第40話 新しい陰キャ友達ができた?
休み時間になり、ネクラは俺のところにおどおどとしながらやってくる。え、なんだ?まだ何かあるのか?
「チーさん、マジですごいっすね。俺のためにそこまでしてくれるなんて、もうどうお礼すればいいか分かんないっすよ」
「え?えっと、何のことです?」
「さっきのって、ヤンキにユリアを暗殺しようとしてた証拠吐かせようとしてたんすよね?本当は俺が依頼書を見せれば一発なのに、本当にすんません」
気づいていたか。まあ失敗に終わったけど。てか、ネクラのしゃべり方こんな感じだったっけ。声は小さいままだが。
「いや、別にネクラのためじゃないです。ヤンキへの個人的な恨みなんで、礼とか要らないので。てか、結局証拠吐かせられなかったし……」
「それでもやっぱすげえっすよ。その、俺、一生チー師匠についていきます」
「え、あ、いや……どういうことっすか」
「チー師匠のこと、マジで――」
「師匠って呼ぶな」
俺はネクラを本気でガンつけたはずなんだが……ネクラは怯えることなく目を輝かせていた。
「チー師匠のことマジで尊敬してるっす。俺の暗殺を止めてくれたアイスニードルは美しくて綺麗でしたし、こんな根暗な俺の事を助けてくれたし、強すぎるし、優しすぎるし、かっけえっす」
「ねえ、話聞いてました?師匠って呼ばないで欲しい」
「はい、ありがとうございます、師匠」
こいつ、話通じねえ……。それにほめ過ぎだ。俺は顔を引きつらせながらも、無表情を貫く。まあ、友人が増えたと思えば悪くないと思った。成り行きだとしてもこいつに恩を売ったわけだから、裏切られる心配は恐らくない。それに俺と同類って感じはするし。
それに、同じクラスに男友達はいないしな。レッドは他クラスだし。丁度いいのかもしれん。ただし、師匠呼びはマジでやめてくれ。
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その後も、普通に授業は行われた。
ネクラはさっきまで俺を師匠師匠とうるさかったのに、いつのまにか明るい窓の隅の席で、暗い陰キャオーラを放ちながら座っていた。
まあ、陰キャだから、授業中も俺のところに行きたくても目立つし行けないんだろう。何となくわかる。ちらちらとたまーにこちらの方を見てくる。気まずいなあ。するとユリアは俺の肩をツンツンして、小声で呟く。
「きっと、チー君と友達になりたかったんだと思うよ?チー君の事、師匠って言ってたけど、素直になれないんじゃないかな」
「そ、そうなんすかね」
確かに俺も根暗陰キャだけど、こういう奴らって孤独に慣れてると思われがち。でも、そんなことないんだよな。
大勢は確かに苦手だが、友達の一人や二人くらいは欲しいと思うものだ。ゲームだって、1人より2人以上でやったほうが盛り上がるし楽しい。
ずっと一人でいたいわけじゃない。多分、ネクラもそうなんだろう。ネクラ自身も、自分から話しかけるのにすごい勇気がいるはず。
それに、仕事とはいえ殺しかけた相手に友達になってくれ、なんて言えないもんな。遠回しに師匠、と言って近づきたいだけ……なのかは知らんけど。
まあ別に俺も暗殺のことに関しては気にしてないからいいんだけどさあ。
すると、一瞬ネクラと目が合ったユリアが「こっちおいで」と彼に手招きする。
ネクラが「俺?」と自分を指さしながら、目を丸くする。ユリアはうなずくと、ネクラは申し訳なさそうにこちらに来た。ネクラは俺の隣にゆっくりと腰を下ろす。
ネクラは恐る恐るユリアに声を掛ける。
「えっと、なんでしょう、ユリアさん……」
めっちゃ怯えとる。まあ、ユリアを殺しかけたわけだし、そんな態度にもなる。逆に、ユリアはいつもの童貞殺しスマイルで対応する。ま、まぶしい……。
「チー君の友達なんだから、遠慮せずにチー君の隣に座ってもいいんだよ?」
「え、あ、友達?いや、俺の師匠なんで」
いや師匠になった覚えはないんですけど?
「じゃあ師匠呼びでいいけどさ、どちらにしても、弟子は師匠の隣にいるもんでしょ?」
「た、確かにそうっすね」
おいてめえユリア、勝手に俺を師匠呼び許可してんじゃねえよ。するとネクラはいきなりド直球にこんなことを聞いてきた。
「でも、師匠たちと一緒にはいたいけど、その、師匠とユリアさんって、その、付き合ってるから邪魔になるんじゃ……」
『付き合ってない』
また、俺はユリアと同時に否定した。それはそれで悲しいけどさ。まあ俺とユリアなんて釣り合わねえしな。ただの友人、ただの姫と騎士の関係でしかないのは事実だ。
ユリアだって否定しているんだ。勝手にカップル認定するな。
「え、そうなんすか?でも、なんで付き合ってもいないのに一緒の部屋に住んでるんすか?」
「一緒ではない。部屋が隣なだけです」
付き合ってもいない男女が同じ部屋に住んでたらヤバいってのは、この世界でも常識らしい。とは言え一緒に住んでるとは大きな勘違いだ。
ついでに、なぜ一緒に住んでいるかの説明をしなければ。ユリアが元王族なのはすでにネクラにはバレている。言っても問題ない。俺は事情をネクラに説明する。
「えっと、一応、ユリアは元王族で、神声教団に狙われてるみたいなので、えー、俺が護衛のために騎士として、隣の部屋になっているだけっす。あ、その、これ絶対他言しないでください」
「な、なるほど。分かりました。護衛なんて、師匠はやっぱすごいっすね」
ネクラは納得してくれた。なんだか、ネクラの尊敬のまなざしがさらに強くなった気が……。
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それからというものは特に何事もない日々が続いた。
変わったのは、ネクラも仲間に加わった、みたいな感じか。
登校時にはレッド、ユリアの三人で。授業はネクラとユリア、寮ではユリアが料理を作りに来る。そのあとは自由。
それになぜか、ネクラは俺に魔法を教えてほしいと頼んできた。魔法剣士でも目指すのだろうか。理由を聞いてみると、
「俺を止めてくれた、師匠の綺麗な魔法に憧れました。剣も魔法も使えて、かっけえって思ったんで。1年で中級魔法使えてるのもすげえし。お願いします師匠」
「……師匠はやめてほしいんだけど」
「はい、師匠」
とのことだ。こいつ話聞いてた?もう指摘するのもめんどくさいから、いいんだけどさ。
それで放課後は実習室を使わせてもらってネクラに魔法を教えてる。適性はほとんど高いようだ。ネクラは吸収が速い。
そうだな……今度、ネクラにも魔法剣を作ってあげようか。まあ、それは中級魔法取得したときでいいな。
レッドとは相変わらずの関係だ。レッドは俺たちにガンガン話しかけてくる。こういう陽キャは、苦手だけど、悪い気はしない。少なくとも、敵意は向けられていないからな。
前世は俺のきもい容姿もあって、陽キャからの敵意むき出しだった。今世は本当に恵まれている。
そんな感じの、何もない普通の生活を送っていたある日、ユリアと俺に近づく奴が現れる。




