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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第2章 学園1年編

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第73話 チー牛は役立たずだもんな?




 今、自分たちを殺そうと、格上の魔獣が目の前にいるというのに、俺は驚くほどに冷静だった。ただ、冷静になったからと言ってどうすればいいかは分からないんだけどな。


 この状況、どう切り抜ければいい?俺が助けに入る?そんなことできるのか?俺はそんなに強いわけじゃない。でも、ユリアの言葉を思い出す。


『チー君はもうすでにAランクくらいあるよ』


 ユリアが嘘をついたことはほとんどない。いやあるにはあるけど。なら、その言葉信じてみるか?


 上手く行くだろうか?この世界に来たばかりの俺なら、絶対に逃げていたな。こんな考えするようになってしまったのも、やっぱ全部ユリアのせいだ。


 考えていると、クラウドが森の奥からよろめきながら駆けて来た。殴られた肩はぶらんとぶら下げていて、血もタラタラと流れている。


 ボスゴリは腕を振り上げた刹那、クラウドはケガをしていない左手で立ちすくんでいるサンを抱えてそれを躱した。


 ボスゴリは空振りをしたが、その風圧だけで俺の身体は多少ふらついた。風圧とともに顔を叩きつけてくる砂が少しだけ痛い。まともに食らったら即死だな。


 恐らくさっきクラウドは、殴られる瞬間に咄嗟に引いて威力を殺していたんだろうな。それでもあそこまで飛ばされて、片腕は使い物にならなくなったんだ。恐ろしい。


 クラウドは抱えていたサンを降ろす。


「サン、もう歩けるか」


「う、うん、ありがと。でもクラウド、右腕が……」


「問題ない、片腕あれば戦える」


「いや待ってよ、戦うつもりなの?バカじゃないの?」


「大丈夫、お前たちの逃げる時間を稼ぐだけ。絶対戻ってくる」


「やめてよ!一緒に逃げようよ?」


「いや、そのほうが良い。俺は動体視力なら鍛えている、かわしきれる」


「バカ!いいから逃げるんだよ!」


 クラウドはサンの大声を無視して、俺の方を向いて睨む。


「お前、突っ立ってないで早くスタッフとムンを運べ。俺は時間稼ぎをする」


「いや、でも……」


 もうクラウドの圧に圧倒されて言葉が出ない俺。こういう不良っぽい奴はやっぱり苦手だ。殴りたくなって拳を握る。うぜえもん。しかし、クラウドはそんな俺を見て、再び俺をキッと睨み、声を荒げた。


「……いいか?てめえみたいなおどおどした足手まといがいるせいで、パーティは壊滅するんだ!お前がすぐ動かなかったから俺も負傷した!分かってんのか!?無能!お前のせいで周りに迷惑をかけるんだ!」


「クラウド!言いすぎ!もういい!」


 俺に詰め寄ろうとするクラウドを、サンが彼の手を握って制止する。


 俺はクラウドの言葉を聞いて思った。ああ、俺はこの世界でもいらない存在なんだって。生きてるだけで、迷惑をかけるんだって。


 チー牛は生まれ変わってもチー牛、誰の役にも立たない。実際どうだ。俺は一度も動いていない。


 だけど、分かっていても憎悪が湧いてくる。俺はチー牛に生まれたくて生まれたわけじゃない。なのに周りは全員、俺を汚い目で、きもい目で、いらないという目で見てくる。排除してくる。


 前世を色々思い出してイライラしてきた。こういう時はいつも、家の壊していいもの壊したり殴ったりしていた。この法治国家で人を殺したら豚箱行きだもんな。恵まれたやつは全員殺したかった。


 あれ、でも、この世界なら……人を殺すのは前世と同じ御法度だが、魔獣なら?


「あぶない!」


 クラウドが俺の後ろを見て叫ぶ。恐らくボスゴリが俺の背後から殴りにかかってきたんだろう。左側に軽く風圧を感じた。少し体を右にずらしてから、ノールックでボスゴリの顔面に肘を入れ込んだ。大当たり。ボスゴリは顔面を押さえてもだえる。


 一応ダメージは入るっぽいな。クラウドとサンはその光景を見て口を開けて目を丸くしていた。そのまま俺はクラウドに言ってやった。


「ああ、そうですね。俺は役立たずで無能、俺がいるだけでみんな死ぬ、不幸せになる、気持ち悪い存在なんですよね。分かってますから。なので、スタッフとムンも連れて消えてください。俺がここでこの巨体押さえますから。嬉しいですよね?足手まといが消えて」


 しかしクラウドは急におろおろし始め、口を開く。


「いや、そんなつもりで言ったんじゃ……お前を見てると、過去の――」


「いいから消えろ」


 俺はクラウドがしゃべっている最中、無理やり風魔法を起こしてスタッフやムンともども全員森の奥へ飛ばした。クラウドは飛ばされながらも叫ぶ。


「やめろおおおお!死ぬぞおお!」


 うるせえな、チー牛には死んでほしいんだろ?ならいいじゃねえか。いつの間にか、あいつらは見えないところまで飛ばされた。


 ていうわけで、俺は後ろを向いてボスゴリを見る。肘打ちを食らっていたボスゴリは顔面から血を流して俺を完全に敵として睨んでいた。


 そうだな。こいつを殺して、今までの怒りや憎悪、理不尽――すべてをこいつで発散すればいいじゃねえか。クラウドに言われたことも、ユリアと喧嘩したことも含めて。


 お前のその顔も俺をいじめて来た奴の顔に似ててイライラするし。俺は背中の鞘から剣を引き抜いた。殺す。ブルーや学園長なんかに比べたら全然恐怖は感じないし、むしろ本気出して殺してもいいんだ。


 やってやる。命がけの戦いが始まった。




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