第63話 友人に現実突きつける
「俺の知り合いに、チー牛って言われてバカにされた奴がいたんすよ」
「チー牛ってなんだよ」
ああ、そりゃそうか。でも、陰キャは伝わるのに、チー牛は伝わらないみたいに、この境界線がよくわからないんだよな。転生時に備わったご都合通訳スキルにも限界はあるんだろう。
「チーズ牛丼っていう料理を食ってそうな清潔感もなくて、陰キャで、ネクラで、覇気もなくて、ブサイクで、コミュ障な奴のことです」
「おいおい言いすぎだろ。そもそもチーズギュウドン?ってなんだよ、美味いのか?」
レッドが首をかしげるが、そりゃ、この世界にチーズ牛丼なんてものは無いから、気になるだろうけど、説明がめんどい。俺はそのまま続ける。
「その話は置いといてください。チー牛ってのは、悪口っすよ」
「食べ物なのに、悪口?」
まあ今考えればチーズ牛丼食ってそうな奴=チー牛っておかしいよな、チーズ牛丼の風評被害ひでえな。
「いやもういいです。その、とりあえず恵まれたやつらが自分より下の奴を見下すための、恵まれていると自覚するための言葉です。
キモいとか、生理的に無理って理由で、見下すための悪口として使われてました。
最初はそんな使われ方じゃなかったんすけどね。知り合いはずっとその悪口を言われ続けてきたらしいんすよ。
知り合いは言ってました。
『この世の中、努力なんか関係ない。環境と運と才能に恵まれたやつが勝っていくんだって。顔も、体格も、親も、経済的にも恵まれず、何をしても挫折した。
友達なんかできるわけもなく、顔がきもいからっていじめにあったくらいだ。
俺は自分なりに変えたいと努力してきたのに、俺の親や他の奴らは、報われない結果だけを見て、”努力してないだけ”とか、”自己責任だ”と言ってきた。
でもそいつらは運と環境に恵まれていたことに気づいていないだけだ。環境や運、才能に恵まれていることが前提として、努力して結果が報われるんだ。
ブサイクやチー牛はこうやって現実を知って、何かに挑戦する気力を失っていくんだ。この世は理不尽で残酷で、生まれた時から、詰んでたんだ』と。
知り合いからそれを聞いて、正直俺もそう思ったんすよね」
レッドはそれを聞いて、顔をしかめながら、不思議そうに聞いてくる。
「妙にリアルだけど、その歳でそんな経験してる知り合いって、本当にいるのか?」
「あ、えっと、もちろん俺より人生経験積んだ年上っすよ?」
「あ、ああ、そうだよな?たしかに、そいつの言うことはそうかもしれねえ。
俺も、生まれは平凡で、裕福とは言えなくて、才能も自分ではないと気付いてた。やっぱ、今までの努力は、無謀だったんだな」
レッドは悔しそうにつぶやく。無謀……とまでは言わないけど、うーん……何て言えば……語彙力が死んでる……。
努力の過程に何か得られたはずだよ、とでも言ってみるか?……いまさらそんなこと言っても説得力ないか。
ちなみに、”失敗しても努力の過程に何かを得られる”、という言葉があるが、それは違う。そうでも思わなきゃ、立ち直れないからだ。要は美化、自己暗示みたいなものだ。現実は何も得られないことの方が多い。
俺は何とか言葉を絞り出して、レッドに伝える。
「えっと、無謀かはわかりません。でも、俺からアドバイスをさせてください。普通の人が初めから剣聖を目指すのはメンタル的に持たないです。
夢と目標は違います。レッドのは夢にしか聞こえません。夢ってのは実現したいけどほぼ不可能なことです。俺の価値観を押し付けるわけじゃないですけど、本当に賢い人は、現実を見て、自分に見合った目標を立てることです。その過程で、夢を叶えられそうか分かるものです」
「まあ、そうだよな」
これは本当にそう思う。現代で比較対象が増えすぎて、成功者だけが目立って、自己肯定感を失くすパターン。自分のことは自分しか分からないんだから、自分がどこまでできるかくらいの把握はできるだろうさ。
「えっと、ちょっと言いすぎましたけど、もう少し現実、見てみませんか?」
「……そうだな。剣聖は諦める」
まあそう来るだろうな。だが、なんだか俺が諦めさせたみたいで、なんだか罪悪感を感じる。俺はあくまで意見を述べただけなんだ。
「別に諦めろとは言ってませんよ」
「どういうことだ?」
レッドは俺をじっと睨む。さんざん俺に現実突きつけておいて何言ってんだって顔してるな。いや、マジで済まんかったって。
「レッドは運がいいっすね、剣聖に一歩でも近づける方法を教えましょうか」
「そんなものがあるなら、誰だって剣聖になれるさ」
俺のネガティブさが移ったなこれ。まあその通りなんだけど。でも少し変に解釈をしているな。
「いや、だから運がいいっすねって言ったんすよ。俺の父さんは剣聖です。俺の父さんに稽古をつけてもらうってのは、どうっすか?
剣聖になりたいなら、剣聖に直接教えてもらうのがいいです。間違った努力は少なくともしません。良い環境を整えるんです。ちょっとくらいは剣聖に近づけ――」
「待て待て、は、は?お前の親父って剣聖だったのか?いや、確かに、オンターマ家に剣聖がいたような……だからお前は剣が上手いのか。
てか、なんでそんな重要なこと言ってくれなかったんだ!?」
「聞かれてないから」
「おいおい、言ってくれよ……。てか、今までの話聞いたら、それだけじゃ剣聖にはなれないと思うが」
「当たり前です。俺は”剣聖になれる方法”なんて言ってないっすよ?
”剣聖に近づける方法”と言ったんです。その、この世の中に絶対などありません。まあ、確かに、レッドには、ブルーみたいな才能がないのかもしれないっすけど」
「おい」
「でも、運よく、俺と出会いました。レッドが剣聖の稽古という最高の環境で修行ができれば、あとはレッドの言う努力次第で剣聖の可能性は出てきますよ。
それでも無理なら、そのときは“ああ、俺には才能なかったか〜”って諦めて、趣味程度にしとくのが精神的にいいです」
「なんか慰められてんのか貶されてんのかわからんぞ」
別にどちらでもない。ちなみに、レッドは確かに才能はある、でも剣聖になれる才能があるのかどうかは俺にもまだわからん。その才能が開花する環境が無かっただけかもしれん。
レッドが父さんとの稽古を始めて、知らないことや改善点がどんどん出てくるかもしれないからな。そこを見つけて改善していって、それでも全然伸びずに限界を感じるなら、剣聖を諦めるのが無難だな。
無駄な努力に時間を使うなんてコスパ悪い事、俺だったら絶対したくない。




