに思いついたのが。


「えー、図書館に行ってきます」


「ふ~ん、最近よく行ってるね。わかったよ」


 ユリアは納得してくれた?ようだが、ひとまず安心だ。別に悪いことしてるわけじゃないのに、どうしても気にしてしまう。まあ別にいいじゃねえか。念願の無詠唱魔法やぞ?雑念は消してしまえ。




 ---




 自習室に着くと、すでにシオリーは中で本を読みながら席に座っていた。部屋は前世の学校の教室ほど。自習室……というにはまあまあな広さ。


 ここなら少人数で魔法や剣を扱っても問題ないんだろう。


「あ、すみません、待たせましたか」


「い、いえ……私も、今来たところ……ですっ……」


 このやり取り、よく見るやつだ。本当はもっと前に着いてたのに、“今来たところ”って言う、待ち合わせデートの鉄板ネタ。この世界でも実在していたのか。


 まあでも、ずいぶんのんびり本を読んでいたように見えるが?今来たところというのは嘘だろう。可愛い奴め。


「ではさっそく、その、授業お願いします」


「は、はい……」


 シオリーはおどおどとしながらもカバンからノートを取り出す。そこに色々書いているのだろうか。カバンの中をちらっと見たが、日記なんかも書いているようだ。


 見た目通り可愛いところあるよなあ。どんなこと書いてるのか気になってしまう。


 と考えているうちに、シオリーは準備ができたようで、話し始める。


「えっと……先輩は確か、詠唱短縮はできると聞いてましたので……それが可能なら、無詠唱もそう難しくないはずです。今日一日で習得できるかはわかりませんが先輩ならきっとできると思います……」


「え、あ、はい」


 ずいぶんと過大評価されているな。まあ後輩にそう言われるのは悪くはないものだ。シオリーは本格的に説明を開始した。


「詠唱というのはですね、正確に魔法を発動するための、補助的な“設計図”のようなものなんです。詠唱中のそれぞれの言葉には、”威力”、”射程”、”属性”など、魔法の仕組みを明確化するためのものなんです」


「は、はい」


「それらの詠唱を短縮、あるいは詠唱をしないで魔法を発動すること自体は、可能なんです。先ほど、詠唱は魔法を発動するための設計図と言いましたよね。つまり、かなりの練度やイメージ力があれば、設計図がなくとも魔法は発動できるんですよ」


「あ、はい……」


 ……めっちゃ饒舌にしゃべるやん、この子。いつものあのおどおどしたしゃべり方どこ行った。オタク気質ある?なんか、めっちゃ研究者って感じ。


 シオリーはノートを見ながら、説明を続ける。


「イメージ力、脳内で魔法の形状や特性を思い描き、それに対しての”構造理解力”、それを具現化させるための”精神集中力”が必要なんです。先輩は詠唱を短縮できているので、残りの詠唱部分もすべて脳内でイメージできれば、具現化できるはずです」


「あ、はい」


「そのためにはもちろん、一度詠唱で発動したものでないと、その魔法構造のイメージ構築は難しいですから、過去に詠唱で発動したことのある魔法に限られます」


 ……聞いていて、何となくわかってきた。何となくな。


 詠唱という設計図は無くても魔法ってのは発動できるものなのだ。この世界では、魔法は“詠唱して使うもの”って常識があるから、そもそも“詠唱なしでも魔法は出せる”って発想がないのかもしれない


 その発動される魔法もすべて詠唱というマニュアルに則っただけの物。詠唱が当たり前の世界だ。


 この異世界の人たちに、目に見えない魔素の流れや構造など理解できるわけもない。


 その原理も、経験によって分かるようになる猛者もいるが、それもシオリーのようにかなりの少数派となる。


 前世で科学などを学んできた俺にとっては、無詠唱魔法に必要なイメージ力の助けになるかもしれない。


 要は、プログラミングみたいなもので、最初はコード(詠唱)が必要だけど、構造を理解すれば自由に構築できるようになる、そんなイメージだ。多分。本当に多分。知らんけど。メイビー。


「えっと、分かりやすい、ですね」


「え?あ、ありがとうございます……。ですので……イメージ力と魔法の構造理解、脳内から体内をめぐる魔素の感覚を感じて、具現化できれば簡単に無詠唱で発動できるはずです」


