第54話 慰めるってどうやるんだろう
チー視点
あれから、ユリアは2日ほど寝ていて、ずっと起きなかった。いや、目は覚ましてるんだろうけど、体を起こすことはなかった。
食べ物を置いたりはしているが、手を付けることもない。大丈夫なんかこいつ。
俺はというと、ユリアのベッドの隣に椅子を置いて座り、窓から景色を見ながら、脳内で音ゲーの音楽再生や、あのアニメどうなってるんだっていう考察や、エロ妄想なんかしてたわ。
いや、心配は心配なんだよ?こいつ動かねえから。でも、やっぱりずっと心配するなんて人間体持たんし。仕方ねえだろ、暇すぎるんだから。
さすがに、三日三晩で立ち直るとも思っていない。だが、早く立ち直ってほしい気持ちはある。でもやっぱりユリアの気持ちも分かるので何とも言えん。
そんなある日の夜だった。壁にうす暗い光の魔道具を付けながら、俺は適当に魔法教本を読みながら座っていた。俺は何やら視線を感じ取って、ユリアを見てみる。いつの間にかユリアは目を覚まして、ベッドに座ったままこちらを向いていた。
俺はすぐに目を逸らす……ちょっとはだけてるせいでエロイ。
なんか言われるのか?と思っていると、声をかけてくる。
「ねえ、チー君」
「え、あ、はい」
「ごめんね、私のせいで、何日もずっと、気を遣ってくれて。ずっとそばにいてくれてありがと。私のために……」
「……え、いや、別に」
まあ、気は遣ってるのは確かだ。本当は体を訛らせないために筋トレとかもしたいし。
ユリアはか細い声で続ける。
「私のせいで、身勝手な行動で、お父様とお母様は死んじゃった。お兄様にも嫌われちゃった」
「……」
「これから、私、どうやって生きていけばいいのかな。こんな私が、楽しく生きていいわけないよね……」
「……」
聞かないでほしい。俺にはそんな事分からない。何も言えない。それは自分次第としか言えないだろ。慰めてほしいのか?否定してほしいのか?
このまま無視するのもあれなので、とりあえず軽く聞いてみる。
「その、ユリアは俺にどうしてほしいんですか?」
「だったら、ねえ、チー君……騎士様にお願いがあるの」
「え、あ、はい」
騎士様?いったい何のお願いなのか。一緒に死んでくれなんて言わないよな。
「私のそばに来て……」
「いや、もうそばにいますけど」
「その椅子じゃなくて、隣に座ってほしい」
「え、嫌です……」
「私の騎士様でしょ?」
……まあこんなユリア見てられないし、仕方ない。俺はユリアのベッドに、ためらいながら、ゆっくり腰を掛けた。絶妙な距離感を保ちながら。
すると、ユリアは俺の肩に寄りかかって来た。その瞬間にビクッとして、マジで心臓が跳ね上がったかと思った。俺の心臓の音は爆走の如く鳴りやまない。
それに、反射的にのけぞろうとしたけど、結局やめた。こんな空気で拒否ったら、余計に傷つけそうだし……。
う、でも、もし、今ユリアが気が動転してるだけで、後から俺に襲われたとか文句言われるのが本当に怖い。肩越しにユリアのほんの少し暖かい体温が伝わる。どういう状況だよ、これ……。
ユリアは隣でボソッと呟く。
「しばらく、こうさせてほしい。だめ?」
「……はい」
「優しいね。断られるかと思った……」
「……」
くそ、断れない……。とにかく、俺から絶対に手を出さなければ……これで立ち直ってもらえるなら……。
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ユリアが俺に寄りかかったまま、しばらく経つが、きまずい。まじで。何も会話が無い。マジでどうすればいいのか分からない。
これじゃ、いつユリアが立ち直れるかも分からん。ずっとこの体勢なのも理性がいつ暴走するか分からん。
考えろ。今、ユリアは両親の死と、それが自分のせいだということに苦しんでいる。ユリアは一人で抱え込んでいる。
