第75話 自己肯定感が2ミリ上がった、多分
ボスゴリを倒した後、剣を地面に突き刺し支えにしながら、しゃがみ込む。ちなみに地面は虫とか土とか汚いから、ケツ付けて座りたくないからしゃがんだだけな。
正直もう終わったし、早く帰りたいけど、今はもう何もしたくないくらい疲れた。それに結局、前世のストレスは魔獣殺してもやっぱ消えねえわ。
瞬間的にはすっきりはするけど、やっぱ張本人殺さねえと気が済まねえな。魔獣なんてただ生きてるだけだし。
むしろ関係ないのに殺された魔獣が可愛そうに思えて来た。まあ、こっちも命かかってたからしゃあない、まさに弱肉強食だな。
で、めんどくさいのはこの後だ。あいつらが戻って来たってことは……やはりクラウドが俺に近づいてくる。未だにクラウドの目つきは鋭く、俺を睨んでいるようにも見えるが……クラウドは口を開く。
「名前は、確か、チーだったか」
「え?あ、はい」
俺、名乗ったっけ?……まあいいか。だが驚くことに、クラウドは俺に頭を下げてきた。なんだこいつ?
「悪かった。チーを無能とか、散々な態度取ったりして」
「え?」
意外過ぎた。こいつ、俺の事嫌ってたのでは?いや、態度で明らかに嫌ってたけど。だが、なんで急に態度変えてきた?ただどんなに謝ってきても、俺はクラウドのことは許せない。俺をイライラさせたんだから。
しかし、クラウドは返事を待っているようで、じっと頭を下げたままだ。ええ、どうしよう。なんて言おうか。少し皮肉でも言ってみるか。
「……えっと、あなたの言う通り無能なのは事実ですけど」
すると、頭を上げたクラウドは苦笑しながら返す。
「おいおい、それは俺たちにしてみれば嫌味にしか聞こえないぞ?あんなすごい戦いしておいて無能だったら、俺達は無能以下だぞ」
「え、あ、いや」
クラウドがここにきて初めて笑った。それにいつから見ていたのかは知らないが、やっぱりボスゴリとの戦いは見られていたっぽい。見られないようにかなり遠くに吹き飛ばしたはずなのに、クラウドのやつどんだけ心配性なんだよ。
「ああ、いい。チーが内気な性格なのを考慮できなかった俺が悪い。ちゃんと指示も出してやれなかった。
にしても、あの戦い、ほんとすごかった。まさか剣も魔法も使えるとはな。……えっと、そのだな、チーは俺たちを助けてくれた命の恩人だ。本当に助かった」
クラウドはついにデレた。再び俺に頭を下げる。尻もちをついていたサンも焦って立ち上がり、土の付いたスカートをほろってすぐ頭を下げた。気絶から覚めたスタッフも、怯えていたムンも、つられるように頭を下げてきた。怖い怖い怖い。
何頭下げてんだこいつら……。俺はただ、前世の鬱憤をぶつけたかっただけだ。殺せる相手がたまたま目の前にいただけなのに。
「いや、俺は今までのイライラをこの魔獣にぶつけたかっただけだし、その、見られるの恥ずかしいから遠くに飛ばしただけだし……それに、君の炎が無ければもうちょい長引いてただろうし……」
クラウドはまるで信じていないように言葉を返す。
「本当にそうか?まあそういうことにしておく」
「クラウドと似て素直になれないんだねえ」
「黙れサン」
サンがクラウドを茶化している。仲のいいことだな。クラウドはそのまま続けて話し出す。
「チーを最初に見た時、おどおどしてて、全然協力する姿勢も見せなくて、こんな奴がAグループなのか?こいつは俺たちの足を引っ張るんじゃないか?って思ってたんだ。
昔語りになるが、俺とサンは幼馴染でさ……本当は、もう一人いたんだ。サンとそいつと3人で冒険者目指そうって。実力は3人ともあったから、3人で内緒で魔獣狩りとかよくしてたんだよ。
でも、個々の実力はあっても、チームワークがなくて、俺のせいで、そいつは魔獣に殺されたんだ。俺が、おどおどしてたせいで……。
だから、チーを見てると、昔の自分を見ているようで、イライラしてたんだ。だから言い過ぎたことは、どうか許してほしい」
聞いた限りだと、クラウドは昔、俺みたいにおどおどした性格だったらしい。つまり、自分と似た俺を見て嫌なことを思い出したから、俺に強く当たっていたということ。同族嫌悪ってやつ?