 言ってることは難しいんだけどな。さっそく、俺は簡単な初級の火魔法からイメージすることにした。


「あ、最初は心の中で詠唱する感じでやると、やりやすいかもです。そうすれば、口に出さずに発動する感覚もつかめます」


「あ、はい」


「あとは回数をひたすら積んで、コツをつかむだけです。初級魔法の基本構造さえイメージできれば、応用も意外と簡単ですよ」


「あ、はい」


 なんだか、年下には思えないくらいしっかりしてんなあ。


 人に説明するってのは、思っている以上に難しいものだ。語彙力はおろか、物事の本質を理解していないと説明なんてできないからな。感覚派の例外もいるが。さすが、語彙力0の俺とは大違いだ。


 てなわけで、俺は心の中で詠唱して、初級の火魔法を発動してみた。手の上にボワっと火が出現する。これができるなら、あとは脳内のイメージを手を通して発動させればいいのか。


 俺は火をイメージする。赤く、ろうそくに火がボワっとともるような、淡く優しい炎。来た。魔素が手を流れるような感覚。


 だけど、すぐに集中が途切れてしまった。まあ一発で出来たら誰も苦労しねえよ。はあ、でも自分の身を守るために必須だ。


 ------


 そして数分後、何回かチャレンジして、コツみたいなものを掴んだ。もう一度発動して、俺は目を開けて手を見る。小さい炎が出現していた。ほんのりと温かみを感じる。


「で、できたのか?」


「本当ですか?速くないですか?さすが先輩ですっ!」


 まあ、さすがに前世の知識と、大魔法師の母さんのDNAを受け継いだ才能のおかげだとは思うが。


「あ、ありがとう、ございます」


「い、いえ、先輩がすごいからですっ……」


 本当に感謝しかない。これで戦術や自己防衛の幅が広がる。まあ、初級だからってのもあるだろうな。てか、どうせシオリーもすぐに習得したんじゃねえの?


 とりあえずあとはいろんな魔法で無詠唱を試していくのみ。


「あ、あの」


「え、はい」


 シオリーが少しおどおどしながら俺に声をかける。


「その、名前……なんですけど、私の事……その、シ、シオリーって、呼び捨てにしてほしい……ですっ……」


 急にどしたん。ユリアもそうだったが、なんでそんなに呼び方にこだわるんだ?もちろん嫌だぞ、陰キャ的には。


「え、それは、なんか慣れ慣れしいというか」


「い、いいんですっ。先輩なんですから……なんか……少し距離を感じてしまうので、その……だめ、ですか?」


 シオリーが上目遣いで俺を見てくる。


 ……はあ、だりい。女子の名前呼びって、陰キャにとってはマジでハードル高いんだぜ?なんか恥ずかしいのもそうだが、気安く呼んでくんなブスって思われそうだし。


 だから前世では、女子に話かけなきゃいけない時は「あの」とか「すいません」って呼んでた記憶。苗字すら呼ばない。


 名前呼びするのって、なんだかんだ前世から通しても、今世が初めてかもしれん。


「……わ、わかりましたから……」


「実際に呼んでみてください」


「え?」


 シオリーは照れながら、そしてわくわくしたような様子で俺を見つめる。なんかしっぽ振ってる子犬みたい。


 ……じゃなくて、マジで嫌なんだが?恥ずかしいし。早く言って終わらそ。


「シオリー」


「そ、そんな早口で適当に言わないでください……」


「はい?普通に言いましたが」


「も、もう一回、ですっ!」


 なんでだよ、この子のことが分からねえ。慣れた人にはかなりぐいぐい来る感じか?


 マジで動物じゃねえか。最初は警戒心あるけど飼い主になれたらべたべたしてくるみたいな。いや、シオリーの場合、べたべたではないけど、普段の性格からは考えられないから、そう見えてしまう。


 仕方なく俺は再び声に出す。


「……シオリー」


「……あ、うう……ひぅぅ……なんか、すごく変な感じ……です……」


 お前が呼べって言ったんだろうが。シオリーは頭を抱えて一人で盛り上がっている。まあ、でもあの異常なまでの人見知りなシオリーがここまで話せるようになってくれたんだし、良いんじゃないかな。知らんけど。


 う~ん、まあシオリーの気持ちも分からなくはない。イケメンに名前呼ばれるだけでも、かっこいいし恥ずかしくなるのはまあわかる。


 ユリアも俺の事そんな感じで見てたんかな……。そういえば、気になったことがあったので聞いてみる。


「あの、シオリーってなんで無詠唱魔法を?」


 シオリーはそれを聞いて一瞬固まった後、少し恥ずかしそうにうつむいた。


「あの……その……わ、笑いませんか?」


「え、あ、はい」


「……しゃべりたくないから、恥ずかしいから……ですっ……」


 そんな理由で無詠唱魔法手に入れたの逆にすげえよ。





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