でも、誰かの死は、なんだかんだ時間が解決してくれる。死は必ず誰にでもあるから。だが、罪悪感は一生付きまとっていくものだ。まずは、それを取り除かないといけない。だが、なんと言えば……。
「チー君」
「え、あ、はい」
「私、この状態で生きるの辛くなっちゃった。ねえ、いっそのこと私を殺し――」
「やめろ」
「え?」
咄嗟にそんな言葉が出る。前までの俺なら、勝手に死んどけと思っていたが、ユリアには、死んでほしくはない。なんだかんだ、情が湧いてしまったのだろうか。まあずっと一緒にいればなあ。
でもそんなことは言えず。
「俺を殺人者にするつもりですか」
素直になれずこんなことを言ってしまった。
「ご、ごめんねチー君、そしたら、じさ――」
「やめろって。それはそれで自殺教唆の罪に問われかねない」
「うん……、え……?そ、そうだね?」
ユリアがちょっとぽかんとして、くすっと笑う。空気がほんの少しだけ、和らいだ気がする。
でも、どちらにしてもやっぱりユリアに死んでほしくない。なんだかんだ、今の俺が発狂せず苦しい思いをせずに生きているのも、ユリアのおかげだ。
ユリアは俺の肩から離れて、少し感情の籠った、でもか細い声で言葉をつづり始めた。
「じゃあ、私はどうすればいいの?お兄様も言ってた、私の行動で、お父様もお母様も死んじゃった。私は二人の人生を奪った……こんな気持ちで生きてくの辛すぎるよ……死なせてよ……」
……さて、なんて言おうか。ここでユリアのせいと言えば確実に生きる気力を失う。
ただ、俺も考えてみるが、ユリアのせいとは言えないと思う。遊び盛りの5歳くらいのガキに遊びに行くなって言って言いつけ守るなんて珍しいだろ。
そもそもの原因は神声教団だ。そいつらがいなければこんな悲劇など起きんからな。
それをそのまま言えばいいのか?余計なことを言わないようにしないといけないが……このままじゃこの重苦しい雰囲気は終わらない。言うしかない。最悪メイドに全責任を押し付ければいい。ガチで。
「正直に言うが、ユリアのせいじゃない」
「な……!?なんで、そう思うのさ!私がそう言う行動したから……」
「子供がずっと言いつけを素直に守るなんて無理な話です。その、ずっと外に出るなって言われてたんですよね。えっと、無理ですよそんなん。
俺だってすべて親の言うこと聞くなんて無理です。勝手な行動して剣もぶっ壊したし。
ユリアの場合は神声教団のせいで、単純にその言いつけを破った際のリスクが大きかったし、その、なんて言えばいいか……ただ、運が悪すぎただけです。
そもそも、神声教団に狙われてる時点で悪運ですからね」
俺はどもりながらも、ユリアを説得させるために何とか言葉を絞り続ける。
「それに、どう生きればいい、死にたいというが、その、ユリアのお父さんは何のためにユリアを逃がしたと思ってます?」
「え?それは……」
はあ、自分でも分かってるくせに。ユリアは口を紡ぐ。
「生きてほしいからに決まってんじゃないですか」
「……え?」
「ほんと優しい親で羨ましい限りですよ。メイドからも聞いたんすけど、その……ユリアには王族とかじゃなく、普通の幸せな生活を送ってほしい、みたいなことを言ってたそうです」
「……」
「だから俺は生きるべきだと思うんですけど……」
やばい、さっきからセリフがクサすぎて吐き気が……。でもユリアは真面目に俺の話を聞いていた。
「ほ、本当に、チー君は、生きるべき……だと、思うの?」
「え?あ、はい」
すると、ユリアはぽろぽろ泣きながら、俺の顔を見つめた後、ハッとして目を逸らして、速攻ベッドに潜り込んだ。
少しだけ、いつものユリアに戻ったか?立ち直ったのかは、まだ俺にも分からないけどさ。
後は気持ちを整理させて復活してほしいところだ。




