第55話 夏休みは一瞬で終わった
数日後。
完全復活!とはならないが、ユリアはご飯も食べるようになったし、少しずつ元気を取り戻していった。今日もユリアの部屋でそばにいてやる。俺は適当に妄想して時間潰す。それくらいしかできん。
と、ついにユリアに大きい動きがあった。ユリアはぽつりとつぶやく。
「今日、この城を出ようと思う」
「……え?あ、はい」
急にそんなことを言われた。やっとこの暇すぎる時間から解放されて、ユリアも立ち直ろうとしてくれたようで、肩の荷が下りた気がした。
「いつまでもこんなんじゃ、チー君にも迷惑だし、せっかくの夏休みなのにね……」
「……別に」
まあ確かにせっかくの夏休みを潰された感はあるが、両親死んで弱ってる子に本音言ったらさすがにな。
ユリアは、弱弱しくも、俺にいつものユリアスマイルを向けてくれた。
「本当にありがとね、チー君。ずっとそばにいてくれて」
「え、まあ……メイドに言われただけなんで」
「あはは、それでもいいよ。チー君って、ほんと優しいよね。いつもめんどくさそうで、何に対しても興味ないのに、いつも私のことは助けてくれる。今回もただただそばにいてくれて、安心させてくれたよね。
私、頑張って生きるよ。そして、お父様とお母様の仇を取るの。全部終わらせて、お父様が願ってくれたように、幸せに生きる」
「あ、はい」
優しい、か。違うな。俺はあくまで利用してるだけ。メイドの言われた通りに動いてるだけ。基本は自分本位で生きてるだけ。人間なんてそんなもんだろ。
あとはまたいつもの生活が始まるんだろうなって思った矢先……。
「だから、今日から、1人で生きていく」
「え?」
こいつはまだ病んでいた?
「もしかしたら、チー君も、私のせいで、私の悪運のせいでチー君が同じ目に遭ってしまうかもしれないから。これ以上迷惑はかけられない。だから自分で――」
「いや待ってください」
ユリアが一人で?そんな事したら、確実にユリアは殺される。剣士ならまだしも、対人戦だと弱い魔法師のユリアの戦闘力じゃ生きていけない。
それに、ユリアが消えたら、俺がつらい。この先、また孤独に?いや、でも今はレッドやネクラ、ブサもいる。でも、なんか、そうじゃない。言葉にはできないけど。
「……俺も行きます」
「え?いや、でもチー君は」
「行かせてください、一緒にいたいだ……け」
「ほえ?」
あ。言ってしまった。ユリアは目を丸くしてその場に固まる。
俺は顔が、耳まで赤くなって、やけどしそうなほど熱くなって、頭が真っ白になる。俺の新しい人生、短かったなあ……いや待て、マジで落ち着け、言い訳はいくらでもある。
とにかく誤解を解く。ユリアならきっとわかってくれる。俺は焦りを悟られないように、ゆっくりと、落ち着いて言葉にしていった。
「だって、ユリアが1人だったら、確実に神声教団に殺されます、正直弱すぎて」
「弱すぎて!?」
「それに死んだら、ユリアの両親の願いも消え失せる」
「……」
「それと守れなかったらメイドに殺されます」
「いやメイドはそんなことしないと思うけど……」
「と、とにかく、その、今更俺一人で生きてくのも、めんどくさいし、神声教団もあれだし、俺が滅ぼしてやるのも、いいかもなあ、なんて」
結局焦って早口で言い訳を始める俺を見て、ユリアはプっと可愛く笑う。
「……あはは、確かに、チー君もチー君で一人じゃだめそうだもんね。そうなんだ、私無しじゃ生きていけないんだ~?」
ニヤッとしながらユリアがわざとらしく聞いてくる。こいつ、調子に乗りやがって。
だが本当のことだ。隠すことは無い。ガチのコミュ障陰キャチー牛が一人で生きてくなんて、無理ではないが絶対キツイ。ユリアを有効活用するのが一番だ。この世界のことについての常識にもまだ疎い。ユリアは王族だしその辺も詳しいはず。
ていうか俺、未だに受付ではどもって何も話せないんだぞ?すると、ユリアは俺の手を掴んで握って来た。ぐ、未だにこの女子の手のべたつくような柔らかい感触は慣れない……。怖くて今すぐ手を離したいけど、今回は、しゃあねえよな。
「これからもよろしくね、チー君」
「え、あ、はい……」
ユリアはダメダメな俺の世話を焼き、俺は騎士として神声教団からユリアを守る。ウィンウィンな関係でいいじゃないか。
まあ、俺だってこの世界のことはまだ知らないことがたくさんあるだろうし、非常識なことを言っちゃうかもしれないし、この世界の人が身近にいるだけで生活がだいぶ楽になる。いやマジで。
それに、ユリアといれば、この根暗陰キャな性格も治るかもしれない。
ユリアは城を出る準備を終える。俺は特に何の準備も要らんし、適当に外の景色を眺めてる。
しばらくして、メイドも部屋に戻ってくる。メイドはユリアを見て、安心したかのように、少し微笑む。
「……ユリア様、もう大丈夫そうですね」
「うん、ごめんね。長い期間引き留めちゃって」
「いえ。問題ありません。その姿を見ると、もうここは出ていくと決めたのですね」
「うん。あとね、私は神声教団の仇を撃つ。今はチー君もいるし、きっと大丈夫。お父様達の死は無駄にしないように、自分らしく生きる。まだ正直辛いし心の整理は付いてないけど、大丈夫だから」
「はい」
大体1,2週間くらいだろうか。長かったが、ようやくユリアはちょっとだけ前を向いた。
夏休みの半分くらいは削れてしまったけどな。大変な夏休みだったけど、脳内でゲームとかアニメのこととか考えてたし、別にいいわ。
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その後、メイドはオンターマ領に戻り、俺達と別れる。
夏休みも残り半分で、村に帰省する時間がそんなに残っていないし、とりあえず寮でのんびりとすることになった。
ユリアはいつも通り俺と接してくれる。多少まだ引きずっていることもあるとはいえ、あんなこともあったのに、強いものだ。やはりメンタルは俺よりも何倍も強い。
ただ、最近、たまに視線を感じて、ユリアの方を向くと、ユリアがハッとして目を逸らして他のことをし始める。俺をよく見てくるようになった?普通に恥ずかしいからやめてほしいし、むしろ俺が美少女ユリアをガン見したいけど、どうせ気持ち悪がられるからしない。感謝しろ、理性で押さえてるんだ。
そして、残りの夏休みは特に何事もなく過ぎていき、いつの間にか終わっていた。なんで嫌なことは長いのに、楽しい時間は一瞬なの?何の嫌がらせなんすかこれ。
ちなみに、前世のような宿題は無い。最高。でも学園をサボれる夏休みは、一生終わんないでほしかった。