まあ、そりゃ、こんな俺を見てたら誰だって嫌にもなるよな。
「その、チーを見て、もっと強くならないとだめだって思った。指揮能力や協力も大事だけど、それ以上に誰かを守れる強さももっと手に入れなきゃって思ったんだ。……チーみたいにな」
まあそうだよな、チームワークだけで何とかなるわけがない。強さは必要だ。
だが、少し違う。俺の場合、あくまで生き残るために強さを求めた。誰かを守るための強さじゃない。ユリアは二の次。……まあ、一応、騎士だしな。
それに、強くなるための努力ってだるい。疲れるし、チートというほどの強さは生きるだけなら必要ない。最悪、逃げればいいんだから。そんな疲れることはしたくない。
「で、その、嫌じゃなければ、なんだが……」
クラウドはいきなり目をそらした。え、なに、いきなり。まさか、告白?
「卒業後、俺とサンと、パーティを組んでくれないか?」
「え?」
さっきまで自分で考えてたことが頭によぎってめっちゃ恥ずかしくなる。バカか。告白なわけねーだろボケ。いくらクラウドがツンデレでも、そっちの趣味ってわけじゃないだろ。
にしても、パーティのお誘いか。むむ、小さい頃にユリアとパーティ組むことは約束してたし、悩んでしまう。
でも、パーティは何人で組んでも問題ない。大人数のパーティも多い。そんなに大きくするつもりはないけどな。
思えば、指揮する人というか、リーダー的立ち位置の人はやはり必要になるだろう。リーダーはユリアに押し付けようと思ってたけど、こいつでも問題ない。あの的確な指示も役に立つだろうし。
こいつも根はやさしいツンデレだと分かったからな。
「ああ、えと、クラウドさんがいいなら……」
「本当か!」
クラウドは目を見開いて、楽しそうに俺の手をグイッと掴んで握手してきた。さっきまでのクラウドとまるで別人だな。
クラウドの隣にいたサンは、くすっと笑いながら俺にも声を掛ける。
「クラウドはしゃぎすぎだよ~。チー!えっと、サンからもよろしくね!」
サンも握手を求めてくるが、女子とは絶対に握手をしたくないから、リスク回避のために、手を引いて頭だけ下げた。サンは頭に?を浮かべていたが、察してくれ。
こうして、クラウドとサンとパーティを組む約束をした。
「ムン、お前も来ないか?」
クラウドはムンにもパーティに誘いをかけたが、ムンは首を横に振った。
「いや、やめておきます。僕、結構ビビりで、ボスゴリに会った時、足がすくんで動かなくなって……。僕は別の道を進むことにするよ」
「そ、そうか。俺たちも無理強いはしない。分かった」
クラウドは納得したようだ。
その後、スタッフが俺たちに頭を下げる。
「みんな、すまない。Aランクと言っておきながら、すぐに戦闘不能になってしまった。不甲斐ない。にしても、チー。君の戦いは素晴らしかった。サンも的確な魔法コントロールだったぞ。
ただ、君は、もっと自信を持った方がいい。その強さも自信の無さから発揮できないのはもったいない。なあ、みんなもそう思うだろ?」
クラウドもサンもムンも一斉に頷く。……俺は、もっと自信もっていいのか?父さんにも、ユリアにも、こいつらにも、いろんな人に言われてきた。
もちろん、前世の俺と今の俺は違うことも分かってる。それでも、自信は、自己肯定感は持てなかった。
今回のギルド体験は、行こうと最終的に決めたのは俺だが、ユリアに無理矢理行かされたようなものだ。不安でしかなかった。でも、こうして少しは自信をつけられたんじゃないか。
こんなにも認められて、ボスゴリもほぼ単独で倒せて。お世辞って可能性もあるけど……。
ただ、俺と敵意なく普通に接してくれる。クラウドはおどおどしている俺にイラ立っただけだ。クラウドは俺を認めてくれたから、普通に接してくれた。
少しだけなら、自信を持っていいのかもしれない。ギルド体験、行って良かったかもしれないな。俺は、強い……いやいや自惚れるな、人並みに強いだけで、現実はもっと上には上がいる。
こんな俺が強いなんて……はあ、またネガティブ思考だ。まあ今までよりはマシにはなってるし。一歩前進にはなっただろう。一歩だけな。
ギルド体験はトラブルもあったが、無事に終わった。




