第74話 初魔獣討伐 前世の怒りを添えて
俺はすぐに距離を取れるように全身の力を抜く。
ボスゴリは一歩踏み出して、俺に拳を振り下ろす。速いが、さすがに予備動作が分かりやすくて俺もすぐに躱したが、その拳は地面を砕き、辺りを揺らした。
パワータイプって感じだ。体格のわりにそこそこ速いけど、見切れないほどじゃない。これがこいつの本気のスピードなら、躱し続けることくらいは可能だ。
その後もひたすら距離を詰めてくるボスゴリの攻撃をかわしつつ、すぐに出せる得意な魔法、アイスニードルを数個作り出しセットする。そしてボスゴリに向けて発射した。
アイスニードルはボスゴリを貫いた――と思ったが、思った以上に皮膚が固く、身体を貫くことなくアイスニードルは粉々に砕ける。
こいつが攻防に特化してんのか、それとも単に俺の火力不足か……。それならと、俺はかわしながら腕を振り回してきた後隙を冷静に剣で反撃した。しかし、皮膚を掠った程度でまともにダメージは通らない。とにかく固い。
地味に厄介だ。中級魔法程度じゃダメージは与えられないか?考えている間にもボスゴリは休むことなく突っ込んできて、拳を繰り出してくる。
さて、どうする。岩を鉄に変えてアイスニードルのように鋭くして飛ばせば、もしかしたら貫けるかもしれない。
だが、こいつは詠唱の暇を与えさせてくれない。やっぱ上級魔法は詠唱時間と集中力がネックだな。ずっと突っ込んでくるから、なかなか発動できない。
いや、大きく距離を取ればギリギリ上級魔法は放てるか?俺はそのまま後ろに大きく飛びながら杖を取り出す。すぐに反撃に行けないほどの距離は取れたはずだ。俺はそのまま詠唱を開始したが、ボスゴリはその辺の石を拾い上げて俺に超剛速球で投げて来た。
俺は即座に反応して首を少し横に逸らしたが、シュッと風を切る音が顔の隣を横切った。今の一瞬で心臓の鼓動が速くなる。やばい、当たってたら顔吹き飛んでたぞ。距離取ってもボスゴリも飛び道具で対抗してきやがる。詠唱の集中力もクソもねえ。
そして俺は自分の息が明らかに速く上がっていることに気づいた。もう疲れてる?そんな馬鹿な。俺は一応毎日何キロも走ってるし、学園の剣技の授業も疲れずこなしてた。ボスゴリとの戦闘でまだ3分も経ってねえぞ?
大してボスゴリは疲れの色を見せず俺を殺そうと「ごおおお!」と叫んで躍起になっている。
底なしの体力でも持ってんのか?どこまで脳筋なゴリラなんだ?いや、違う。俺は初めての命の取り合いで、無意識にいつも以上に緊張して疲れやすくなってるってことか。
俺は魔獣との戦闘は見たことはあっても、実際に戦うのは初めてだ。それに模擬戦なんかと違って命の取り合い。一瞬の判断で俺みたいなヒョロガリマッチョは死ぬ。だから体も強張って脳は必要以上に思考している。
そりゃあ疲れるわ。学園でも成績の良かったパーティでも、初の討伐依頼では失敗する可能性が高いと言われるのもこういうことだろうか。
気づけば、ボスゴリが上空から飛び降りてきていた。上から攻めてくるか。俺はブルーの水流型の構えを思い出し、真似してみる。拳の方向と威力を見極めて、剣で受け流す。
いやだめだ、単純にこええ!剣が折れたらマジで終わりだ!これ、一応中古の剣なんだぞ!?俺はすぐに後退しボスゴリを躱した。
ボスゴリが攻撃するたびに、踏み込むたびに地面は揺れ、草木は舞い、辺りの地面はクレーターだらけとなっている。さすがはAランクモンスターってところだ。
問題は火力不足だよな。この古びた中古の剣じゃ刃は通らないし、詠唱の長い上級魔法を放つ隙も与えてくれない。なんせこちらはソロだから詠唱の隙を稼いでくれる人もいない。
さてどうする。このままかわし続けても何も始まらんし、こちらの体力も有限だ。いっそのこと逃げるのが一番だが……どうしてもボスゴリを殺して前世から含めて恨みやストレスを発散したい。
さっきの肘打ちならダメージは通っていたから、肉弾戦に持ち込むか?ただし相打ちや捕まれたりすればこちらの負けだから難しいところだが。それに戦闘術みたいな知識は持っていない。
まあやるしかねえ。気が済むまでぶん殴ってやる。ボスゴリも俺に向かって走って来た。その瞬間だった。
ボスゴリの横から赤く光る何かが飛んできたのが見えた。そしてボスゴリはまともに食らって炎上した。今のは火魔法だよな?俺は炎が飛んできた方向を見ると、そこには震える足で杖をボスゴリに向けている、サンが立っていた。
は?なんであいつらがここに戻ってきてんだよ。遠くまで飛ばしたはずなのに?
「あ、当たった!」
恐怖で顔をこわばらせていたサンは炎が命中し、すぐに安堵の表情になる。しかし、燃えて悶えているボスゴリがサンの方を見た時、サンは再び恐怖を感じる。
「ひっ!?いや、来ないで……」
サンは再び足を滑らせて尻もちをついてしまった。だが、ボスゴリは動かない。いや、動けない?
にしても、ボスゴリは今までにない程もがき苦しんでいる。アイスニードルも剣もダメージは通らず、顔面への打撃でやっとダメージが通る程度。なのに、明らかに火でダメージが通っている。
今がチャンスだ。これならこの剣でも刃が通るかもしれない。それと同時にボスゴリにまとわりついていた炎も鎮火し、サンの方に狙いを定めて動き出した。隣にいたクラウドがサンの目の前に立つ。
俺は剣を鞘から抜いた。そのまま地面を蹴って、一瞬でボスゴリに距離を詰めた。硬い肉は切れなくても、焼けた肉なら、刃が通るはずだ。焼けて呻くボスゴリが、サンたちに手を伸ばすより早く――俺はボスゴリに追いついて、剣を薙ぎ払った。
この感覚は――見事にすぱっと刃が通って、ボスゴリの首は宙に飛んでいた。宙を舞うボスゴリの目は、俺を最後まで見て離さなかった。俺を恨むように。
だが、俺の勝ちだ。




