第51話 少女復活のカギは俺?んなわけ
メイドは一旦、ユリアの部屋に入っていく。
ユリアの部屋を見渡すと、部屋は意外にも綺麗で真っ白に保たれている。城の人が掃除してくれているのだろうか。部屋の右側には大きいベッドがあり、左側にはテーブルや棚があり、ぬいぐるみや花などいろいろな私物が置かれている。
ユリアをベッドに横に寝かせると、いつもの無表情で俺に視線を向ける。
「チー様、私が詳しい事情を聞いてきますので、その間、ユリア様をお願いします」
「え、あ、はい」
そう言って俺とユリアを部屋に残し、メイドは再び部屋を出る。ユリアはベッドに横になっている。一応、部屋は掃除されているようで埃はかぶっていない。
部屋の中はまさにお嬢様の部屋と言った感じで綺麗だった。……いや待て、俺、普通に姫の部屋にいるけど大丈夫か?
俺はちらっとユリアを見る。目が合っても、目を逸らしもしないし、何もしゃべらない。ただ涙を流しながら、横たわったまま、ぴくりとも動かない。
自分は暗いくせに、暗い雰囲気、というか重い話は苦手だ。ていうか、今の現状、何をすればいいのかが分からねえ。
俺は誰かを慰めることも無かったし、慰められることも無かった。それも、こんな、親の死なんてこんな絶望イベントなんてどうにもできない、下手な行動をすれば余計に悪化するだけだ。
この空気……重すぎる。何を言っても、何をしても、全てが間違いになりそうだ。
俺だって、いくら俺の親がクソでチー牛に育てた張本人だとしても、結局親で、死んだらそりゃ多少なりともつらい。
ユリアは大切に育てられてきたようだから、なおさらつらい。
俺はただ、じっとしてることしかできなかった。……不謹慎だけど、正直この時間に魔法教本でも読みたいくらい、どうすればいいか分からない。
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メイドが戻ってくる。ユリアはいつの間にか寝ていた。メイドはそれを見て、テーブルの席に移動し、静かに俺に手招きをする。
「チー様、こちらへ。できるだけ、ユリア様に聞かれないよう」
「あ、はい」
俺は静かに、メイドの近くに寄る。メイドはそのまま、小声で話し始める。
「チー様、事情は分かりました。騎士であるチー様にも、これを知る権利があると思いますので、聞いていただきたいのですが」
「え、あ、はい」
「ありがとうございます。では、チー様は神声教団の狙いは知っていますよね」
「分かりません」
何となくは分かっている。ていうか村にいた頃、メイドからある程度は聞いたし。間違ってたら恥ずかしいから、こういう時は“分かりません”が正解だ。前世で学んだ知恵ってやつ。
前世でも授業で当てられたら、分かってても、「分かりません」と言っていた。賢いと言え。
「神声教団の目的は、ユリア様の血と、大量の魔素です」
うん。知ってる。村でメイドから聞いた。しかし、ここからメイドが話すことはすべて初耳だった。
「ユリア様を神声教団から守るために常に城内も警戒態勢で、陛下もユリア様には外に出るなと言いつけをしていたようです。ですが、その日、ユリア様はほんの少し、花を摘みに出かけただけだったそうです。そして、玄武という神声教団の一人と出くわしてしまいました。
その時、ユリア様を庇って戦ったのが陛下です。恐らく、ユリア様もその時のことは鮮明に覚えてるでしょう。陛下は私に、ユリアを連れてオンターマ領の村まで逃げろ、その村の剣聖に助けてもらえと剣聖に助けを求めろと命じられ、私はユリア様を連れて村まで逃げてきたのです」
なるほど、そんなことが。重すぎる……。
多分、ユリアは、薄々自分が原因で両親がああいうことになったのは、心のどこかでは分かっていた。それでもきっと両親が生きてると信じ続けてたのに、結局死んだと伝えられた。
しかも、ルイの言葉による追い打ちもあった。俺なら耐えられないかもな。
にしても、改めて異世界というのは前世よりも死が身近なものなのだと実感する。まだイケメンイージーライフを生きるためにも強くならないといけないだろう、だるいな。
「そして現在、王の死が知れ渡るのは国民の不安をあおるので、今はルイ様が王として、城内は見えないよう城壁で囲み、橋も降ろさないようにしていると。
王都の民の混乱が今まで無かったのはすべてルイ様の功績です。……とは言え、あの言い方はひどすぎます」
ルイが今の王なのか。一応、有能なんだろうか。まあ、別に俺はあいつに興味はない。
「私も、きっと生きていると信じていたのですが……。恐らく、陛下も、城内の方々も、玄武に殺されたのでしょう。
私としても、ずっとお仕えしてきたのでショックが大きいのですが、もっとつらいのは、実の両親を亡くしたユリア様です」
そりゃそうだ。実の父と母が自分のせいで死んだと思えば、何度も言うが辛すぎて耐えられないだろう。
というわけで、今からメイドがユリアを慰めるってことだな。俺はこういうのはごめんだから、黙って外の景色でも見てるわ。
「騎士であるチー様に、ユリア様を慰めて、立ち直らせていただきたいのです」
「……はい?」
メイドはおふざけ無しで、真面目に俺を見て話している。ていうかメイドがふざけるところなど見たことないが。
俺が慰める?バカじゃねえのか?俺の性格はメイドも重々理解しているはずだ。絶対にやらんぞ。そんな高リスクなことは。
「嫌です、ほんとに」
「今は真面目な話をしているのです」
「俺も真面目に言ってるんです。その、俺は慰められた経験も慰める経験も無いし、えー、口下手な俺が余計なことを言えば逆効果です。えっと、なのでそっとしておくのが賢明です。えっと、それに、その、俺よりもユリアと一緒にいた期間の多いメイドさんが、一緒にいるべきでは」
「……いえ、悔しいですが、今のユリア様を見る限り、私よりも、チー様を信頼しておられます」
うぜえ、適当にそれっぽい理由付けて、何でもかんでも俺に押し付けようとしてんのかよ。少しイライラしてくる。
「適当なこと言ってんじゃねえよ……」
少し素が出てしまったが、メイドは何も動じずに再び話す。
「いえ。本当です。騎士として、友達としても、本当に信頼しておられます」
「ユリアは世話焼きで、立場的にも騎士の俺を頼るしかないってだけ」
「いえ、私は事実を言っているのです。……でも今はそれでいいです。とにかく、今のユリア様はチー様にそばにいてほしいと思っているはずです。チー様の言う通り、なにも声を掛ける必要はありません。そばにいてあげてください。今は誰かのぬくもりが欲しいはずです。それでは、どちらにしてもまだ私にはやることがあるので。お願いします」
「え、ちょ、あ……」
メイドはそのまま部屋を出ていった。なんて自分勝手な……。俺は横になっているユリアを見る。ユリアが俺を?ただのイケメン騎士としてしか見てないだろうに。
俺はため息をつきながら、ユリアのベッドの前の椅子に腰かける。こういう重苦しい雰囲気はどうしても嫌で耐えられない。俺、そもそも落ち着きがないから、こういう空気でじっとしてるの本当つらい。
それに、どうすりゃいいんだよ、ほんとにユリアの横で座ってるだけでいいのかよ。いや、いざとなれば俺はメイドの言われた通りにしたと言えばいいだけだ。
俺はひとまず、黙って座って、窓から外の景色でも見ていることにした。




