第39話 あんまり事ってうまく進まないよね
今日は疲れた。まさか本気でユリアを殺そうとしていたとは。あの赤髪ヤンキー、口だけじゃなかったのか。
ユリアはネクラを見送った後、くるっと俺の方を向いて話しかけてくる。
「その、またチー君に助けられちゃったね。ありがと」
「あ、はい」
「その、こうなること分かってて、最近ずっと起きてたの?」
「まあ、はい」
「だから最近授業中に寝てたんだね……。その、迷惑かけてごめんね?」
「えっと、ユリアが気にすることないです。その、全部あのヤンキって奴が悪いってことで」
「そう……。やっぱり、チー君って、すごい優しいよね。ネクラ君のことも許してあげてさ」
「本当の事言っただけなんすけど」
ユリアだって優しいじゃん。殺されそうになった相手を許して、しかも治癒までしてあげるか?
「それと、ちょっとショックだったんだけど」
「え?何がっすか?」
「私の事、『大切じゃないです』って言ったよね。しかも即答で」
「はい」
「素直に肯定された!?」
ユリアは「むぐ~」と唸りながら、ぷいっとそっぽをむいた。まあ、俺に大切なもんなんて、そもそも無いからな。ユリアは……大切ってほどじゃないけど、まあ、友人以下って感じだ。信頼してないわけではないけど、信頼してるわけでもない。自分でも何言ってんだ。
とりあえず今日は寝てないから眠い。明日も早い。
「眠いんで、もう寝ます」
「そう……だね。おやすみなさい。チー君」
俺は自分の部屋へと戻って、そのままベッドにダイブした。
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後日、学園に着いた俺とユリアは教室ではなく職員室へ行き、担任のリーファに昨日のことを相談することにした。あ、説明苦手だから、事情はユリアに全部任せた。
「なに?ヤンキがユリアの暗殺の依頼だと?証拠は?」
リーファは呆れ顔で机に肘をついて聞き返してきた。証拠か。この世界ってカメラとかも鑑識とかもないし、こういう時めんどくさいよなあ。ユリアが顎に手を当てて困ってる様子だ。
う~ん、ネクラのあの依頼書を見せれば解決なのだが、それを見せてネクラが暗殺者とバレると、ネクラがめんどくさいことになりそうだ。さすがに、ネクラも暗殺家業はバレたくはないだろう。
仕方なく、リーファに、ある提案をしてみることにした。
「えっと、その、多分、ヤンキはユリアが殺されて死んでいると思いこんでるはずなので、その、必ず、何か証拠になるようなボロを出す、と思うんすけど……」
「……まあ、お前たちを見る限り嘘をついているようには見えない。ひとまず、お前の言う通り、ヤンキを観察してみる。時間もちょうどいい、教室へ行くぞ」
俺とユリアはうなずいた。
歩いて移動中、ユリアは俺のわき腹を小突く。
「うひ!?」
「あのさ、説明できるんなら最初から自分でしてよ、こういう時いつも私が説明してるけど」
「いや、だって俺説明力無いし、どもるし、あの人怖いし……」
「まあ、チー君らしいけどね」
ユリアは苦笑した。かわいい。
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俺達は教室のドアの目の前に着いた。俺は上手く行くのか不安で、手が震えていた。
ヤンキがユリアを見てどんな反応をするのか、それとも何もなかったかのように振る舞ってくるのか。
まあ、ああいう単純な奴は簡単にボロを出してくれるとは思うのだが。そして念のため、先生とユリアには教室のドアの前で待機してもらい、俺だけで教室に入ることにした。
俺だけで教室に入って、ユリアが死んだと伝えれば、ヤンキはボロを出してくれるはずだ。あいつバカそうだし。
俺はいつものように、無表情で教室に入る。いつもと違うのは、1人だということだ。ユリアは胸をぎゅっと押さえ、俺を見守っていた。
さて、俺はさっそく教室を見回す。ヤンキは……見つけた。俺のいつも使っていた机の上に座って子分と談笑していた。チッ。お前のきたねえケツのっけんじゃねえよ。
あ、いや、別に席は自由だから誰が座ってもいいんだけどさ。
なんで陽キャ寄りの奴らって勝手に人の席や机に座ったりするんだろうか。前世でもよくされたけど、きまずいからやめてほしいものだ。トイレとか言ってる間に自分の席に陽キャどもがいたらだるい。人の迷惑考えられないの?
まあそれは置いといて。
ヤンキはさっそく俺を見つけ、ニヤリとこちらへ近づいてきた。
「おいおい、どうした?いつも一緒に登校してたあの茶髪美少女ちゃんはよお?今日はいないようだが?」
随分と嬉しそうに話しかけてくるじゃねえか。ヤンキの大声で、周りでざわざわしていた教室は静まり返る。いやだ、注目しないで!?
でも、今はそんなこと気にしている暇はない。もう少し、絶望している演技をしながら、泳がせてみる。
「……死んだ」
と俺は小声でつぶやいた。これでどうだ?ボロを出すか?だが、奴は俺を見て、今度は教室のドアの方を見た後、悲しそうに言う。
「そうか。死んだのか。それは残念だったな。でも、あの教室の外の前にいるのは誰だろうな?」
こいつ……。俺は拳を無意識に握りしめていた。意外にも冷静だった。こいつのことをバカだと思ってたから、ぺらぺらと証拠を吐いてくれると思ったんだが、暗殺が失敗したのをすぐに察して態度を変えてきやがった。
まずい。俺は横目で周りのクラスメイトを見る。クラスメイトの視線は、疑念を持ちながら俺の方を刺していた。俺は頭が真っ白になりそうだった。これじゃ俺がユリアを殺したみたいな、嘘をついているみたいじゃないか。俺が疑われるのは必然、このクラスでの俺の信頼など0に等しい。また、俺の人生が――
「ちょっとチー君、私を勝手に殺さないでよ!」
「あ、え?あ、ああ、いや、面白そうだから」
「面白くないよ!もう……もっと面白い冗談言ってよ」
静寂の中、ユリアの声が重い空気を切り裂いた。そのまま俺のところにむくれ顔で駆け寄ってくる。ヤンキはチッと舌打ちして俺を睨み、遠くの席に歩いて行った。
ユリアが今のファインプレーを起こさなければ、ただでさえ低い俺の評価はがた落ちだったかもしれない。いや、今冷静になってみれば、どちらにしてもユリアが生きてる限りは、俺への疑いは晴れるから社会的に終わることはなかったとはいえ、さすがにビビった。
恐らく、俺の「ユリアが死んだ」が冗談という風に通じたんだろう。俺への疑いの視線はいつの間にか消えて、ざわつきを取り戻していた。
ユリアのおかげで助かったとはいえ、リーファに証拠を示せなかったのはキツイ。ネクラの持っている依頼書を見せれば一発なのだが、ネクラの身元バレを避けるためにも、それはやはり避けたい。
くそ、ヤンキめ、意外と冷静で頭がキレる。リーファは教室に入ってくるが、さっきの俺たちの話はまるでなかったかのように、いつも通り号令をかける。
「お前ら、席につけ」
結局リーファに証明できずに終わった。くそ、どうやってあのヤンキを地獄に落とせるか……。
今回は俺の負けだが、いつか絶対カネズーキ家をぶち壊して、ヤンキの絶望した顔を見ながら煽ってやるんだ……(※一応主人公です)




