第64話 友人に現実突きつける 2
レッドは俯きながらつぶやく。
「剣聖の可能性……か。でも、才能の差ははっきり感じたんだよ、ブルーとの戦いでな」
才能の差。そりゃそうだ。あいつは強すぎる、チートだから……あ、忘れてた、この話の根本的な問題を話していなかった。
「この話の結論っすけど、ブルーと比べるの、マジでやめといた方がいいです。本当に。ガチで心折れますよ?」
「は?だって、あいつは剣聖の息子で――」
「あいつはチートです。才能も環境も容姿も運も全部持ってて、バカみたいな努力で自分を追い込んで完成した、バケモンです。
誰も勝てるわけがないです。そんなバケモンと比べたりしたらメンタルが持たないです。マジでやめた方がいいです。5歳児がプロの冒険者に挑むようなもんです」
「ブルーの事めっちゃ言うな……」
「事実ですから」
ブルーはバケモンだ。マジで。関わりたくもない。また引き分けるどころか、もう負ける気しかしない。
まあ俺はあいつの人生を見てきたわけじゃないから、あいつを理解してるつもりもない。でも、あのバカみたいな強さを手に入れている時点で、それはもう才能以外の何者でもない。
スポーツでもなんでも、プロ選手になった時点でそれはもう才能なんだよ。じゃなきゃ誰でもなれるわけだし、現実には“なれなかった奴”のほうが圧倒的に多いだろ?
レッドはずっとうつむいていたが、ゆっくりと顔を上げた。
「とりあえず、お前の言うこと信じてみるわ。ブルーと比べるのもやめるし、お前の父さんの稽古、受けてみる。なんだかんだ言って、俺も諦めきれねえんだわ。それでも無理なら、そん時考えるわ」
……それで正解、とは俺が言えることじゃないが、その方が、ずっと気が楽になる。
前世じゃ、SNSのせいで、どこにいても“比べさせられる”環境があった。いやでも他人の成功が目に入って、自分と比べて、勝手に落ち込むしかなかった。
でもこの世界には、あんな地獄みたいなシステムは存在しない。
「……なんか、お前の言うことって妙にリアルで、説得力があるんだよ。励まさないでわざわざ現実突きつけてくる辺り、嘘はついてないだろうし」
そこは突っ込まないでくれ。レッドはそのまま地面に胡坐をかいて、何すんのかと思ったら、真面目な顔で聞いてくる。
「で、いくら用意すればいい?」
……は?何の交渉だこれ。
「え、何の話ですか?」
「剣聖の稽古なんて、大金が必要になるじゃないか。あのブルーの道場だって、かなりの額が必要だぞ?そんなに裕福じゃないし、できれば値段交渉もさせてほしいんだが」
あ、稽古の料金のこと言ってたのね。ああ、確かに、俺は剣聖の息子だから稽古つけてもらえてたけど、どうなんだろ。
まあいざとなったらユリアから借りる……。ヒモかよ。まあ何とかなるっしょ。
「大丈夫だと思いますよ。父さん、優しいですから。俺から頼んだら多分、稽古つけてくれます」
「ま、まじかよ。でも、なんでそこまで……」
「だって、まあ、めんど……友達……だから?」
するとレッドは急に立ち上がって俺にゆっくりと近づく。俺はビビって、ひっと情けない声を漏らす。
「意外だな、お前からそんな言葉が出るなんて……ボロクソ言ってきたくせに、なんだかんだお前っていい奴なんじゃん」
そう言っていきなり俺の肩を組んできた。マジで一瞬殴られるかと思ったわ。ただ、あれだけ落ち込んでいたからか、いつもよりは肩組む力は弱かった。まあ、多少は立ち直ったってことだろう。
「でも、その友達に貶すような言葉、よくあんなに言えたなお前」
レッドは急に冷めた目で、冷めた声で言ってきてマジでビビった。肩組みながら言うセリフじゃねえだろ。
「いや、励ますより、現実突きつけたほうが、その、為になると、思って……」
「でもお前ちょっとイラつきながら言ってただろ」
バレた?
「まあ、現実見えてなくてちょっとイラっとはしましたけど。とにかく、比べる相手も悪いし、ブルーに負けてあんなに落ち込むことは無いってだけです。
あ、勘違いしないで欲しいんすけど、俺の価値観を押し付けるつもりは無いっすから。俺は絶対こうしろとは言ってないし、レッドが何しようと俺には関係ないっすからね」
「おい」
「あと、張りつめすぎなんで、もっと気楽にいけばいんじゃないすか?夢みすぎで頑張りすぎるから、その分絶望も大きくなります。
結果が出なかったら、自分が無能だって自覚するのは当然です。その、もう少し現実と現状をみて行動したほうが、多分気楽です。あ、何度も言いますが一個人としての意見ですから。俺はそうしてます」
「ああ……そうだな。色々考えさせられたよ」
ふう。これで一件落着だろうか。言いたいことは全部言えた、と思う。
「あと、その、みんな心配してたんで、帰りますよ。ユリアもネクラも、皆探してます」
「そっか、それは悪いことしたな。その、チー、ありがとな」
急なお礼に俺は動揺して、どう返せばいいのか分からず、首をポリポリかいてしまう。
「え?いや、俺散々ひどいこと言ったし……」
「俺お前の事勘違いしてた。最初はこいつも励ましてくるどころか、なんも言わねえと思ってたのに、ちゃんとお前の意見はっきり言ってくれたじゃん。最初はイラっと来てビビったけど、お前の言うことも納得できるし。俺よりも何倍も大人なんだなって思った。俺も冷静になって考え改められたし、諦める必要はないって分かった。しかも、稽古まで協力してくれるなんてさ。良い友達持ったって思うぜ。だからありがとなって」
レッドは俺に手を差し伸べてくる。正直、嫌われたと思ったんだけど、好意的に受け取ってくれたのか?いや、あんだけ言われてキレないわけねえ。俺は手を差し伸べようとしたが……怖くてひっこめた。
「内心キレてます?」
「キレてねえって……」
まあでも、あの気まずい空気は無くなったんだから、結果オーライだろ。レッドはレッドに見合った実力で出来ることはあるだろうしな。
にしても、夢があるっていいよな。俺には何もしたいこともなりたいものもない。ただ平和に普通に過ごしたいってだけ。前世が前世だけに、それだけを願ってる。人は簡単にトップにはなれない。運と才能がものをいう。だから俺は人並みでいいと思うようになった。前世はその人並みの人生すら歩めなかった。
でも、今世は、人並みの人生を送れるかもしれない。普通の幸せを、経験できるかもしれない。イケメンのおかげだなと、改めて感じるわ。
「行くぞ、チー」
レッドが駆け足で学園の方へ戻っていく。俺も、レッドの背中を追いかけて、戻っていった。




