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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第2章 学園1年編

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第50話 急な暗い展開やめてくれ




 メイドが扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。


 その瞬間、メイドは腰から短剣を取り出し、目の前に構える。いつの間に、黒服の年老いた白髪の男がメイドに細い剣を振っていた。メイドは攻撃を軽い身のこなしでいなす。


 キンッと鉄と鉄のぶつかり合う音が耳をつんざく。相手の男はすぐ距離を取って様子を窺い始めた。なんだこの殺意MAXな歓迎。


「……誰かと思えばメイドでしたか」


「お久しぶりです。シツジ様」


 2人は知り合いだったようで、すぐにお互い武器をしまう。メイド、すげえなあ、今の不意打ちにすぐに対応するとは。


 俺はこっそりと部屋の奥を見渡すと、奥の机に座っている見知らぬ金髪の男が訝し気な顔でこちらを覗いていた。これが、ユリアの父、ということか?顔も整っていて、ずいぶんと若く見えるが……。


「あれ……お兄様?」


「……誰だ、貴様。……ユ、ユイ?ユイなのか?」


「はい、ユイです!お兄様!」


 ユリアは兄?に飛びついて行った。兄はユリアを受け止め、優しく頭をなでる。しかし、”ユイ”というのはいったい。すると、俺の疑問を察知したかのようにメイドが答える。


「チー様。これは他言無用でお願いしますが、ユリア様の本名はユイ・ローレンティアです。ただし、神声教団の件が治まるまでは決してその名前を呼ばないようお願いします」


「え、あ、はい」


 そうか。ユリアは身を隠すために偽名を使っていたんだな。ユイ、か。こっちの方が呼びやすくていいな。


「改めて、ユリア様、メイド様、ご無事で何よりです」


 先ほどの執事が頭を下げる。そしてユリアを撫でている兄に向き直る。


「それとルイ様。ユリア様をその名前で呼ばないように。どこに神声教団が潜んでいるか分かりません」


「あ、ああ、すまなかった。はあ……とにかく、お前が無事で良かった」


今の会話から察するに、兄の名前はルイというらしい。この世界の人間の名前はみんなシンプルでいいな。ユリアは顔を上げ、ルイを見る。


「お兄様も無事で良かったです」


 こうして見ると、普通の兄妹の再会って感じで、ちょっとじんわりくる。……いいな、こういうの。素直に羨ましい。


 一応俺は兄もいたのだが、優秀な兄とよく比べられて、出来損ないの俺とは当然、仲も悪かった。家族にいい思い出なんて、俺には一つもなかった。ユリアは本当に家族に恵まれている。


「ところで、そこにいるのはメイドだろうけど、その男の人は誰だい?神声教団のスパイじゃないだろうな」


 ルイは俺をギロッと睨め付けながらユリアに質問する。俺は反射的に目を逸らす。人と目を合わせられない癖は未だに健在である。ていうか急に敵意向けられて怖えよ。


「違うって!この人はチーって言うの。村で出会った、私の騎士で、初めての友達。あまりしゃべらないけど、悪い人じゃないから。ちょっと面白いんだよ」


 楽しそうに話すユリアの話を聞いて、ルイは俺への警戒を解いた。


「そうか。それは良かったな。――ずいぶんと楽しそうで」


 しかしルイが言葉を発した時、ルイの目からハイライトがなくなり、氷のような冷たい視線をユリアに向けた。ユリアはそれを感じ取って、辺りを見回す。


「お兄様?そう言えば、お父様とお母様は?」


 なんだ、この空気……一気に、場が重たくなった気がする。メイドもうっすらと表情を曇らせる。


「ああ、父上と母上は、もうとっくに亡くなった」


「……え?」


 ……穏やかな再会から一転。ぶつけられたのは、あまりにも重すぎる事実だった。

 ユリアの笑顔は音を立てるように崩れ落ちた。メイドも初めて知ったのか、目を大きく見開き、いつものポーカーフェイスは無く、動揺の色を隠せていなかった。


 ルイの目に浮かんだのは……怒りか。少なくとも良い感情ではない。しかもそれは、妹であるユリアに向けられたものだった。


 メイドは何かを感じ取ったのか、すぐにユリアを抱き上げてルイから遠ざける。それを見たルイは、皮肉っぽく苦笑する。


「はは、ひどいなあ。僕を悪者みたいにしちゃってさ。別に、ユリアを何かしようってわけじゃない。ユリアが心配だったのは本当だ。無事で良かったと思っている。……だが、同時に、心の底から憎んでもいる」


 鋭い眼光を向けられるも、メイドは負けじと言い返す。


「やめてください。今、ユリア様は両親の死で心が傷ついています。それに、本当に亡くなったのですか?」


「ああ本当だ。事の発端はユリアが父上と母上の言いつけを無視して外で遊んだことが原因じゃないか。ユリアがおとなしく部屋で遊んでいれば、神声教団に襲われることは無かったはずだ」


「ユリア様。聞いてはいけません」


 ユリアの目からは、すでに光が消えていた。ぽつりと、まるで魂が抜けたみたいに、つぶやいた。


「私の……せい?」


 ルイはユリアにキレ気味に言い放つ。


「ああそうだ、ユリア……お前のせいだ!お前のせいで父上と母上は死んだ!」


 メイドが支えていたにもかかわらず、ユリアは音を立てるようにその場に崩れ落ちた。いつも明るくて、笑顔のユリアの面影は、もうどこにもなかった。


 いくら何でも言いすぎだ。本当にそうだとしても、ただでさえ両親の死ってのは辛い。それもユリアのように愛されて育った人ほどな。死の原因が自分のせいだと付きつけられたら、一生のトラウマになりかねない。


 人間の心は脆く弱い。それも、ユリアはまだ学生な上、前向きな奴ほど、初めて“絶望”に直面したとき、一気に崩れるもんだ。


 メイドはすぐにもう一度ユリアを抱きかかえて、俺にも目配せしながら言う。


「ユリア様、いったんここを出ましょう。チー様、一緒に付いてきてください」


「え、あ、はい」


 部屋を出る前に、俺はルイを少し睨みつけると、ルイも俺を睨み返してくる。俺はビビって目を逸らして駆け足で部屋を出た。俺あいつ嫌い。いや、でも、人間らしいっちゃ人間らしいけどな。




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